みんな大好きA05
「ソータ。ち、近い。暑いし、苦しい」
「ごめん。でも、なんだか俺………」
「ちょ、ちょちょ、ちょっ」
「アイリ。こんなの知らない。俺、アイリに触ると安心して、でもすごくドキドキする。抱きついたら嬉しくて、息が苦しくなって、胸が苦しいんだ。どうすれは、いい?」
「ど、どうするったって………それを私に聞くの!? え、ソータって男子とそういう会話しないの!?」
「そういう会話? なにそれ」
盛り上がって参りました!
全俺が泣き、全腐女子も泣き叫ぶ、王道幼馴染カップルの、壮絶なイチャイチャシーン!
くそ、ロッカーの壁邪魔だ。誰が閉めたんだよ。俺だ。死ね。いや死ねない。
開けてぇぇえ。
今すぐこのヘブンズドアをオープンしてシナジーをマキシマムしてコンプライアンスをジェノサイドしてコミットしてヘドバンしてレロって………ああもう語彙力が馬鹿になってきた。元から馬鹿だけど! 中学生の頃数学で9点取ったくらいだし。笑えてくる。
「アイリ。本当に、なんか………変なんだ。ヤバい………」
よし、ヤれ。
イカれたカウンセラーも言ってたよ?
艦内は恋愛が自由だって。
節度を持っていればいいんだってさ。
ほら、アイリ様。くれてやったやつがあるだろ?
年齢制限なんてディレクターズカット版の円盤である程度は解除されるんだしさ。
「あ、待って………ああ! 待って! もらったものが落ちちゃった!」
「それ、なにに使うの?」
「それは………ええと、ソータのソータを包み込んで」
「俺の俺?」
いいねぇ。
とてもいい会話です。
耳が癒されます。
「とにかくちょっと退いて………ねぇ、聞いてる? ちょっと、ナチュラルになに脱がそうとしてるの!?」
「………ダメ?」
「ッゥ………!」
きっとソータは、ちょっと屈んで上目遣いをしているだろう。ロッカーに閉じ込められて数分。体温すら共有し、息苦しさと熱で潤んでしまったりしてさ。
そんな顔、腐女子の皆様が執筆した薄い本でしか見たことがないがな! 相手はシドウとかだったな。
ごめんな! 今回は俺の勝ち! お相手は王道のアイリ様!
うひょぉぉおお! もっと至近距離で聴きたい。あ、そうだ。ドアに耳付けちゃお。
「ダメ、じゃないけど………い、いいから退いて! しゃがまないと取れないの!」
「いいよそんなの。ていうか、狭いからしゃがめないよ」
「無しでやれっての!? そんなの………!」
………うん。それはちょいと、まずいかな?
ソータも珍しく暴走してる。
………止めないとまずいかな。ごめんなソータ。その行為はお預けだ。
健全な青少年にとってはとんでもなく苦痛だろうけどさ。理解してくれよな?
足音を立てないように更衣室のドアに向かい、あえて大きな音を立ててドアを開ける。するとガタン! とロッカーが大きく鳴った。
「おーい。時間だぞぉ? 仲直りはできたかぁ?」
なんてわざとらしい台詞だろう。
しかしふたりには、特にアイリは正体が俺だとわかって安心したのか、あるいは残念そうにしながら、返事をした。
「は、はい! 私とソータは………仲良しです」
はは。「邪魔しやがって」ってニュアンスの口調だこと。
本当に夢中だったもんな。俺が近くにいることすら気付かなかっただろう。………もしあとでバレたらアイリに殺されるかな?
ロッカーは施錠していない。いざとなったら押し開けられる。そのまま開くと、新鮮な空気を貪るようにアイリが飛び出して、呼気を荒げた。
「エー先輩………」
お、おお。これが色気。
ロッカーの奥にもたれかかっていたソータは、本当に、なんというか、マジで色っぽい。世の女性たちが放っておかないような、誰かに見せちゃいけない顔してた。俺だったら許されるなら今すぐディープなキスしてる。
「出ておいでソータ。お疲れさん」
ソータが伸ばした手を掴み、引っ張って出してやる。
性に対する知識が疎いという、健全な少年にしては珍しいタイプだ。避妊具を見ても使い方を知らないどころか、それがなんなのかもわからなかったみたいだし。
いきなりアイリと狭い場所に監禁したのは、よろしくなかったかもしれない。
「エー先輩………元気になってる?」
「あ、本当だ。顔色がすごくいいですね、わっ!?」
ソータが俺にもたれかかるので、ついでにアイリも抱き寄せた。
推し対象へのお触り厳禁というルールを、今だけは破る。
「ごめんな。心配かけた。ちょっと参ってたんだ。精神的に」
「うん。そうだよね。あんな顔初めて見たもん」
「エー先輩も辛かったんですよね?」
「うん。今回は結構こたえた。でももう、大丈夫だから。ソータとアイリ見たら、またやる気になったよ。ありがとな」
可愛い後輩にして最大の推し活対象を抱きしめる。ソータはともかく、アイリも抵抗せずに背中に腕を回してくれた。うへぇ。感触がたまらん。違うそうじゃない。
せっかくふたりに触れたんだ。もう大丈夫なんだな。俺は。
「どこまでやれるかわからない。でも俺、やってみせるから。絶対にふたりを、いやみんなを守るよ」
「守ってるのは俺だけどね」
「あのなぁソータ。そういうこと言ってるとアイリとまた喧嘩になるぞ?」
ソータも生意気じゃないか。でもこれでいいんだ。さっきまでの苛ついて余裕がない表情ではなくなっている。
「さて、みんなそろそろ行かないとな。結構時間経っちゃったけど、シドウ少尉とおやっさんには俺の看病してたって言えば許してくれるだろ。ついでに全快したって言っとけ。きっと喜ぶよ」
「わぁ、すごい自信ですねエー先輩」
「違うのか?」
「多分、違くないと思いますけどね」
名残惜しいが、ふたりを離す。ソータなら同性の先輩と後輩のとても仲がいいスキンシップだが、アイリは違うからな。ソータから嫉妬の目を向けられるのは、それはそれでいいんだが。
「じゃ、俺行きます。アイリ。また後でね」
「う、うん。また後で───」
更衣室を先に出たのはソータだった。先程とは違い、やる気に満ちている。きっと仲間たちに吉報を届けられるからだ。
「それで?」
「はい?」
「どうだった?」
「ッ〜〜〜〜!!」
数秒待ってから出ようとしているアイリに、さりげなく尋ねてみる。
赤くなって飛び上がり、キッと俺を睨み、しかしどこか嬉しそうにして、口元を手で覆った。
「………最高でした」
でしょうね。俺も最高でした。
やっぱり推し活は最高だぜっ。
「レイシアさんが言ってたよ。艦内は恋愛自由だって。でもこんな時間じゃ使えなかったか。………ああ、落としてるじゃん」
「あっ!」
その日、アイリの脚力の素晴らしさを知った。なんか残像が見えたぞ? ビュンって加速してロッカーにあった白いビニールで包装されたものを拾い、ちゃっかりとポケットのなかに突っ込んだ。一瞬で元のポジションに戻る。そう、一瞬の出来事。剣豪の抜刀術なみの早技。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「………なんで、こんなもの持ってるんですか?」
「………イカれたカウンセラーに、処方薬だって言われて押し付けられた」
「ああ………そういうことですか」
アイリはレイシアのカウンセリングを体験している。いや、ヒナの愚痴をともに聞かせられていたんだっけ。だから最後まで言わずとも、わかったのか。
「ソータとの続きの場所が困ったら、俺の部屋使っていいぞ。レイシアさんがシーツを回収してくれるらしい」
「後輩になんてこと言うんですか!? セクハラで訴えますよ!?」
「それが可能なら、まず俺がレイシアさんをセクハラで訴えてるよ………」
「ああ………それは、その………」
アイリもコメントに困るよな。
本当に、当時の俺みたいに。
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危うくR18になるところでしたが、なんとか止められました。残念でした。またいつか、ね。
次は19時頃に更新します!
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