みんな大好きA03
『人生をやり直しますか? 継続しますか?』
ハルモニみたいな機械音声が鳴った。辛うじて人語だとわかる。ノイズも酷い。
人生をやり直す? 継続? はは。転生しておきながら、なに言ってんだか。
これ以上なにをしろと?
俺にできることがあるのか?
ねぇだろ。
やり直したところでボロが出る。継続したところで意味がない。
そんなの───
「あ、目が覚めた?」
「継続………え?
「うん? 継続?」
「………なんでも、ないです」
目を開ければ、あのひとの声が聞こえた。
メディカルルームで勤務する白衣の天使。男からも女からも好かれるアイドルみたいなカウンセラー。
ピト。と額に少し冷えたものが乗る。それがレイシアの指だと知り、少しだけ得をした気分になった。レイシアの手が気持ちよかった。
「………知り尽くした天井だなぁ」
「いつも見てるでしょ? さっきからどうしたの?」
「………こっちの話です」
とあるアニメの有名なセリフに「知らない天井」とあった。けど俺は何度も足を運んだり、時には呼び出されたりと経験があったため、この部屋のことをよく知っている。
「まぁいいけど。それで? エースくん。なにがあったのか覚えてる?」
「朧げには。………ハァ、情けねぇ。ついに倒れましたか。………はは」
「自暴自棄みたいな笑い方。よくないよ。そういうの」
心理学も学んだレイシアは、今の俺に似た患者も診たのだろう。
ゆえに知っている。この心境を。迎える結末を。
「なにがあったのか、話してもらえる?」
「………多分、理解してもらえないですよ? はは。ぶっ飛んでるから」
「そういう患者さんもたまにいるよ。やっぱりね、ストレスで参っちゃうんだね。夢のなかの世界にいるみたいに語っちゃうひともいるから」
「夢………はは、そうだ。夢みたいだ。俺がここにいること自体が」
「夢ねぇ。どんな夢?」
「例えばですよ。ぶっ飛んでいて、信憑性の欠片もない例え話ですけど………俺、この世界の住人じゃないって言ったら、どうします?」
「………本当にぶっ飛んでるねぇ。こんなケースは初めてだよ。うーん」
ああ、これでまた、変に疑われたかなぁ。
でもレイシアの反応はまともだ。これでもし「あ、視聴者のひとなんだぁ。こんな陰鬱とした世界にようこそぉ」なんて言われたら、俺こそ困惑する。
「………冗談ですよ。からかっただけです」
「コラ。もう、エースくんは悪い子だねぇ。………っていうことは?」
「夢みたいな世界で、無双できる主人公ならまだ良かったんですけどね。どうやら俺はチートを持っていない無力なモブに過ぎないらしい」
「エースくーん?」
「すみません。自棄になってました。注射を構えないでください。うわ、針が太くて痛そう」
「痛いよー? じゃ、最後にもう一回聞くよ? ここは夢の世界?」
「現実です。俺は妄想に囚われていただけで、今はっきりと覚醒し認知しました。おはようございます」
「はい。おはよう」
憂鬱に打ち勝つのは恐怖だと知った。
これでも一応、患者なんだよな?
やっぱりこのひと、イカれてるよ。
え、なんで笑顔で注射器を腕ではなく手のひらに突き立てようとしてんの?
お陰ですっかり目が覚めたけどさ。
「気分はどう?」
「良くないけど、吐き気はなくなりました。手足の痺れもないですし」
「でもそれは一時的なものかもしれないね。薬が効いているから。でもよかった。錯乱はしてないみたい。エースくん。あなたには悪いお知らせかもしれないけど、しばらく絶対安静ね。体調が戻ったら散歩くらいはしていいけど、仕事をするのは許さないよ?」
「………はい」
きつく釘を刺されてしまった。
いや、どちみち間に合わないのだ。
これからなにをしようと。
足掻こうと。
あるいは方法があるかもしれない。無茶をすれば。もしくは、俺の身を捧げれば。
そうか。そういうことか。
身代わり………その手があったじゃないか。
俺があの子の代わりに死ねば………
5日が経った。
ミチザネ隊は俺が不在ななかでも、うまくやっていると思う。
本編の第5話ではボロボロになりながらも、5回目の戦闘でシャトルの防衛を達成し、民間人を助けた。
それが自信に繋がり、微かながら連携という手応えを全員が掴んだ。
ミチザネ隊の6人は、ムードメーカーのヒナを中心に、うまく回り始めたのだ。
そして第6話になると、無双の勢いで連戦を勝ち抜く。
とある事件で、勢いは停滞する。終盤のことだ。
あの子が犠牲になる。回避する術はない。
もうすでに第6話に突入しただろう。Aパートという順風満帆の航路を、全員が満ち足りた顔をして進むのだ。
だというのに。たったひとり、悶々とネガティブに陥る馬鹿ひとり。
「ご、ゴキブリッ………!」
散歩は許されている。吐き気がするが、微々たるもの。
食って寝てを繰り返して栄養が全身に行き渡ると、歩けるようになった。それゆえ重力発生区域を幽鬼のごとく徘徊していると、デーテルに遭遇した。
なにをビビっているのか、俺を見て後退るも、構っていられる気にもなれず、横を素通りする。
「わ、私をついに無視するか貴様っ」
ギャアギャアとうるせぇな。
どうせなにがあっても生き残る恵まれた運命なんだから、今は俺の気分を害することなくオペレーションルームで引きこもっていればいいものを。
まだなにか言っていた気がするが、もう反論する体力も気力もない。
レイシアのカウンセリングは毎日受けているが、このどうしようもない心境を打破する手がかりなど、ひとつもない。
推し活ねぇ。
そんなのに躍起になっていた時代が、俺にもありました。
今はなにもかも馬鹿馬鹿しくなって、ネームドキャラたちの相手もしてられない。
みんな心配そうにしながら、俺の様子を伺う。どう反応してやればいいのかわからない。
このなかの大半が死に、大怪我をする。俺だけが知っている運命。
最近、思うんだ。
俺はなにを必死になってたんだっけって。
プロトタイプガリウスGはモニター用に整備されているだけで、推進剤を注入さえすればいつでも発進できる。そしてタイミングを合わせれば、あの子が救える。代わりに俺が死ぬ。
ああ、とても簡単なことじゃないか。これこそ俺が目的としてたことだ。
俺が死ねば、この先の悲劇を見ずに済む。これ以上、苦しまなくても済むんだ。
ただ、そういうのに聡い数名がいて、俺の行動を監視していた。2日前のことだ。コウに死のうとしているのがバレて、胸倉を掴んで喚かれた。ハーモンが取り押さえなければ殴ってたかもしれない。別に殴ってもいいのに。
あとひとり。ユリンは最近、呆れたような視線を向けられた。蔑まれている。唾を吐いてもいいのにな。
ヒナとシェリーは泣かれた。うまく返事ができなかったからかな。
ソータとアイリは………あれ? 近くにはいたけど、なんかしてたっけ?
もうなにも覚えていない。
推し活って、そもそもなにをするんだったっけ………?
「待って………待ってよ、ソータ!」
「ごめんアイリ。今、ちょっと忙しいんだ」
「昨日もそう言ってたじゃない! いいから、話を聞いて!」
「………ごめん」
………話し声が聞こえた。
ソータと、アイリ?
そう。このふたりだ。
声を聞くと、なんだか頭のなかで、なにかがチカッと光る。殴られた衝撃にも似ていた。
というか、覚えているぞ。この会話。
ああ、そうだ。第6話の冒頭だ。
ふたりは意見の違いから、すれ違いが生じていた。
それがふたりの関係に亀裂を生じさせる最初の出来事だった。
なんだか胸が苦しくなる。
どうにかしてやりたくなる。
そう思った時───俺は無意識のうちに、力があまり入らない体を全力で動かして、アイリが追うソータに追いついて、手首を掴んでいた。
ブクマ、評価ありがとうございます!
本日も日間ランキングに載っておりました。まだ下位なのですが、昨日よりも上昇しておりました!
ですがまだまだこんなものではないはずです。エースが鬱になりかけましたが、本気を出すのもここから。
次回は21時頃に更新します!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




