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戦場の葬送曲  作者: 曇空 鈍縒


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行動開始

「カヤ。状況を教えてくれ」

 バンの中で、ザルノフが別任務にあたっていたカヤに連絡を取る。

「とりあえず各特務機関部隊に連絡して、養成した部隊の編成を行っているところ。僕の運用しているテロリストにも指示を出したから、あとは実行命令を出せば行動を開始できる」

「助かるよ」

「だけど、規模は予定の三分の二程度だ。成功するかは微妙なところだね。全く、工作員ぐらいちゃんと警戒しておいてくれ」

 カヤは、呆れたため息をついた。

「悪いな。流石に平和団体が軍事訓練を受けようとしたら不審に思われることぐらいは、ちゃんと考えておくべきだったよ」

 ザルノフは、特に悪びれもせず笑いながらそう言う。

「すでに情報調査室はAPMC社に対して調査を開始しているし、それに抵抗した社員のせいで、帝国内では散発的な戦闘が発生している状況だからね。正直言って、結構まずい」

「それじゃあ、もう明日の早朝にでも始めてしまうか」

 カヤは、状況に見合わず明るい声でそう提案した。

「そうだな。大きな花火を打ち上げよう」

 バンの目指す先には、美しい高層建築物が立ち並ぶ世界最大の都市圏、ザルカ帝国首都が鎮座していた。


「今日は首都のホテルに泊まる。俺たちの任務は、テロ開始と同時に共産党中央委員会の設置されているオフィスビルを襲撃し、それを制圧することだ」

 バンの中で、ザルノフが説明をする。

 地下交通網には、あちこちに大きな立体駐車場が存在している。

 ライツはそれらの一つにバンを停車させた。

 今回のテロでは、地下市街地でも爆破テロを中心とする破壊工作が行われる。

 地上のあちこちで陥没を発生させると同時に、地下交通網を完全に麻痺させるのが狙いだ。

 駐車場はほとんど車で埋まっていて出入りも激しい。

 地上へと行く人々は、まさかあと数時間後に愛車が瓦礫に押し潰されるなんて、想像もしていないだろう。

 シャーナは、それを少しだけ気の毒に思った。

 もちろん、失われた愛車を悼むことができるのは、運よくこの大規模テロを生き残った上で、さらに続く内乱まで命をつなげればの話だが。

 いや。まだ作戦が成功すると決まったわけではない。

 作戦が失敗したら、逆にシャーナたちが文字通り生き埋めにされる可能性すらある。

 敵国の民を気の毒に思っている場合ではないな。

 シャーナは気を引き締め直した。

 地下立体駐車場は、隅の方にある大型エレベーターで地上に登ることができる。

 ほとんどの立体駐車場エレベーターにある、薄暗くどこか寂れた雰囲気は全く感じさせず、丁寧に清掃されていて綺麗だ。

 ライツがボタンを押すと、エレベーターはほんの数秒でやってきた。

 かなりの速度で上下しているらしい。地下数十メートルに及ぶ交通網を滞りなく運用するのに十分な性能がある。

 シャーナたちがエレベーターに乗り込んで12階のボタンを押すと、ドアがすぐに閉まり、エレベーターは、耳に違和感を残す速度で上昇を開始した。

 シャーナはつばを飲み込み、耳の違和感を消す。

「ちなみに、ホテルの予約はしたか?」

 静かなエレベーターに、その声は妙に響いた。

「え? 必要ありましたか?」

 ザルノフの言葉に、事務を統括しているライツが返事をする。

「いや。ザルカ帝国首都は世界屈指の観光名所だ。俺もAPMC社の社員だった時に来たんだが、予約を取り忘れてAPMC社の事務室で寝たからな」

 これは、必ずしもライツが悪いわけではない。

 分隊の責任者であるザルノフが言うべきだったとも考えられるし、気付いた人が予約をするべきだったとも言える。

 だが状況が状況だったし、ザルカ帝国陸軍に包囲された訓練場の生徒は一晩中野宿なので、シャーナたちが野宿することに必ずしも問題があるわけではない。

 ただ一つ言えることは、彼らが今夜の宿を取れる可能性は大きく下がったということだ。

「悪かった。俺が予約した方が良かったな」

 ザルノフは頭をかいた。

「まあ、まだ宿泊できないと決まったわけではありませんし、とりあえず探しましょう」

 時刻はまだ午前4時を過ぎたところで、時間は十分にある。軍人はどこでも寝れるが、もちろん快適なベッドがあった方が望ましい。

 だが彼らは、観光地の宿泊状況をなめていた。

「とりあえず一室ですか」

 1時間、各情報網を使って探し回り、結局見つけられたのは1部屋のみだった。

 それも、ギリギリ2人部屋を名乗れる程度の狭い空間で、インターネット上の画像によれば、外観もやや綺麗な廃墟といったレベルだ。

 なんなら車中泊の方がマシかもしれない。

 なぜ倒産しないのか不思議だったが、多分、他に選択肢がなくて仕方なくここに泊まる多くの人々に支えられ、生き延びているのだろう。

 実際、シャーナたちが予約して満室になった。

 スマートフォンで予約を終えたシャーナたちは、ビルの谷間に横たわる公園のベンチで、弁当の夕飯を済ませる。

「車中泊と部屋の2チームに分かれますか」

 ライツが、そう提案した。

「どうやって?」

「ジャンケンとか?」

「特殊部隊がじゃんけんって間抜けな響きだね」

 サリアが、ライツに突っ込んだ。

「じゃあどうします?回転式拳銃でロシアンルーレットでもやりますか?」

「3人減らして2人で宿泊か。そうする?」

 サリアとライツの間に、緊張感のある空気が流れた。

「じゃんけんにしますか」

「そうだね」

 車中泊かあのぼろ部屋か、究極の選択だが、結局勝つか負けるかは運次第なのでシャーナにできることはない。

 数回のあいこを挟んで、まずガーランが勝った。

 次にシャーナが勝った。

「お前らか。じゃあ、明日の5時に地下駐車場集合で。それじゃあな」

 ザルノフたちは、そのまま地下駐車場のバンに向かう。

 テロの決行時刻は伝えられていない。

 それは、この場にいる誰もそれを教えられていないからだ。分隊長にまで告知されないなんて、まずあり得ない。

 それだけ特務機関が、今回の作戦を徹底的に隠蔽したいことがわかる。

 もし失敗したら、その時点でアトラ連邦が詰むからだ。

「じゃあ、俺たちも行きますか」

「そうだね。明日は早いから、早く寝よう」

 ガーランとシャーナも、宿がある郊外へと向かった。


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