みんな大好きA11
「民間人だった貴様ら子供が思い上がるな! 誰が中途半端な志ししか持たない貴様らと、共に戦うと言った!!」
わぁ。なんて差別発言。
原作どおりの発言に、ミーティングルームはまた静まり返る。
クランドは鬼のような形相をしていた。カイドウは無表情で沈黙を貫き、シドウは目を逸らす。
「みんなで立ち向かえば怖いものなどない? 正気で言っているのか? かつて、我が同胞らがEタイプに決死の覚悟で戦い、何人が犠牲となったと思っている!」
「で、でも………私たちは、普段と同じ仕事をしろって………」
「それは通常任務の話しだ。Eタイプは違う。勘違いも甚だしい。………シドウ少尉。貴様は普段なにを教えている? その極めて楽観的かつ腑抜けた教育指導が、このような稚拙な思想を招いたのではないのか?」
圧に負けじとヒナが反論するも、クランドは無情にも切り捨て、隊長のシドウを睨む。
「………申し訳ありません。すべては私の責任です」
「貴様にはあとで始末書を提出してもらう。そして、今後このような生意気かつ、幼稚な発言をしないよう徹底した指導をするように」
「ハッ。承知致しました」
あーあ。って感じ。
こういうことするから、また嫌われるんだよ。大人たちが。
本来はとてもいいひとたちなんだ。でも、大人も子供も、選択を間違えただけなんだ。
クランドの言っていることって、一見理不尽に聞こえるけど、実際は正しいからな。
ヒナは泣きそうになりながら縮こまる。すべての責任を取らされたシドウは頭を下げた。
「ちょっと待てよゴラァ!」
そうなるとハーモンが憤り、怒号を上げる。乗じて、学徒兵らが泣いたり、怒ったり、詰め寄ろうとする。
ハーモンは言いたいことをすべてぶち撒け、クランドに殴りかかろうとしてシドウに拘束されるのだ。
いけないワンちゃんめ。そうはさせない。
「ハーモン! ステイ!」
「ぁあっ!?」
「あ、ごめん。間違えた」
今のはナチュラルに間違えた。「待ちな」って言おうとしたんだ。
ハーモンはもはや忠犬だ。犬への指示みたく混合しちまった。直さないと癖になる。
「まぁ、ちょっと落ち着きな。ハーモン」
「けどよぉ!!」
「ハーモン」
「………ぅす」
「ん。ちょっとみんなも、聞いてくれ。はいはい立たないで。座った座った」
全員に着席を促す。最初は反発されたが、イリスが動いてくれた。騒ぎの発端となった連中を宥めて座らせる。
クランドを振り返る。厳しい視線をしていたが、俺になにも言わなかった。カイドウも、シドウも。
ならいいね。俺のターン。補足説明だ。
泣きそうになったヒナの頭を撫でて、立ち上がる。クランドと学徒兵の間に入った。
「みんなが怒るのもわかるよ。俺も、ちょっとムカついた。今の差別発言はよくなかったよな」
「………貴様もか」
「まぁ、艦長。ここは俺に任せてください」
これ以上喋らせると、ろくなことにならないのは目に見えてる。そうなったらクランドは普段の3倍のキャロットケーキの完食ノルマが課されるだろう。
「でも、落ち着いて考えてみろって。俺たちってさ、今どんなポジションにいるよ? 一人前の整備士? 一人前のパイロット? 違うだろ。艦長も言ったとおり、なにもかも中途半端な見習いだ。だから、さっきの発言がよろしくなかったんだな」
「図に乗るなってことか?」
全員を代表してイリスが尋ねる。
「それに近い。でも意図は違う」
かぶりを振って、クランドの真意を伝えた。
「俺たち、それなりに経験積んだろ。ここに来た頃よか、そりゃ迷わずに作業ができるくらいさ。一人前になるってほどでもないけど、もうなにも言われずとも自分の仕事がわかってきた頃だ。………でも、それが時として失敗に繋がる。その正体は、油断ってやつだ。整備士も、パイロットも関係ない」
「エース先輩は、私たちが油断していると仰りたいの?」
ユリンが珍しく双眸を細めて問う。
本当は否定したい。狙われるかもしれないから。
でも、それをやってはいけないことくらい、俺だってわかってる。
「ああ。油断してるね」
「………面白い冗談だわぁ」
わぁ、怖い笑顔。
………負けるな。俺。
「あるいは過信とも言う。全戦全勝の記録は連合軍のアーカイブを開いても、なかなか目にすることはないだろうよ。でも、そういう時だからこそ起こりやすいんだ。油断や過信からくるミスに。どんな小さなミスだって、命取りになる可能性だって否めないんだぜ? クランド艦長は、その油断と過信を取り除きたかったんだ」
「随分とこじ付けてるような印象があるけど」
「そうでもないさ。俺たちに喝を入れに、わざわざ来てくれたんだ。じゃあユリン。艦長はなんで今、ここにいる? なんで俺たちにわざわざ会いに来た? 俺が並べたこじ付けみたいな推論の他になにかあるか?」
「………残念だけど、ないわね」
「だろ?」
クランドは黙したまま、俺をじっと睨む。
「本当に戦闘になったらシドウ少尉だけで足りるはずがない。パイロットは全員出撃。そういう意味でも、グラディオスはミチザネ小隊に頼るしかないんだ。大人たちも、もちろん全力のフォローはしてくれる。こういう時だからこそ、自分を見つめ直せって言いたかったんだよ。艦長も、おやっさんも、シドウ少尉も。………あ、おやっさん。結構時間経ってますけど、今日の作業の進捗はどうですか? そろそろ俺たち戻った方がいいんじゃないですか?」
「………だな。クランド。今日はここいらで解散としようぜ」
「他に話すことがない以上、そうする。………以上だ。諸君らは元の場所に戻っていい」
解散を促す大人たち。
学徒兵は納得したような、してないような面持ちのまま、ミーティングルームを去る。
その間、クランドはずっと黙して俺たちを見送っていた。
原作では、もっとギスギスした空気のなかでミーティングルームから追い出していたっけ。
一貫してるねぇ、クランド艦長は。
流石はあの日本人がモデルになっただけのことはある。見事なほどに。
日本とパラオの絆を深めた立役者。中川州男だ。第一次世界大戦後、植民地となったパラオの人間を守った男。
確か、アメリカ軍とペリリュー島での激戦のさなか、奮起するパラオ人たちに「帝国軍人が貴様ごとき土人と一緒に戦えるか!」と差別的発言をして、絶望させた。だが避難するための船に乗ったパラオ人たちに「達者で暮らせよ」と大声で語り、歌い、見送った。すべては交流を持ったパラオ人を守り、戦争に巻き込まないための策だった。
まさに男のなかの男。
けどさぁ、リスペクトするにしてもさぁ。
もうちょっと、ねぇ? やり方ってもんがあるでしょ。
そろそろ学習してほしい。仕方ないから、俺が示すしかない。
「艦長。お心はお察しします」
「………なにがだね」
「俺だって、艦長の立場だったら、同じことを言ったと思います。でも、やっぱり辛いですよね。子供たちを前線で戦わせるの。自分は艦のなかで指揮を取るしかない。もし犠牲者が出たら、と思うとゾッとします」
「………」
大勢が去ってから、残りは俺とクランドとカイドウとシドウだけになった時。俺はクランドを振り返って苦笑を浮かべた。
「艦長には感謝してます。現実を教えてくれるから。今回は俺たちの反感を買っても釘を刺すつもりだったんでしょう? ………だから、泥を被る時は、俺も被りますよ。でもここに理解者がひとりいるってことは忘れないでくださいね」
「………ふぅ。………知ったようなことを」
そういう割には、唇の端が若干吊り上がってますぜツンデレ艦長め。
俺もミーティングルームを出る。時間がないしやることが多い。
忙しすぎて目が回りそうだぜ。
評価、様々なリアクションありがとうございます!
12時に更新を変更してみました。多くの方に見ていただきたいがための手段のひとつです。
さて、クランドのモデルの答えは中川州男さんでした。とてもかっこいいひとですよね。
次回は夜に更新します。
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