みんな大好きB03
「だ〜か〜ら〜さぁ〜」
「………ぁい」
「私、言ったよねぇ〜?」
「………ぁい」
「なんですぐ解決しようとしないわけぇ〜? え、もしかしてエースくんって、誰かに蔑まれるのが性癖なのぉ〜?」
「………特定のひとに限っては」
「ヘ、ン、タ、イ。バカ」
「………ぁい。私は変態で馬鹿です。救いようもないくらいの、ミジンコの方が生きてて偉いって比較されるような、微生物にも劣るゴミクズ野郎です………」
「重症だなぁ。自業自得だけど」
「………ぁい」
見知った天井の下で、俺は案内された席には座らず、あえて床の上で正座をした。
その行為に特に咎めることはなかったレイシアは、そのまま説教を開始。
その日の夜。俺はやっぱりレイシアに呼び出された。
食堂で夕食を食べていた時、ルンルンと笑顔を振りまくレイシアに突然後頭部を引っ叩かれ、連行されたのだ。
あまりの早技にハーモンとコウが出遅れた。ズルズルと引き摺られる俺を唖然としながら見送った。
それにしても最近、レイシアからの扱いが容赦がなくなってきている気がする。アニメを視聴していた頃は、本当に世話焼きで、みんなを心配する軍医のお姉さん的な印象があったのだが、もうこの頃は悪罵がデフォルトになって飛び交っていた。言葉の刃が俺の心をメンタルをごっそりと削ぎ落としていく。あとには馬鹿の抜け殻しか残らないというのに。
「ヒナちゃん、最近ここにも来なくなったんだよね」
「え?」
「だから、私もてっきりエースくんが問題を解決したんだって思ってたんだ。だってヒナちゃん、毎回なにかあるとここでお菓子食べていくから。それってストレス解消の一環になってたんだよ。紅茶とクッキーによる暴飲暴食が治まったなら、きっとエースくんがもうとっくにおいしくペロリしてたもんだと思ってたのに」
またか。俺になにを期待してんだ。相変わらずイカれてんな、このカウンセラー。
「………セクハラですよ」
「お黙り。ハァ、エースくんさぁ。あの自分の顔くらいあるサイズのおっぱいに魅力を感じないの? 私でさえ興味あるんだよ? あれで私より一回り歳が下とか、ヤバいよね。あー、でも。エースくん一度も汚れたシーツ持って来なかったしなぁ。私も迂闊だった。それは反省するとして」
できれば俺へのセクハラを反省してほしい。
「エースくん、なにを目指してるの? まだ一人前じゃない子供が背伸びしようとしてるのは、まだ可愛いから許せるけど………自分の実力を過信して、なんでもできると思ったら大間違いだよ?」
「それくらい………わかってますよ」
「ううん。わかってないの。わかってたら、こんな事態にならないもん。ヒナちゃんがエースくんを軽蔑することなんて無いんだよ? ハァ………」
………言いたいことはわかる。
俺は天破のグラディオスの起承転結を知っている。何度も見返した。最終回だけは1回だけだったけど。
大抵のことは知っている。どんな会話だったのかも覚えている。発生するイベントも、アクシデントも、喜びも、希望も、絶望も、犠牲も───知っている。
多分、まだやりようはあったのかもしれない。
効率を重視して、寝る間も惜しんでキャラクターの攻略に勤しめば、ヒナも怒ることはなかったのかもしれない。
これから出てしまう多くの犠牲者から生存させたい少数のキャラを選んで防衛に徹すれば、後悔はあれど全力で前に進めるもかもしれない。
最終回で迎える結果を、もう少しだけ改善できるかもしれない。
わかっている。わかっているけど、
「それでも………」
「うん?」
「俺は全部、救いたいんです」
「なんの話し?」
口に出してしまうと、レイシアは怪訝そうにしながら、紅茶の準備を始めた。
そう。俺は全部を救いたい。
傲慢。偽善。強欲。そのすべてを余すことなく手にしたい。利己的と誰かに蔑まれようが。
でなければ、誰がケイスマンが遺した遺産の枠外にある、異例の装備など作るものか。
犠牲者を選択する? あり得ないね。
すべては俺の推し活のため。それ以外の選択肢を持ち合わせてはいない。
絶対に曇らせてなるものか。あのふたりを。
「ねぇエースくん。きみが夢中に………というよりも必死になって作っているシールドだっけ? あれ、手を休めてもいいんじゃない? そもそも、あれはきみの仕事じゃないでしょ?」
「それは絶対にあり得ません。やりますよ、俺は。俺がやらないといけない。これだけは譲れない」
「っ………」
レイシアは俺を振り返ると、ビクッと肩を震わせた。
そんな怖い顔をしていただろうか。
だが改めて体を観察する。左手の甲に鋭い痛みがあった。
どうやら左手を覆っていた右手の爪が食い込んで、皮膚を破っていたらしい。ジャージに血が滴っていた。
「………いつかエースくんがまた壊れちゃうよ? ヒナちゃんだけじゃない。みんなからも軽蔑されるかもしれない」
「だとしても、です。ヒナに嫌われようが完成させます」
嫌われようが。絶対に。
そうだ。
この第6話で誰が最初の犠牲者になるのか。忘れてはいけないんだ。
ヒナだ。
彼女は誰からも好かれていた。パイロットでも、整備士でも人気があった。ファンからもだ。
明るい性格と笑顔が特徴。誰にでも優しく、気遣いができる。
それでいて実力のあるパイロットであり、視聴者はヒナの虜となり、これからの活躍に期待した次の瞬間。
ヒナはアンノウンに殺される。
そしてなにもかもが狂うのだ。
そんな未来、誰が選ぶものか。
俺は絶対に選ばない。
ヒナを最初に救う。犠牲者になんてさせてたまるか。
「頑固だねぇ。ほら、立って。もう、メディカルルームで自傷するなんて生意気だね」
「………すみません」
レイシアによって立たされた俺は、椅子に座ると左手の治療をしてもらう。
消毒液が染みる。けどこの痛みを忘れてはならない。むしろこの程度、ヒナを失ったソータたちの傷に比べればなんていうこともない。
ヒナはいい子だ。俺だって失いたくない。
例え本当に嫌われたとしても、生きていてほしいんだ。
「エースくんって、傘みたいだね」
「え、は? か、傘ですか?」
「そう。防雨具の傘」
唐突な例え話に目を丸くする。
「まるでひとの言葉を聞かないんだもん。私たちの言葉は雨みたい。傘に弾かれて地面に滴り落ちるだけ。他人に関心がないかと思えば、カウンセリングの結果を知りたがるし。本当不思議だよ。こんな患者さん、見たこともない」
「あ、はは。ちゃんと他人に関心はありますよ。俺だってヒナに負けず、みんなのことが大好きです」
「じゃ、ちゃんと仲直りできるよね?」
「………全力を尽くします」
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以前から「あの子」と書いていたのはヒナのことでした。
次回の更新は7時頃となりますので、お見逃しなく!
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