みんな大好きA07
現場復帰した翌日。問題点の解決を特に解決できなかったため、イリスにも苦労させたことを罪悪感を覚えつつ、昼食の休憩に行くため交代で席を立った。
先にイリスを休憩に行かせたことで、俺は時間ギリギリではあるが食堂に駆け込むことになったが、イリスに苦労させるくらいなら易いもんだ。
サフラビオロスと補給船の救出だけではなく、航路の途中でグラディオスが前もって合流する予定を入れていた補給船から物資を受け取ったおかげで、食材の在庫は潤っている。しばらく枯渇することもないだろう。
人数分を作る食堂では、いつも食いっ逸れそうな整備士が駆け込む。時間に間に合わなければ廃棄するという厳しい規則がある。俺も生前では飲食店でバイトをしていたこともあり、食品の衛生概念には理解を持っていた。であるなら、できるだけ廃棄が出ないようにこちらが努力するのが流儀。
俺と同じく時間ギリギリで駆け込む整備士たちが鋭い目で睨まれつつ、食事が乗ったプレートを受け取った。
その時、決まって拝みながら受け取るのだ。謝罪と感謝を込めて。
炊事兵を怒らせたら怖いからな。
「待ちな、坊主。お前だけには特別メニューが追加されてる」
「え?」
「羨ましい限りだぜ。レイシアさんお手製の飯が食えるなんてよ。って言いたいとこだが、今回は同情しとく。食い終わるまで仕事禁止だってよ。早く食い終わってくれや。俺らが監視するよう言われてんだ」
「………嘘でしょ」
「マジだよ」
俺のプラスチックのプレートの上に、ドンと乗せられたステンレス製の丼。
そこにはどうしても不足しがちなビタミンや食物繊維などを摂取できるカラフルな生野菜と、白い錠剤がドレッシング代わりに振りかけてあった。
これは………あれだ。レイシアによるお仕置き。
昨日は仕事を優先して、レイシアのところに行かなかったからな。診察を受け損ねた。
でも、だからといってこんな嫌がらせみたいな、食事なんだけどそうとも言えない特製サラダを出すとか、ヤベェよあのカウンセラー………と思ったのだが、今さらだ。
レイシアは厳格な性格をしているグラディオス艦長にして父親のクランドを黙らせられるからな。
方法は、今受けたこの仕打ちだ。
実はクランドは人参が食べられない。あの味と風味が苦手なのだとか。
ゆえにレイシアは、作中でクランドが学徒兵に差別的発言をしたり、あとは個人的に怒らせたりしたら、キャロットケーキを焼いてデザートに出す。自分の手で運び、食べ終わるまで横に座って、じーっと笑顔で見ているのだ。
睨まれないだけ俺の方が優遇されていると思うべきか?
でもさ、野菜と薬剤を同時摂取させるあたり、クランドへの刑罰より厳しくね? そりゃ、食べ終われば健康に近い状態にはなれるだろうけどさ。
「あれ、エー先輩?」
「これから飯っすか?」
「整備士って忙しそうだものね」
「うわ、すごいの食べるんですね」
「こっちが空いている。座るといい。エー先輩」
ガクリと肩を落とすと、食堂の一角から声がかかる。
学徒兵のなかでも特別な存在である、数少ないパイロットたちだ。
右からシェリー、ハーモン、ユリン、クスド、コウである。
「おー、お疲れさん。珍しい奴らが固まってんな。どうした? 休憩か?」
「うす。ソータとヒナは自主練するってんで、俺らは飯食ってたんすよ」
6人がけのテーブルに、食べ終わったプレートが並んでいた。
たしかにひとり座れる。シェリーの隣に腰を下ろした。
「エー先輩。あの計画、もう一回やってるんですよね? その………大丈夫ですか?」
シェリーが率先して給水機から水を入れて差し入れてくれる。優しい子だよ。目付きが悪いだけで。
「んー、まぁ大丈夫とは言えないかな。でもさ、なんだかんだ言っておやっさんも協力してくれるし。イリスはわかるよな? プロジェクトに参加してくれた。根本的な問題で行き詰まってるけど、それさえクリアできれば………どうした。コウ? 目ぇそらしやがって」
「いや、なんでも、ない」
経過報告も愚痴になりつつあるなかで、正面にいたコウが俺から視線を逸らしたことに気付いた。
気持ちはわかる。コウは廃人になりかけた俺を叱責した負い目があるからだ。
「コウ」
「………ああ」
「大丈夫だよ。死に急ぎはしねぇって。心配かけたな」
「………そうか。ならいいんだ」
嬉しそうな顔しやがってこいつ。
手を伸ばして頭を撫でようとしたら払われた。行き場を失ったかと思いきや、コウの隣にいがクスドが頭を差し出したので丁度乗った。犬かな? とりあえずコウの代わりに撫でてみよう。
「エース先輩。もしそれが完成したら、私たちの機体につけられるのかしら?」
「もちろん。いや、でもどうかなぁ。実証実験がまだ残ってるし。当分先かなぁ?」
仮にカイドウを説得し、製造できたとしても実験が残ってるんじゃ、安全性がどうのと言えない。そこは整備士として、絶対にできるとは言えないのだ。
「エー先輩。その実験、俺がやるっすよ」
「ダメだ。ハーモンはタイタンジャケットの実験があるんだから。もし軌道に乗れば、次のタイタンジャケットはコウに付けるからな。ああ、ジャケットだけでも恐ろしく忙しいね。実は別のジャケットもあるんだ。パピヨンとか、ファルコンとか。結構面白いんだよなぁ」
「へぇ。そんなバリエーションがあったら、もっと戦略の幅が広がりますね」
感心するクスド。そのとおり。クスドはジャケットの量産を機に、様々な戦術を組み上げる。なら今のうちに公開してしまっても問題ないだろう。
「それに比べたら、俺が作ろうとしてるものなんてさ───」
「おっと失敬。手が滑った」
「………」
俺の言葉が途中で止まる。
愚痴や報告に夢中で接近に気付かなかった。
まったく。どこから湧いて出てきたのやら。デーテルめ。
まだ手を付けていない食事が、奴が並々と注いだ紅茶だらけになった。俺の頭に被せてきやがったんだ。
「こいつッ!」
「なにをする!」
そうなると………あー、あー。
パイロットのなかでも過激派が揃ってるからなぁ。狼狽しているクスド以外が立ち上がり、デーテルを睨んでしまった。
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