侵入
それから1時間ほど全く整備されていない山を登り、ようやく施設の近くに到着する頃には、あたりはすっかり闇に包まれていた。
シャーナは、暗視装置を目元に動かした。宵闇に黒く塗りつぶされた視界が、濃淡のある緑に浮かび上がる。
「シャーナはここで狙撃銃を構えろ。歩哨2名を射殺してくれ、俺たちは左右に分かれて突入する」
彼らは木の陰に潜み、敵施設を睨んでいた。
施設は背の高いフェンスで囲まれていて、簡単なゲートになっている入り口付近には、拳銃を腰に吊った2名の歩哨が立っている。
距離はシャーナたちと150mも離れていなかったが、隠密行動中の特殊部隊員を見つけるのは、熟練兵でも至難の業だ。発見される可能性は低い。
シャーナは地面に伏せて狙撃銃を構えた。
連続で2人を射殺する必要がある。
シャーナはスコープの倍率を調節して、基地の様子を確認した。
中央にコンクリート製の建物が一棟あるだけの簡素な施設だが、その屋上には通信兼見張り用の鉄塔が立っており、サーチライトが回転している。
歩哨の2人を射殺したら、見張り塔の敵も撃つか。
幸い、敵のほとんどは拳銃しか携行しておらず、短機関銃などの連射性能が高い銃器を持っている者は少数だ。
動きから見て、練度も想像していたよりは高くなさそうだ。
いや。
シャーナはふと、妙に動きが鋭い一団がいることに気づいた。自動小銃を持ち、陸軍迷彩の戦闘服を着ている。
少し気になったが、今は目の前の敵に集中することにした。
狙撃銃の照準を、歩哨の一人に合わせる。
ザルノフ率いる突入チームが、銃を構えながらゆっくりと敵基地へ近づいていく。
彼らが歩哨の10m圏内にまで入ったところで、シャーナは引き金を引いた。
掠れるような小さな発砲音がシャーナの耳に届く。
歩哨の一人が、頭に穴を穿たれて静かに倒れた。
シャーナは素早くボルトを操作すると、倒れた仲間へと駆け寄ったもう一人の頭に狙いを定め撃った。
歩哨は、折り重なるように倒れる。
無線で襲撃を伝えることもなく歩哨は全滅した。
彼らの死体を越えて、4名の戦闘員が静かに基地へと侵入する。
シャーナは狙撃銃の銃口を見張り塔に合わせた。そこには2人の警備員がいて、サーチライトを操作している。
まだ襲撃には気付いていないようだ。
シャーナは少し考えて、敵が襲撃に気付くまでは射撃を待つことにした。
流石にサーチライトが狙撃で破壊されたら、敵も襲撃に気付く。
シャーナは建物へと突入したザルノフたちを見送って、一息ついた。
一方の突入チームは、着々と施設を攻略していた。
ドアの前に立っていた2名の警備員を減音器付き拳銃で射殺すると、不足している弾薬を奪って施設へと侵入する。
入り口近くにいた警備員は、ドアを蹴破って突入してきた相手に虚を突かれた。
その1秒に満たない動揺も、特務機関の戦闘員にとってあまりに長い。
警備員は直後に頭を穿たれて倒れる。
戦闘員たちはザルノフを先頭に廊下を進んでいく。床に広がった血溜まりを踏む微かな音が、静かな廊下に響いた。
ザルノフたちは、全員がそれぞれ別の方向を警戒しており、隙が全く無い。
運悪く鉢合わせた警備員は、そのほとんどが自身の武器を使うどころか、構える間すら与えられずに射殺された。
T字に分かれている廊下の突き当たりで、ザルノフが片手で拳銃を構えたままハンドサインで指示をする。
彼らは2手に分かれて、施設の捜索を開始した。
ライツが警備室の札がかかったドアを開けて、待機していたサリアが室内を短機関銃で射撃する。
防犯カメラの情報を確認していた警備員たちは、振り返ることもなく後頭部を抉られて倒れた。
血がディスプレイに飛び散る。
ザルノフたちは防犯カメラの死角を通り抜けていたので、ここからは事態を把握できなかったのだ。
防犯カメラの映像には、死体すら映っていない。
2人は敵の全滅した室内に入ると、制御盤を覆うように倒れた死体をどかしてキーボードを叩く。
ほんの数秒で、施設の設計図が大型ディスプレイに表示された。
ライツはそれに素早く目を走らせる。
「尋問室は地下2階です。おそらく、そこにカヤさんもいます」
「了解」
ライツの無線連絡に、目の前の敵を射殺したザルノフは短い返答を返した。
短機関銃で武装した警備員が、こちらへと迫ってくる。
静かだった廊下が、徐々に騒がしくなってきた。
「流石に気付かれたか」
ザルノフは、自身の散弾銃を構えた。




