みんな大好きA12
少年少女たちが去ったミーティングルームにて。
3人の大人たちが、気配が遠ざかったことを確認し、ドッと息をつく。
「………メンタルがバケモンとしか思えねぇぜ」
カイドウが壁にもたれかかり、オイルと汗で薄汚れた手拭いで顔を拭う。
「俺ぁ、数発ぶん殴られるつもりでいたのによぉ………見ろよ。五体満足。怪我すらしてねぇ。………本当にナニモンだ? エースの野郎は………」
「………同感だ。艦長の策が、あいつだけにはまったく通用しない。俺があえて全員の前で叱責されれば、影響が出ると思っていたが………効果がないどころか、あいつはそれさえも見抜いていたかもしれない」
カイドウに続き、シドウも渋る。
すべてはそういう段取りだった。クランドが子供たちを生還させるべく油断を取り除き、そしてあわよくば………特例で軍から身を引いて民間人に戻ればいいとさえ考えていたくらいだ。
ここ最近のグラディオスの活力は異常だ。全戦全勝。時としては紙一重の辛勝もあったが、勢いは衰えることはなかった。ひとえにパイロットたちの活躍に全員が影響されているのだ。
この事態に危機感を覚えたクランドは、子供たちをあるべき姿に戻そうとしたのだ。
クランドは軍人として、民間人の防衛には絶対に手を抜かない。より多くを救うべく研鑽し、それを矜持とし、使命としていた。
ゆえに子供たちに頼る他ない現状が、たまらなく矛盾していて、苦痛あるいは負い目に感じていた。
まさかそれが、なんの特徴もなく、無力かつ無謀で、虚弱な少年にすでに看破されていたとは思いもしなかった。
「………ふ、ふふ」
「クランド?」
「艦長?」
カイドウとシドウが恐怖を覚えていた時、クランドは突如として低く笑いだす。
「いや、すまない………」
ひとしきり笑うと、クランドは緊張の糸を緩めるかのように、襟元を緩め思い切り息を吐く。
「そうだな。これは予想外だ。私は子供たちに恨まれても守り抜くはずだった。だがまさか、たったひとりのイレギュラーな存在によって、こうも再び歯車が回り始めてしまうとは夢にも思わなかったよ」
「しかも、その歯車どもときやがったら、より密集して強烈な回転数になりやがった」
「まったくだ。遠ざけようとすれば、あちらから歩み寄る。まったく。こちらの思い描いた図面とはかけ離れていいくな。………エース・ノギ。これほどとは」
「お前がこんなにも笑顔になるくらいだからな」
「許せ。………嬉しかったのは、事実だ」
「だな」
「自分もです」
苦笑が微笑に変わる。
本来なら恨まれ、罵倒され、殴られるはずだった。ネガティブな空気に晒されて、3人は内心で謝罪をするだけで終わるはずが、たったひとりの少年の機転と、子供とは思えない化け物のような洞察力で、今の空気はどちらかといえば明るく、思わず笑みがこぼれるほどだった。
「エース・ノギ、か。彼をどこまで信じていいと思う?」
「俺は奇妙すぎて未だ半信半疑だぜ。信じるってよりも、信用していいのかどうかだな。シドウ、お前は?」
「情けない話だけど、俺は奴をどうしても頼らざるを得ない。エースがいなければチームが円滑にならなかった。そして信用という点においてだが、俺はかなりしてしまっているかな」
シドウは周囲に決して見せることのない柔和な笑みを浮かべた。
父親のカイドウの他には、幼い頃から世話になっているクランドにしか見せたことがない。この時だけは幼少の頃のように、照れているようにも見えた。
「私は、カイドウと同じく半信半疑だ。だが………」
「あー、いい、いい。みなまで言うなって。お前のことだ。どうせ信頼してる方に傾きかけてんだろ?」
「………否定はしない」
ツンとカイドウから視線を逸らす。するとカイドウは、バシバシとクランドの肩を叩いて大笑いした。
「とにかくだ。………エースの野郎に変な虫が纏わり始めてんだ。奴に影響されてるガキどもも多い。潰される前に手を打っておいたほうがいいんじゃねぇか?」
「わかっている。好きにはさせん。私もひとを見る目がなかったな。野心家ではあったが、まさか委員会に偽装した利己的な派閥を立ち上げ、グラディオスを分断し栄転を画策していたとは。私の方で釘を刺しておく」
それでも罰せなかったのは、彼が優秀だったからだ。
長年と言うほどではないが、彼がクランドの部下になって数年が経つ。右腕と思っていたのは自分だけだったようだ。
「カイドウ。Eタイプと連合軍が遭遇したポイントまで、あとどれくらいだ?」
「数日ってところだな」
「ならば、エース・ノギにガリウスのみならず、グラディオスのすべてを見せておいてくれないか? なにか発見するかもしれない。もちろん見せるだけだ。整備は許すが、現在取り掛かっているビームシールドの設計という例外は認めない。主砲も点検させてほしい」
「ハッ。ガリウスの整備、新装備開発、パイロットの次は艦かよ。過労死すんぞ? あいつ」
「常にとは言わないさ。時間がある時だけでいい。それからなにか進言した時は耳を傾けてやってくれ」
「お前………マジで信頼、信用とかじゃなくて………洗脳レベルで陶酔しちゃいねぇか? レイシア以外に甘くなんのは初めて見たぜ」
「わからん。だがなぜかな。そうした方がいいのではないかと、思えてならんのだ」
洗脳レベルの陶酔。言えて妙だ。
不思議と不愉快さを感じない。馬鹿な。と内心で呟き、絆されかけた感情と精神を統一する。
とはいえ、この時点でクランドは今までに感じたことのない、至福が心に溢れ、冷え切っていたものが次第に温められていることに気付いた。
「まさか、この私が………誰かに共感されるとはな」
「馬鹿言え。じゃあ俺はなんだ?」
「ふっ。お前は例外だ。知己の仲以外で、私を理解した人物がいることに驚愕を禁じ得ないだけさ」
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