魔欲
七日前の夜が嘘かの様に僕はそこにいた。
暖かかった手と手は今はものを持つだけに成り下がる
死体はそのまま、凶器は柄の部分だけ持ち帰った。
平坦すぎる。
この道には何も無い。
そのはずなのに━━何かは微かな怨熱を孕む。
僕の鼓動は、今や存在し輝き続けるだけの何か。
胸は心を動かしているのに、あるはずの心が無い。
壊し続けるだけ。
瞳は光を取り込む。
心は何かを照らしているはず。
けれど、照らしているはずのものが見当たらない。
照らされていたはずだった《それ》が欠けているのに
息が苦しい。
踏んだものは外側だけじゃない。
内側の何かを僕は踏み、自分の足を引っ張っている。
光を取り込む度に、それが薪となり火にくべられる。
これは、終わりじゃない。
目に映る全てから目を離しているだけだと。
離していないと何かが燃えてしまうから。
屈辱的な何か、指、鼻先。
静かすぎる世界は、焚き火の周りの石だと。
火はいまだに燃えてはいないが運命がいつ
息を吹きかけるか分からない。
それまでは足るを知ろうじゃないか、石のように。
だが、石のままでいられる時間なんて、本当は無い。
静かにしていれば忘れられると思っていたのに、
七日前の夜の“残り”は、まだ爪の間にこびりついている。
風が吹くたびに、それが疼く。
脈と一緒に、じわりと赤い光景が蘇る。
あの温度、あの軋み、あの沈黙。
忘れられるわけがない。
忘れようとするほど、内側が熱を帯びていく。
ついには、光より先に僕自身が燃え上がる気がする。




