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戦場の葬送曲  作者: 曇空 鈍縒


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19/33

射殺

「突破はできたが、この後どうする?」

 シャーナは、ライツに質問する。

「ナンバーは控えられたでしょうから、ゲートから高速を出るのは不可能ですね」

 ライツはそう答えた。

「じゃあどうする?」

 シャーナは更に聞く。高速道路を出ないと沿岸に着けない。もし時間に遅れたら、工作船は待ってくれないだろう。

「徒歩で外に出られるサービスエリアを使います」

 ちゃんと策はあったようだ。シャーナは少し安心した。

 徒歩では工作船との合流時間に遅れる危険もあるが、装甲もないバンで警察に封鎖されているゲートを通過するよりはマシだ。

「警察の展開能力から考えても、サービスエリア全てを即座にカバーすることは不可能。ただ、10分もあれば各サービスエリアにも警官が派遣される」

 元警察官のサリアが、短機関銃の弾倉を交換しながら発言する。

「サービスエリアに派遣できる警官の規模はどのくらいだ?」

 ザルノフがそう聞く。

「最初に来るのは、おそらく2〜4名程度」

 サリアは、少し考えてから答えた。

「その程度なら最悪強行突破もできるな。到着時間に遅れるのが一番まずい。できるだけ目的地に近いサービスエリアを使え」

「了解」

 ライツは、車を加速させた。

 緊張しているからか、その動きもいつになく荒っぽい。

 幸い、警察車両に鉢合わせることも検問に引っかかることもなく、彼らはサービスエリアにたどり着けた。

 やや広い駐車場にトラックが二台ほど停車していて、奥の方に薄汚れた公衆トイレがあるだけの、ずいぶん寂れたサービスエリアだ。

 シャーナ達は車を降りる。幸い警官の姿はない。まだ到着していないのか、あるいは人手不足でここまで手が回っていないのか。

 ガーランが、歩けないカヤに肩を貸した。

「歩けるかな?」

「うん。なんとか」

 カヤは肩を支えに何歩か歩いて、そう言った。

「シャーナさんの腕は大丈夫?」

「ああ。問題ない」

 ガーランの気遣いに、シャーナはそう答えた。

 血はまだ止まっておらず、ガーランが車内で巻いた白い包帯に、どす黒い血の染みが浮かび上がっている。

「もたもたしている時間はない。行くぞ」

 ザルノフの呼びかけで、彼らは一斉に歩き出した。


 潮風の香りがする市街地はしんと静まり返っている。

 人気がないのは都合がいい。6人もの人間(それに2人は怪我をしている)が集団行動しているのはかなり人目を引く。

 乗用車が通り過ぎ、シャーナ達の姿が車のヘッドライトに浮かび上がる。

 ほとんどの運転手は彼らに違和感を感じたが、わざわざ車を止めることはない。

 不審者が歩いてたとして、わざわざ車を止める運転手など警察官ぐらいだ。

 それは分かっているが、シャーナは車がそばを通るたびに、緊張で心臓が痛むほどに高鳴った。

 海辺はもう目前で、コンクリートで舗装された沿岸に停泊する小型の漁船が見える。

 あれが工作船か。ようやく離脱できる安心感に、シャーナはほっと息をついた。

 その時、一台の警察車両が、こちらに向かってきていることに気づいた。

 まさか自分たちの方に向かっているわけないか。

 シャーナは湧き上がってきた不安を打ち消すためにそう考えたが、それは外れていた。

 警察車両はシャーナ達のすぐ横に停車し、中から警官が2名降りてくる。

 ライツとサリアがコートの内側に手を入れたが、ザルノフがそれを制した。

「すみません。ちょっと職質いいですか?」

 片方は中年で、片方は若い。シャーナ達に声をかけたのは中年の方だ。

「あ。今急いでいるんです?」

 ガーランは逃げることを試みる。

 撃ち殺すのは簡単だが、可能であれば避けたい。

「あ。すみません。拒否は認められていないんですよ」

 警察官は、丁寧に説明した。まさか、自分が武装した敵国の工作員に話しかけているなどとは露ほども思っていないようだ。

「あ。そうなんですか」

 ガーランは引き下がる。決定的な証拠が発見されなければやり過ごすことも無理ではない。

「はい、ご協力ありがとうございます。ところでそこの2人は怪我をされていますよね」

 警察官は、ザルノフらの後ろに立っているシャーナとカヤを見て、そう言った。

「はい。そうですが何か?」

「怪我の度合いから見て救急車を呼ぶことをお勧めします」

 中年の警察官は、若い方に救急車を呼ぶように言った。

 おそらく、暴力団か何かの抗争で負傷したと思っているのだろう。

 だが、警戒というよりはむしろ心配しているような感じだった。

 若い警官が、救急車を呼ぶために警察車両に戻る。

 救急車を呼ばれるのはまずいな。だが自分たちを心配してくれた相手を撃つのは憚られる。

 シャーナが迷った次の瞬間、ザルノフのゴーサインを受けたライツとサリアが拳銃を構え、引き金を引いた。

 減音機で絞られた発砲音がくぐもって、2人の警官は頭に穴を穿たれて倒れる。

 しばらくして、血溜まりがアスファルトに広がった。

「行くぞ」

 ザルノフはそう指示して、彼らは何事もなかったように歩き出す。シャーナは立ち止まりかけたが、それは一瞬だった。

「遺体は放置でいいんですか?」

 ガーランがそう聞いた。

「構わん。どうせ見つかる頃には、俺らは国外に出ている」

 ザルノフはそう吐き捨てた。

 数分後、彼らは漁船を装った工作船に乗り込んで、洋上待機する仮装巡洋艦を目指していた。

 工作船の操縦室では漁師のような服装をした工作員2人が舵をとっており、天井の低く薄暗い船室には、シャーナら戦闘員が沈痛とした空気をまとって乗り込んでいる。

「シャーナさん、気分はどう?」

 波が荒いからか、船内はひどく揺れている。

 ガーランはシャーナの体調を気遣った。船酔いもそうだが、初任務にしては過酷すぎたことをガーランは案じていた。

「‥‥あまり良くない」

 シャーナは、顔を伏せたままそう答える。

 任務が成功したと言うのに、彼らの表情は暗かった。

 一般部隊ならば、上官の命令という免罪符のもと引き金を引ける。

 だが特殊部隊は、『撃て』の号令で引き金を引かない。自分で敵を選び殺す。

 それができる判断力と覚悟を持つのが、特殊部隊だ。

「殺したことは気にしない方がいい。敵国の人ってことを忘れない方がいいよ」

 ガーランは、力強くそう言う。

「だが」

「そうやって割り切るしかないよ。シャーナさんの敵は何?」

 ガーランは、諭すようにそう聞く。

 シャーナは何も言わない。

 工作船は、夜の闇に黒々と染められた海を進み続けている。

 水平線の向こうに、仮装巡洋艦が見えてきた。


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