みんな大好きB08
有休は2日と伝えられていた。長いようで案外短かった。
初日はレイシアに騙されて一服盛られ、翌日はデーテルを利用して新しい課題を得た。
隠し撮りした主砲の画像を自室で展開。ハルモニに質問しながら、第7話で起こり得る悲惨な事故を例えとし、探っているといつの間にか夕飯の時間になっていた。
食いっ逸れるわけにもいかず、仕方なく食堂に足を運ぶ。レイシアお手製のドラッグサラダ再登場。地獄を見た。だってもう、デーテルが身代わりになることはないもんな。
野菜のエグみを噛み締め、錠剤と栄養剤だけは水で飲み干し、それを完食してからやっと夕飯を開始。炊事兵たちの安心したって顔を見ると居た堪れなくなる。
かなり遅めだったのでソータたちはいない。俺ひとりで寂しい夕飯を終え、プレートを返却して食堂を出た。
明日から職場に復帰する。
とはいえビームシールドはまだ完成していないし、ジャケットも完成したし、やることがあまり無い。プロトタイプの調整と、ミチザネ隊のミーティングに参加してみるか。
忙しいのはその次の日。プロジェクトの最終過程。実証実験だ。
本当に作動するのかを、ガリウスGに装着して試さなければならない。
「いや………それは俺がやらないとな」
俺が作ろうとしたビームシールドは、元からソータたちナンバーズや、シドウのカスタム機に搭載する予定はない。過程で量産され、全員が素体を改良したあとで、空いたわずかなスペースの穴埋め程度に活用できればいいと思った程度だ。
俺の本当の勝負はここからだ。その本当の勝負はあともう1回あるのだが、手は抜かない。
試作ビームシールドは俺のプロトタイプガリウスGに装着し、実験するつもりだ。
いつもはドッグに固定され、宇宙空間を駆け抜けるドローンカメラの操縦をするためだけに使っていた機体だが、数週間ぶりにプロトタイプを宇宙空間に出す。
カイドウを説得するのは骨が折れそうだが、プロトタイプはナンバーズと比べてそこまで需要があるとは思えないし、もし潰れても換えが効く。互換性のあるパーツはナンバーズのストックにしてしまえばいい。ドローンカメラの操縦に必要なのはコクピットだけだしな。俺の今後の進退には影響もない。
「いざとなったらシドウ少尉を説得して、おやっさんに進言してもらって………あ」
「あ」
どうにもカイドウに怒鳴られそうな未来しか見えなくて、後頭部をガリガリを掻きながら通路を歩く。
すると進行方向に、ひとりの少女がいることに気付いた。
顔を上げると向こうも気付いたようで、パァと明るい悪魔みたいな笑顔を浮かべる。つまり作っただけで、本心は笑ってすらいない。
「こんばんは、ノギ先輩」
「ああ。ヒナ」
そういえば、ヒナの説得と謝罪をしろと、方々からきつく言われているのだった。
昨日と今日はどうしても予定が合わず、会えなかった。ノギ先輩呼ばわりされた日なんて面会謝絶だもんな。
一丁、ここは覚悟決めるか。
「ヒナ。丁度いいや。聞いておきたいことがあったんだ」
「なんですか?」
「なんか欲しいジャケットとか、あるか?」
乙女心のなんたるかを心得ない振り出し。レイシアが見ていたら顔を覆いたくなるだろう。
でも、これでいいんだ。なにげ無い会話。これが長続きさせるコツ。デメリットは無意味な会話をダラダラ続けてしまい、真意を聞くまでには至れないこと。
「別に、いらないですよ。ソータくんはファストパックっていうのを付けただけだし。私もああいうのでいいです」
「そっか。装備はどうだ? 専用のものなんかほしくないか?」
「いえ。特には」
都合、この第6話で退場することになるヒナと六号機は、立体化されていない。
初期から生産されファンと転売屋の奪い合いになったソータの一号機は当然。ハーモンの三号機やシェリーの五号機はジャケットと装備からラインナップに載り、次いでユリンの二号機とコウの四号機の生産が決定する。
ヒナだけが立体化されていないのは早期退場した他に、二号機と四号機との差別化ができなかったからだ。頭部の微細な違いや、微々たる武装の違いしかないため、同じものをカラーリングを変更しただけでは長続きしない。ゆえにファンたちは既存のキットを塗装し、ワンポイントの改造を施して六号機を作った。そこまで難しいことではない。
「話は終わりですか? じゃ、私はこれで」
「いや………まだ終わってないよ。場所を移そうぜ? ハルモニ。レクリエーションルームに誰かいるか?」
『ノー。しかし消灯時間間際のため、一部機能が停止しています』
「それだけ聞ければ十分だ。行こう、ヒナ」
あの仔犬然としていたヒナらしからぬ反応に緊張しながら、腕を引いて誘導する。特に抵抗はされなかった。
道ゆく同級生や後輩たちには「やっとか」みたいな目で見られた。うるせぇやぃ。これでも必死にやってたんだ。
無重力区画を過ぎてレクリエーションルームに入る。ハルモニから事前に教えられたこともあり、多くの設備の電源が落とされていた。無申告で起動させると罰則の対象となるため、俺とヒナは巨大な窓ガラスのある空間まで跳躍した。
窓ガラスに手をついて、後続のヒナを受け止める。
至近距離から顔を見た。
振り向いた直後だったから、あの空虚な笑顔はなく、無表情かつ俺を睨んでいた。でも可愛い。
「ヒナ」
「はい」
「宇宙って、こうして見ると綺麗だけど………コクピットから見ると、どこか怖いよな」
「え?」
「お前たちが毎日、どんな思いをして戦っていたのか………ドローンカメラ越しだったけど、その片鱗くらいは理解できたよ。すごいな。お前」
「………いえ。そんなことは」
いつもだったら無邪気に「でしょー?」なんて笑いながら、大きな胸が揺れるくらい張るのに。
敬語と丁寧語が、逆に俺のメンタルを削るけど、構わず続けた。
「俺は、お前たちになにができるのか、してやれるのかを、いつも考えてた。チームが仲良くなればいい。連携ができれば生き残る確率だって上がる。………でも、だからって大勢に構ってちゃ、お前とこうしてじっくり話せる時間も作れなかった。悪かったと思ってる」
何様のつもりだ。なんて言われそう。
そもそも俺はヒナと交際などしていない。してはいけない。自戒を持って接している。
「サフラビオロスに戻れなくなって、そろそろ1ヶ月。みんな必死でこれまでとは違う環境で、軍事に取り組んだ。パイロットなんて過酷な仕事だ。ヒナはすごいよ。ちゃんとできてる。俺、ちゃんと見てるからわかるよ」
「………それだけですか?」
「まさか。まだあるよ」
棘のある敬語と丁寧語は継続中ではあるが、威圧感満載の笑顔は消えて、じっと睨まれる。これはこれで前進しているという証明だ。
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