みんな大好きB04
翌日。残すところあとわずかな課題をクリアすべく、俺とイリスはいつものデスクで首を傾げ続けた。
「シールドとしての概念を失いつつあるね。これはもう、防御ではなく攻撃に用いた方がいいと思う」
「それも考えたが、却下だ。当初のプランを敢行する」
ビームシールドの残りの課題である、形状維持と強度が、ここに来て最大の難関となっていた。
ロボットアニメなどではサラッと登場しては、難なくビームを防いでしまう。物理的な攻撃も同様にとは言えないが、そのシールドがあるか無いかでは雲泥の差であることは明白だ。
だがなんの予備知識も、参考書もないこの世界で、SFチックかつファンタジーアニメチックな装備をゼロから設計すること自体が、すでに正気の沙汰ではない。
イリスは俺を踏み台にするためとはいえ、よく付き合ってくれた。弱音も吐かず、諦めもせず、むしろ寝坊しかけた俺を蹴飛ばす勢いで叩き起こしに来てくれたりと。
「当初のプランね。六角形から八角形の、長方形、あるいは楕円形の形状。………ハァ。この長方形や楕円形っていうのがね。もういっそのこと、正方形や正円形でいいじゃないか。幅の差で出力の振幅が偏り、一点に負担をかけてコアの摩耗が激しくなる。ガリウスGは確かに、これまでのAからFまでの系譜にない画期的なアイデアで建造されているけど、万能ではないんだよ? 機体に負荷をかけてしまえば本末転倒だ」
「わかってる。形状については………もう、そうするしかない。でもビームの射出口をひとつだけにするわけにはいかない。剣のような形状にするなら有りだけど、それは限定的な条件下であって、シールドとしての機能を失いたくはないんだ」
「頑固だね。………いったい、なにがお前をそうまで駆り立てるんだか。エースなりの美学や哲学でもあるのかい?」
「そんなんじゃないさ。私欲に塗れた、偽善者の愚行だよ」
「ついに自虐的になったか。でもやめてくれよ? そういうのが積み重なって、倒れたって聞いた。また倒れたら俺の責任になりかねない。俺が真っ先に、お前を追い詰めたって疑われるじゃないか」
しっかりしてらぁね。イリスは。
こういう性格だから、本編ではリーダーに指名されたのか。結局スタッフにまで忘れさられたのだけど。
「正方形か正円形ね。自分で言ってなんだけど、エネルギー効率は改善されたけど、これで維持できるものかね」
「それはやってみねぇとわからねぇよ。一発限りの大勝負だ。………ハルモニ。正方形か正円形に変更した場合、何秒維持できる? 条件は通常の出力でいい」
『───20秒が限界です。また、敵の攻撃を受けた際、形状を維持できるかも不明です』
シールドとしての概念がそれだ。
そもそも鋼鉄の盾ではない。光学的な盾だ。
決まった形状にはならない熱と光で敵の攻撃を受け止められるのかどうかも不明。
それではカイドウも首を縦に振るはずがない。
「まるで傘みたいだ」
「は? 傘だって?」
昨日、レイシアも俺の姿勢をそう称していたっけ。
「俺たちの要求が雨の雫。ビームシールドの課題が傘。………ほら、こうして要求をぶつけても、傘にぶつかれば湾曲した表面を滑り落ちる。うまい例えだろ?」
「表面を滑り落ちる………それだ。そうだイリス! 傘だ! お前、うまい例えどころか回答を導き出したかもしれない!」
「え、え? どういうこと?」
肩を掴んで揺らすと、イリスは目を白黒させて驚いていた。
けど今は、イリスに答える時間も惜しい。俺の叫びを聞いて、周りにいた整備士たちも気になって集まり始めた。
「ハルモニ! 今から言う条件で計算してくれ! いいか? 形状は正円。けど───」
俺のプロンプトは未だ茫漠的なところがあり、ハルモニにうまく伝えられなかったが、周囲はなんとなくわかったらしく、時としてイリスが、時として集まった整備士たちが条件を改善してくれた。
そして、数分後───
『マスター・カイドウが与えた条件をすべてクリア。おめでとうございます。メカニック・エース。メカニック・イリス』
「よっしゃぁぁあああああああああああ!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
ハルモニの解答で、俺とイリスは絶叫しながら歓喜し、抱き合いながら称え合う。
そこに先輩整備士たちも加わり、興奮の末に胴上げをする勢いで賞賛してくれた。
「うっせぇぞ馬鹿ども。なんの騒ぎだ!」
ドッグで鳴り響く騒音に劣らない絶叫が連鎖すれば、カイドウだって聞きつける。
「おやっさん!」
「これ見てくだせぇよ!」
「このガキども、ついにやりましたぜ!」
「あん? やっただぁ?」
バケツリレーのように俺のパソコンが整備士から整備士たちの手を伝い、カイドウに突きつけられた。
往年の天才メカニックは、蓄えた顎髭を撫でつつ、ギョロリとした双眸をシフトレバーのように忙しなく動かす。
そして、
「………意外だな。俺の予想じゃ、1年はかかると思ってたぜ。テメェも俺と同じ天才だったかこの生意気なクソガキ野郎ども!」
豪快に笑いながら俺とイリスの頭をガシガシと撫でてくれた。
「じゃ、じゃあ!」
「おうとも。約束通り、ビームシールドの製造に取り掛かってやらぁ。それからイリスは製造の部門に移動を認める。しっかりやれよ!」
「やった! やったぞエース!」
「おめでとう。イリス」
「ありがとう。お前のお陰だ!」
それは違う。半分はイリスのお陰で、功績だ。
それにしたっていざ喜ぶとなると殊勝になるんだな。俺を踏み台にすると宣っていたくせに。
「こんくらいの規模ならジャケットと違って3日で作れそうだな。よし。イリスは移動。エースは休め。テメェ、まーた酷ぇ顔色してやがんぞ。有休が半分残ってることも忘れてねぇからな。今日明日くらいは休めや。テメェは俺らよりもハードな仕事してんだからよ」
イリスとともに製造ラインに移動しようとしたら、カイドウにしっかりと襟首を掴まれ、ポイと隔壁の向こうの通路に捨てられた。
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