所詮は子供C03
一旦言葉を切り、言うべきかどうか迷ったが、言った。
「エースの野郎は、異常だぜ」
「ああ。私もそう思う。………明らかにケイスマン教授の装備より劣化こそしているが、これは………」
「おうよ。アンノウンの攻撃を受け止められるかどうかも微妙。攻撃ではなく防御。用途すら不明。………けどな、俺はこんなの………作れはしねぇよ」
「やはりか」
俺はメカニックとして誇りを持っていた。
天才だと自負した時期もある。結局はケイスマンの野郎に勝てなかったが。
だが、それでも奴が遺したガリウスをすべて理解し、整備できる自信がある。ケイスマンに勝てなかったが、劣ってはいなかった。
………そんな俺を愕然とさせたのが、エースだった。
「ソータの野郎がパイロットとして天才なら………エースはアイデアを出す天才だ。見ろよ。まったくもって意味不明装備なのによ、なぜか………本当に奇妙なんだが、アンノウンになにか効果があると思っちまう。こんなガキの落書きみてぇな設計図に、ときめかずにゃ、いられねぇんだ」
「お前ほどのメカニックが、そこまで喜ぶか」
「ああ。喜ぶね。マジですげぇよ。信じられるか? あのガキ、まだ16か17くらいのガキなんだぜ? 俺がその時の年齢だったとしてもだ。同じこたぁできねぇよ。そりゃ、計算とか調整とか、ハルモニを使ったんだろうさ。多用したログがある。………血反吐を吐くくらい、努力したんだよ。奴は………」
「過労の原因は、そこか?」
「ああ。ハルモニを調べたが、どうやらレイシアと繋がってたらしいぜ」
「なに? レイシア?」
クランドめ。娘のこととなると、甘くなりやがる。そろそろ子離れしてやれってんだ。
レイシアの名が出た途端、ウィスキーを飲む手が止まり、より険しい顔をしやがった。
「まぁ安心しな。不埒なこたぁ、してねぇよ。なんか………んだな、エースの周りをウロチョロしてる1年どもがいるだろ。徹底的に心理状態を調べたらしいぜ。そこは俺は評価してんだ」
「評価だと?」
「そうだな。友人として仲良くするためのチートみてぇな、それこそバレれば軽蔑されるくらいの禁じ手に近いだろうさ。けどな、調べてるのは経歴とかじゃねぇ。その時、どんな風な心境をしてるかだ」
「………むう?」
朴念仁が。んなこともわからねぇとは、笑わせてくれやがる。
「わかりやすい例えで言えば………なんだ………ああ、そうだ。検便とかかぁ? それで体内のこと知れるだろ。病気してるとかよ」
「エース・ノギは、相手の体調を知りたがっていると?」
「馬鹿。あくまで例えだ。体調を心って置き換えろ。感情とかでもいい」
「………わからん」
「かぁ、これでよく結婚できたもんだぜ!」
本当、それだ。クランドの妻と、俺の家内は総司令部のあるコロニーに住んでいる。なにかと気が合うらしい。
そう思うと、こいつの妻は菩薩なんじゃないかと疑っちまうね。
「まぁいいや。とにかく、レイシアとの繋がりは放置しても問題ねぇよ。実際、それでアクシデントが発生してるわけじゃねぇ。問題はこれだ。エースの野郎、レイシアとの共有クラウドにあるビームシールドフォルダに、毎日データを更新してるらしいぜ」
エースがレイシアに、なんちゃってカウンセリングデータの最後に倅の隠し撮り写真を添付してることは、隠しておいた方がいいだろうな。ハルモニににも黙っておくよう命じてある。
「………そのデータとは?」
「意味不明なもんばっかだ。………俺は最近、思うんだけどよ。もしかしたらエースの奴、未来視の超能力でも持ってるんじゃねぇかってよ。それか、未来から来たとかよ」
「馬鹿馬鹿しい。非現実的な妄想だ。根拠は………根拠?」
「あるだろ。案外」
「………否定はできん」
俺だけじゃない。クランドもまた、エースに影響され始めている。
それが革命なのか、または毒なのかはわからねぇ。
だがこの1ヶ月近い時間のなかで、奴が俺たちに与えた衝撃は計り知れない。
何度驚かされた? 何度変えてきた? 何度恐怖した?
残念だが、もう回数は覚えていない。
「それで? エース・ノギ式のビームシールドを、どうするつもりだ?」
「このままビームアックスの改良版としてなら、俺が直接指導してやる。けど、ビームシールドになんらかの理由でこだわっているというなら………」
「見送るか?」
「いや、そうじゃねぇ。その理由が知りてぇんだ。奴はアンノウンの発する高熱をエネルギーとして見ている。んなの学会で何度もやってるが、エースの場合はもっと簡略化した、けど根本的なものを見てる気がしてな。特に着目してる熱暴走ってのも気になる。………もし、明日にでも改良してくるのなら、俺も本気でやってやらぁ」
「もし彼の本気が結果を出すようなら?」
「その時ゃ、頭を下げて何遍でも謝るさ。それか、俺にできる限りのフォローをするっきゃねぇ。お前も黙認しろよ? もうすでに、ハルモニを整備士や副隊長として運用する域を脱してやがんだ」
「………可能な限りはな」
頭でっかちめ。………いや。俺もか。
エースに驚くばかりじゃねぇ。特にこのビームシールドを見た時、感心した一方で、俺は嫉妬さえ覚えた。
エースは才能の塊だ。そうじゃなきゃ、もう化け物だ。
「よし。次だ。………ハルモニ。例のフォルダを開け」
『イェス。マスター・カイドウ。───ケイスマンフォルダ、Xを開示します』
「エースのことではないのか? ケイスマンの遺産とやらが、ついにすべて解明したか?」
「そう焦んな。って言いてぇとこだがよ。………俺も実際、これを見た時にゃ焦ったぜ」
立体投影モニターでエース式ビームシールドが隅に追いやられると、俺が厳重に保管していたフォルダが開く。
そうだ。これだけはクランド以外に見せちゃいけない。ケイスマンの野郎の、狂気そのものだった。
「なんっ、だ………これは………!」
流石のクランドも冷や汗を滲ませる。
「精神接続………加速………ガリウスと、一体化………っ!?」
「それだけは第七世代機の次、第八世代機ガリウスHの名がない、ケイスマンの野郎のオリジナルガリウスってところだな。………あいつ、頭どうかしてるぜ。人間の神経を機械に接続するなんてよ」
「接続した上で加速を促す………おい。こんなことをすればパイロットは」
「下手すりゃ廃人。あるいは死ぬ」
「………ケイスマン教授は、それほどの狂気を………」
「まぁ、妻をアンノウンにぶっ殺されてるからな。目の前でよ」
神経接続型ガリウスを発見したのは2日前だ。経緯は調べずともわかる。
狂気と憎悪と殺意。俺たちとは違い、家内を殺され、子供とは離れ離れとなった。
だが、やはりそれでも狂ってるとしか思えない。
ケイスマンは最初から、神経接続型ガリウスのパイロットを正規軍から選出しなかった。
未発達にして成長期───ゴールデンエイジとも言える年代の子供を使うことが前提としていたのだ。
「脳内チップを埋め込み、思考ならび反射の速度の加速を促す。そして肉体の一部を取り除き機械化することで機体との一体化を促すインターフェースとする。………狂っているのかあの科学者は! 子供を戦争の道具にするなど、正気の沙汰ではない!」
「ああ。残念だがケイスマンは最初からイカれてたんだよ。………教え子を使うつもりだったんだ。見ろよ。第1候補を。ソータ・レビンスだとよ」
「馬鹿げている! 教授は教え子に愛情を注いでいたのではなく………復讐の代行者を育成していたというのか!?」
「そうだよ。マジで………ぶっ飛んでる。変わっちまったまま死んだんだよ。あいつは」
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