種火
息を肺に取り込もうとしたが
思いの他冷たい空気が肺を醒ます季節に、感動した。
人生とは、寒さの中に温かさがあると言う名言がある
が、それは綺麗事であり世迷言だ。
人生は楽しんだもん勝ち。
や、ただ何も考えずに生きている人間は、利用される
そのような事を言うような世間は、「楽しめる環境」
に産まれた上での悩みである。
…産まれながらに不幸な人生を、
歩むことが決まっている僕は存在していいのだろうか
ただ僕は日常を闊歩する事に疲れただけなんだ。
誰も僕を止められない。
そして僕は人を殺した。
それが誰だ何て分からないし、結果論誰でもよかった
僕の不幸を、辛みを、エグ味を知って欲しかった
ただそれだけだったんだ。
この夜、吐く息が白く凍る駐車場、僕は息を殺し
運命が頷くのを待っていた。
手に残る、肉の触感。
冷たいアスファルトに広がってゆく、暖かく穢らわしくも美しい鮮血。
まるでそれは、世の噂の様に、広がってゆく。
どれだけ、手を伸ばしても届かなかった光が。
今やただ会った人間に差し込んでいる。
身体に振動が伝わる。
興奮によるものか、寒さによるものかは
どうでもよかった。
運命はいっつも僕を裏切ってきた。
飛び降りる寸前。努力が僕を生かした。
錠剤を口に入れる寸間、別の運命が僕を訪ねた。
全てが僕の運命を無へと回帰させる。
世界は悪に満ちた、偶然だった。
この夜は、好きだ。
汚れを運命も僕を隠してくれる。
まるで、瞼の裏を見続ける様に。
僕は、冷たい空気が肺を醒ます事に、感動した。
と同時に理解した。
僕が求めるもの、「死」これは終焉を意味しない。
これは、この世界に対する最後の抵抗であると。
つまるところ、それは破滅の始まりでなければ
ならないと。
僕が求めたものは全て、運命が与え、心を動かした。
それは畢竟、地球が回るのと同義だ。
彼等の生き様は、どうも無防備で、幸せそうだ。
僕はそれを拒絶した。
人の幸せが憎かった、辛かった、無くしたかった。
だから
殺した。
僕の感じていた苦しみは、
大海の様に紅く地面を照らす
地に太陽があるかのように。
誰も、僕を咎めなかった。
人も、運命も、絶望も、光も、闇も。
僕の心臓は、ただ動くメトロノーム。
寸分の差も感じさせないような脈動を繰り返している
冷たい機会。
求めていたピースが埋まるような感覚だった。
完成の静謐さだけがあった。
僕は、殺した。
ただその事実が、世界を灯していく。
種火の様に。




