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コロニー崩壊A02

『おい! ふっざけんなテメェ! サフラビオロスに帰せよ!』


『痛っ………ちょ、ちょっと! 危ないからまだ立たないで! っていうか操縦席にまで来ないでよハーモンくん!』


『うるせぇ! 俺に指図してんじゃねぇぞコラァ!』


「あー………」


 ああ、この声は知っているぞ。


 可愛い可愛いハーモンくんだ。


 放送開始直後は視聴者からのヘイトの受け皿代表みたいな、典型的な反骨精神満載な不良。それがハーモンだ。リアルタイムで視聴していた頃は、俺も嫌いだった。


 でも不思議と、今になると彼が可愛くて仕方ないんだ。ケイスマンを殴りたくて仕方なかった俺の荒んだ心境を、罵声で癒やしてくれる。………別に、俺は普段から誰彼構わず罵倒されても喜ばないのだけど。


()()()()()。ハーモンは」


『ァアッ!? テメェ、誰に向かって舐めた口ほざいてやがる!?』


「あ、やべ。無線切ってなかった。ごめんごめん。あと、謝るついでだけど、俺たちはサフラビオロスに戻らないよ。戻れないんだ。聞いてのとおり、グラディオスって艦に向かうからそのつもりでいてくれ」


『ハァ!? いったいテメェにどんな権限があって───』


「ヒナ。これからコントロール渡す。………覚悟決めてくれ。グラディオスの近くに行けば助けてくれるはずだ。後ろの追従機はその救命ポッドについていく設定にしてある。今から全速力で行け。サフラビオロスには近付くな。いいな?」


 通話終了。と告げて無線を切る。キーボードを叩いて、この大名行列じみた長蛇の列から、俺だけが停止して離れた。ヒナから抗議と説明要求のための鬼電みたいなコールが鳴っているけど、応答してやれない。


 ハーマンは………そう。まるで乾物みたいなものだ。噛めば噛むほど味が出る。つまり噛んだ直後の今はなんともないヘイトの受け皿だけど、後半になるに連れて持ち味が活かされていく。


 あとで絡まれたらスルーするか………いや、今のうちに矯正するのも手か。


「エース・ノギ………スタッフロールには無かった名前。ソータたちにはエー先輩って呼ばれてた。確か………そうだ。サフラビオロスからの難民はグラディオスに収容されたあと、ソータたち以外にも軍属になるんだっけ。俺もそのひとりに入れるか………ははっ。こんな大層なもんに乗ってるって知ったら………楠木(くすのき)の奴、嫉妬で狂いそうだな」


 楠木というのは、大学で同じサークルに所属している同期だ。


 俺と同じく天破のグラディオスに魅了され、サークル内で布教した結果、多くの信者を量産した猛者。いや、もはや教主ともいえる。お陰で俺もサークル内では退屈せずに済んだ。


 文系の俺とは違い、楠木は理系だ。ガリウスの構造を機械工学の視点から解読し、独自の理論を構築できる能力。あれさえあれば、俺より今の状況をうまく打破できたかもしれない。


 楠木との出会いがなければ、今の俺の行為がただの無謀でしかなくなるだろう。


 隊列から脱し、サフラビオロスに戻る進路を取ると、隊列とサフラビオロスの中間で変化が起きた。


「………来た。マジで来た。来てほしくなかったなぁ………」


 一気に緊張が強まる。


 こちとらノーマルスーツも着用してないってのに、本当に無茶をさせる。


 それに俺が搭乗しているプロトタイプは、駆動試験用のため、まともな装備がない。


 オプション装備たるロングソードはもちろん、標準装備されているはずの膝にある高周波ナイフも、腕のバルカンも。


 こんな無防備も同然な姿で宇宙空間を航行するのは無茶がある。これではちょっと早く動ける個人の救命ポッドも同然だ。


 さて、メインカメラで捉えた異変がなんなのか。これは原作第3話で描写があり、第2クールで明らかとなる。


 サフラビオロスを襲った敵───アンノウンの出現条件だ。


「ここは太陽から遠いから、外は極度に寒い。熱源などありゃしないのに………ああ、やっぱりだ。サーモに切り替えるとすっげぇわかりやすい」


 なにもないところから出現する未知数の敵。アニメの描写にあったのは、やはりなにもないところで、光が発生するのだ。その光が変形し、巨大な蛇に似た巨体となる。序盤は蛇くらいだが、中盤から巨人然となってくる。茫漠な容姿も話が進むに連れて、確立していくのだ。


 考察スレの住民たちが論議を重ね、やがて第2クールで秘密が明かされると、当初からその論を唱えていた一部が預言者と呼ばれ、神のように扱われていたな。


 サーモグラフィーに切り替えると、メインカメラに熱源の位置をはっきりと視認する。前触れもなく、いきなり熱が発生するのだ。それは徐々に温度を上げ、100度さえも超え、もう計測できない数値となる。測定可能となるサーモグラフィーを作るのは、もっと先だ。


 けど今は、これでいい。


 敵が発生するであろう位置と時間が把握できたのなら、あとは天破のグラディオスの考察勢理系組が予想した、アニメの掟破りであとはどうにでもなる。


 掟破りなるものは、例えば特撮戦隊ヒーローものであれば五体以上いるロボットの変形と合体の途中で攻撃をする敵であったり、変身美少女アニメであれば変身中の攻撃………等々。


「安全装置作動! スラスター全快! からの───急制動!」


 ノーマルスーツすらないのに、ていうか宇宙空間での活動なんかしたことがないのに、エース・ノギの記憶と肉体を信じて、一か八かの賭けに出た。


 ヒナたちはまだ出番がある。一緒にいれば生きていられる。けど、ここで奇襲されればすべてが終わる。


 なんの覚悟もなかったけど、今決めた。絶対に俺がヒナたちを守る。原作にはなかった、語られざる裏方だ。


 プロトタイプのガリウスは、残り少ない推進剤で透かしっ屁のような前進しかできなかったが、アンノウンの撃退のためにすべてを用いた。


 フルスロットルの前進。からの急停止。背後のバーニアの勢いを弱め、両足のスラスターを弱に、肩の姿勢制御用のスラスターから、本来出すほどのない火を噴いた。意識が持っていかれそうになる。ベルトをしていなければ、今頃俺はモニターに顔面から突っ込んでいた。遠のきそうになる意識を、怒りと気合いを込めた咆哮で呼び戻す。




「生きるか死ぬかの瀬戸際で、掟破りだろうが、生きるためならつまらねぇ俺の騎士道精神なんざ捨ててやるわ! バァァァアカッ!!」




 メインカメラが熱でやられる。サブカメラにオートで切り替わる。


 内臓が押し潰されそうになる苦痛に耐えながら、目的のポイントに肩のスラスターを合わせた。


 すると、出現するはずだったアンノウンが、アニメ考察勢たちの神がかりな掟破りで、光となって弾けた。



「は、はは………おぇ………やっぱりな。アンノウンは質量をワープさせてた。熱でそれを作ってたんだっけ? SFチックな設定を作ってくれやがって………でも、ワープに必要とされる熱量を超えると、質量が維持できなくなる。考えた奴はすげぇな。掟破りを最初に考えた奴も………よし。戻らないと………あ、あれ?」



 物凄い吐き気と戦いながらペダルを踏む。


 しかし、ペダルはスカンと軽い音を立てて沈むだけで、スラスターはうんともすんとも言わない。


 今の爆発でやられたみたいだ。多分、内部でどこかがイカれた。


「え、マジかよ………ヤベェ。このままじゃ漂流確定じゃねぇか!」


 サブカメラで捉えた映像は、あと数時間後に崩壊するサフラビオロスへゆっくりと接近する機体。スラスターどころか、今の衝撃で色々壊れたらしく、俺は死を再び噛み締めながら救援信号を送った。エース・ノギの記憶が役に立つ。


 ところがどっこい。そんな俺を助けてくれたのが、中破したサフラビオロスから脱出した、新型ガリウス一号機に搭乗し、激闘を繰り広げたソータだった。接触したのでチャンネルを合わせ、通信しながらソータにグラディオスへ向かうよう指示をした。


 初めて間近で見たソータの操縦は、俺の何倍も無駄がなくてスマート。


 これが主人公補正ってやつなのかと痛感した。


Xの方でイラストを公開しております。

A先輩とヒナのイラストをアップしております。

次はこの話でアンノウンに丸腰で突撃するA先輩の勇姿を公開する予定です。これから順次様々なキャラクターをアップしたり、挿絵のようにイラストを描いていければなと思います。AIイラストってすげぇ。


作者からのお願いです。

皆様の温かい応援が頼りです。大変恐縮ですがブクマ、評価、感想、いいねなど思いつく限りの応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

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