後始末
仮装巡洋艦は、数日ほどでアトラ連邦の民間港に辿り着く。
到着する時には、シャーナの腕もほとんど完治していた。
カヤはまだ松葉杖をついていたが、骨折もだいぶマシになっている。
作業員の行き交う桟橋の上で、松葉杖は少し目立った。
「久々の陸地だな」
シャーナは心地良さそうに目を細める。
クレーンが忙しく動き回って、接舷した商船から荷物を下ろしている。
「迎えのバスが来ています。早くいきましょう」
ライツがスマートフォンを取り出して、そう言った。
港を出て、路駐しているスモークガラスの小型バスに乗り込む。バスの運転手は、実在するバス会社の制服を着ていた。
そのほかにも、灰色の作業服を着た4名の人がまばらに座っており、一見すると単なる通勤バスだ。
彼らが服の下に拳銃を隠していることには、シャーナも気づいていた。
シャーナたち6名は、そのままバスの座席に座る。
ドアが閉まって、バスが出発した。
シャーナは窓に頭を寄せて、外の様子を眺める。
そこは良くも悪くも普通の町だったが、ふと崩れたビルが映った。
微かな硝煙の匂い。崩れたビルの周りには黄色いテープが張られていて、立ち入り禁止であることを示している。
道路の方に崩れた瓦礫は多少撤去されたようだが、まだ消しきれていない。
ミサイル攻撃や爆撃の爪痕は、目立ちにくくも至る所にあった。
まだ戦線が膠着する前は通常弾頭の弾道ミサイルが飛び交ったし、戦略爆撃機による都市爆撃も盛んだった。
この街も、その被害を受けたのだろう。
侵略者たるザルカ帝国にとっては、街だろうが軍事基地だろうが同じだ。
そこに人がいる限り、彼らは銃を向けてくる。
ならば、特務機関がザルカ帝国を内側から食い荒らそうが、構わないか。
敵よりもこちらの方が、殺す数は少ないのだから。
バスは山道へと入っていく。森の木々が、その姿を覆い隠した。
ある日の夜。
訓練を終えたシャーナは基地の女性部屋で、自由時間を過ごしていた。
最大16人を収容する部屋は細長く、左右の壁に机と二段ベッドが交互に並んでいる。
内装には温かみがあり、床には絨毯まで敷かれていて、リラックスできる空間だ。
今まではシャーナ、サリアの2人で使っていたが、現在は新しくカヤが加わった。
工作員だが戦闘能力も高く、ザルカ帝国に精通するカヤは、傷の完治を待ってシャーナの分隊に入ることになったようだ。
現在、机に設置したノートパソコンに向かって作業をしている。
「何してるんだ?」
「ん?ハッキングだよ」
シャーナの問いに、カヤはサラッと答えた。
「ザルカ帝国に押さえられた顔写真の削除? 大変だね」
サリアも、読み途中の本から目線を上げることもなく、そう言う。
だがサイバー戦に関する知識があまりないシャーナは、状況が飲み込めずにオロオロした。
「大丈夫なのか?ここが特定されたりはしないのか?」
「問題ない。torっていうインターネット通信を匿名化するプログラムを使用しているから、逆探知は不可能に近いと思うよ」
言っていることの半分も分からないが、とりあえず大丈夫だと信じることにした。
「カヤのプログラミング技術はすごい」
サリアはそう称賛した。
シャーナは、カヤのパソコン画面を覗く。
黒い背景に、白い文字が次々と表示されていく。
そこで何が起きているのかは全く分からなかったが、カヤにとってそれがさして難しくないことは、その表情を見れば分かった。
「ねえ、仕事終わったら飲まない?」
カヤが、そう提案した。
「いいな」
「準備するよ」
シャーナが賛同して、サリアが冷蔵庫からビールを取り出す。
宴会の準備が終わるころには、カヤは全ての作業を終えてパソコンを閉じた。




