所詮は子供B08
「水臭いじゃないですか。デーテル副艦長殿。あんなに俺と熱烈な時間を過ごしたというのに」
「きっ、貴様………いつからそこに」
「あなたがいるところなら、どこでも駆けつけますよ。それより、こんなこすいことしてないで、寂しいなら俺のところに直接来ればいいのに。小娘なんかにかまけてないで、俺と肉体言語にて語り合いましょうよ」
「やめっ………やめろ貴様っ。私にそんな趣味はない! 胸をまさぐるな!」
「うわ、うっすい胸板。ちゃんと飯食ってます? お望みの熱い夜を朝まで過ごすんだ。体力もちませんよ?」
そりゃあ、いきなり俺が背後から湧き出れば、デーテルだって焦るよな。あれだけ可愛がってやったんだ。恐怖を覚えただろう。
「なんのつもりだ貴様!」
「シェリーに嫉妬したんですよ。デーテル副艦長が小娘ばかりに構うから寂しかったんです」
「私に男色の気はない!」
「ご冗談を。あんなに喜んでくれたのに」
「誰が喜ぶかぁあああああ!」
どうせ、監視カメラと連動しているマイクも操作して、音を拾えなくしているのだろう。だから逆に俺に有利に働いた。
「貴様、どうやら本格的に処罰されたいらしいな!」
「え、どうやって?」
「私に働いた不敬罪だ! 上官に対してあるまじき暴行。厳罰は免れないと思え!」
「だから、どうやって?」
「この状況を見てわからぬか!?」
「わかりませんね。え、だってさっきご自身が言ったじゃないですか。ここは監視カメラの死角になってるって。証拠無き罰は冤罪ですねぇ。自分の首絞めてどうするんです?」
「くう………!」
だから俺は好き勝手にできるんだな。
だって、証拠がないんだもんな。
デーテルがシェリーを襲おうとした周到なアイデアを逆に利用してやった。
まぁまぁ。悔しそうな顔しちゃって。
どうやって可愛がってやろうかな。
「貴様………この疫病神め! 私がこの程度で屈するとでも思っているのか? うぉぉおお!」
「おっ。急に踏ん張ってどうしたんですか? うんこします?」
「ふざけるな貴様ぁ!」
「そんなに俺に尻を押し付けるなんて。はは。デーテル副艦長殿もヤル気なんじゃないですか。隠さなくてもいいのに」
「違うわ馬鹿者!」
もし俺が本当に男色の気があったら、勘違いするところだったよ。
デーテルはさっきから、非力ながらグイグイと背中で俺を押し退けようとしている。
こちとら毎日肉体労働をする職人見習いだってのに。軍人ではあるがデスクワークが得意としているデーテルでは、数センチくらいしか俺を移動させられていない。
しかし、その魂胆は見抜いていた。
「いいんですかねぇ、デーテル副艦長殿?」
「なにがだ!?」
「自分ごと俺を後ろに移動させて、監視カメラの外に出ようとしているんでしょ?」
「ゴキブリの分際で勘が冴えたか。そうだ。ありのままの姿を見れば、どちらに非があるか証明できるだろう!」
「ふーん? この構図で、ねぇ?」
試しにデーテルを抱えて、少しだけ後退してみた。シェリーは逃げればいい。だが彼女は、なにかを察したようで、オレンジ色のジャージを、あろうことか少しだけはだけさせ、俺たちに追従したのだ。
「な、なんだ貴様………シェリー・ダルシャナ! おい! 余計な動きをするな!」
「どうしようかなぁ」
俺とデーテルに胸元を見せ、意地の悪い笑みを浮かべたシェリー。
あと少しで死角から出てしまう。次の瞬間、シェリーははだけた胸元を両手で隠し、怯え、錯乱した表情を浮かべる。
なるほどね。彼女は策士にして、演技派だ。見直した。こんなことができるだなんて知らなかった。
「さて、お望み通り監視カメラの死角の外に出ましょうか。けどこのポジション、本当にデーテル副艦長殿の理想なんですかねぇ? どう見ても、シェリーを襲った馬鹿を俺が引き剥がしたように見えるんですけどねぇ? あ、監視カメラって、リアルタイムで誰か見てたりします? じゃあ、その馬鹿の姿も知られてしまうってわけだ。ありのままを知ってもらうとしましょうか」
「え、ちょ、ちょっ───!」
やっとデーテルも失着に気付いたらしい。
どこにいてもデーテルは詰む。だがそんな状況でも保身がきいたらしく、大声で喚いた。
「や、やめろ! 死角から出るなぁああああ!」
「へぇ。じゃあ俺がこれからすることの証拠は、一切残せなくなりますね。淫夢のような夜に魘されたいと。変わった趣味だなぁ」
「貴様………貴様貴様貴様ぁっ! 覚えておけよ! この借りは何倍にして返してやる!」
「そりゃあ怖いなぁ。じゃ、今のうちに精神を崩壊さるとしますか。記憶がぶっ飛ぶほどの快楽を教えて差し上げます」
「ひぃ! やめ、やめろおおおおおお!」
ああ、面白い。デーテルってこんな逸材だったんだな。救い様がないから、知らなかったぜ。
一方でシェリーはクスクスと笑っている。見たことがない笑顔だ。
「シェリー。このゴキブリ好きな副艦長殿をどうしたい?」
「そうね………四肢を縛って「私は歳が一回り下の女の子を襲おうとしたケダモノです」って札を提げさせるのはどう?」
「いいな。あとは散髪するか。丸坊主にしてやろうぜ」
「採用。あ、副艦長の服で縄を作りましょうか。今から色々持ってくるの面倒だし」
「バリカン、どこかにあるかなぁ」
「ガリウスGのスラスターに触れるか触れないかのギリギリで固定して、全焼させればいいんじゃない?」
「エゲツないねぇお前。そういうの大好きだ」
「エー先輩もね。報復するのって私も大好き」
また意外な一面が露見する。
負けん気が強くて復讐が大好き。これだけ見ればヤベェ女だが、今回はデーテルに非があるし、救いようのない罪がある。庇う気にもなれなかった。
「な、なにを………なにを楽しそうにしている。四肢拘束させ、不名誉な札を提げさせ、髪を機体のスラスターで全焼させるだと!? 正気か貴様ら!」
「嫌ですか?」
「嫌に決まっている!」
「やめてほしいですか?」
「当たり前だ!」
「けど、あんたは嫌がるシェリーを離そうとしなかったじゃないか。なにさっきから都合のいいことばかりほざいてんだ? 俺がいつまでも、そのつもりにならないと思っているのか? 馬鹿なのか?」
「ぐっ………!」
声のトーンを落としてみると、デーテルはガタガタと震える。
「デーテル副艦長殿。半分は優しさでできているんでしょう? 言質は取ったし。だから今回のことは、お互いに伏せておきましょうや。あんたが余計なことしたり、言わなければ、俺はなにもしないからよ。………でもな? 俺が大切にしているものに指先のひとつでも触れてみな? 軍法会議にかけられるのは、あんただぜ?」
腕のモニターをデーテルの眼前で起動する。
そこに表示されていたのは、シェリーを組み敷こうとする馬鹿の姿だった。展開デッキに入る前、腕だけ伸ばして撮影したものだ。
これを艦内だけでなく、連合軍に送りつけてもいいんだぜ? 誇り高いグレイ家の長男は、実はロリコンで、学徒兵を襲うようなクソ変態だってレッテルを貼られるな。その時は、どんな気分になれるんだろうな? うん?」
「………」
デーテルは反論しなかった。できるはずがない。そんな余地は与えなかった。
ブクマ、リアクションありがとうございます!
次回は13時に更新しようと思います。そういえば、この作品を投稿してから二週間と少しが経過しましたが、1万PVを突破していて驚きました。ありがとうございます!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




