所詮は子供B05
どこか恥ずかしそうに、なにかを言いにくそうにしながら、コウはそれでも言葉を探り、必死に伝える。
「この1年、ずっと怖かったんだ。ジグのことを無我夢中で調べた。でも調べれば調べるだけ出てくるのはジグの悪行ばかりで………兄貴は本当は、生粋の悪人だったんじゃないかって………ジグを知っている連中は揃って言うんだ。ジグは可哀想になるくらいお人好しで、馬鹿で、愚かだったって。まるでマフィアの真似事までしてたんだって」
フォトロプシー事件の隠れ蓑として使われた、組織の首謀者が幹部によって殴殺されたと思わせる隠蔽によって、コウも人生を狂わされた被害者となった。
実際、あの痛ましい事件の裏で隠蔽工作をしていたと知らなかった。つい今さっき、エースの記憶で知った。
その当時………去年の今頃だったか。苛まれたコウの心労は底知れず、傷は今もなお根深く心を蝕んでいるのだろう。
「でも、よかった………兄貴が好きって言ってくれるひとがいて………なぁ、エー先輩。ジグは、本当に悪人じゃ………誰かを悲しませるような奴じゃ、ないよな?」
「ああ。それは保証する。あいつは馬鹿だけど、誰かを笑わせるのが好きなお人好しだったよ。だからコウ。もういいんだ。辛かったな。お前はよくやったよ。お前は本当は、ジグみたく優しい奴なんだ。仮面を外してもいい頃だろ」
「俺は、自分が優しいなんて自覚はない」
「いいや、優しいさ。でなけりゃ、シェリーを気遣って、傷付かないよう後方に置くように言うとか、死なないようにパイロットを降りろとか、言わないもんな?」
そう。コウの酷評の裏にはそんな意図があったのだ。
シドウは熟練のパイロットで、ソータは天才のパイロット。生きて帰ることができる。
ユリンとヒナも然り。
だがコウにとって、ハーモンとシェリーは別だった。
ハーモンについては、演習後のシドウを含めた三つ巴の口論で如実に現れていた。
コウはハーモンを心配していたのだ。
学生だった頃はいつも喧嘩をする仲であったとしても。
コウにとって、ジグという実兄は、憧れであり、トラウマであった。
だからジグの死因がいつも頭にチラつく。ハーモンにパイロットをやめるように言ったのも、彼が自分の目の前で死なないようにするためだ。
先程のシェリーとの口論も同じ理由で、例え相手が傷付こうと、恨まれようと、コウは弱い者を彼なりに守ろうとしていたんだな。
「いいか、コウ。本当に優しい奴ってのは、自分のことを優しいとは言わないんだよ。そうだな。ほら、俺って超優しいじゃん? だから俺は自分のことを優しいだなんて言わないんだよ」
「今言ったじゃねぇか。信憑性がないな」
「うっせ。例えだ、例え」
「はは」
コウが初めて笑った。
薄くではあるが、素顔を見せてくれた。
「エー先輩と話してると………なんで悩んでたのか、わからなくなる。これまでの俺が、馬鹿馬鹿しく思えるよ」
「そりゃいいな。ジグと同じくらい馬鹿になっちまえ。そうすりゃ、あいつと同じもんが見えるかもな」
「見えるかな………いや、見てみたい気もする」
「見えるさ。俺はそう思う」
茫漠とした例えだが、コウにとってはそうではないらしい。
イメージで掴めたのかもしれない。もう、先程のような陰鬱とした目をしていなかった。
「エー先輩。俺はこのグラディオスで、やっていけるだろうか。誰も死なせたくない。ジグの時とは、同じ思いをしたくない」
「俺はそう思って、みんなに話しかけてる。お前もやってみな? ジグの口調を真似しろとは言わないけどさ。たった6人しかいないパイロット見習いと、たったひとりの隊長がお前の仲間だ。大切にしろよ」
「それは違う」
「なにが?」
「あとひとり………ミチザネ隊の、副隊長のこと。忘れるなよ」
「お、おう」
おう………なんてこった。
俺のことを枠外とか評価しておきながら、メンタルが回復した途端にこれか。
もしかしてこいつ、ハーモンと同じくらいチョロくね?
「エー先輩」
「うん?」
「その、これまでのこと………すまなかった。あと、礼を言わせてもらいたい。お陰で、かなりスッキリした」
「ならよかった」
「どこまでやれるかはわからない。兄貴のようにできるかも、わからない。けど俺は、グラディオスでやれることをやってみようと思う」
「言葉は選べよ? たまにでいい。全部変えたら逆に怪しまれるからな。少しずつ変わっていくくらいが丁度いいんだ」
「そうだな。やってみよう」
うんうん。忠猫が増えたかな。こりゃ。
いい感じになったじゃないの。
コウがこんな顔をするのは───やはり、死ぬ間際だからな。
この段階でコウに梃入れすれば、未来も変わる。ジグのような覚悟はさせるけど、死ぬ覚悟まではさせたくない。ましてや、特攻など言語道断。
「コウ。死ぬなよ?」
「死にたくはない。それに、誰も死なせたくはない」
「そうだ。お前は俺と同じ境地にいる。もし、誰かがヤベェことになったら助けてやれ。俺は整備士として、お前はパイロットととして、この場所を守るんだ」
「ああ。異論はない。………フッ。仲間か。俺にそんなものができるとは思っていなかった。それに、久々に誰かと長く会話したが、悪くはないな」
コウはまたニヒルな笑みを浮かべ、踵を返す。
「どこに行くんだ?」
「休憩時間も終わるだろ。戻る。シミュレーションは嫌いではない。それに………あんたの言った、改善ってのを試してみるさ」
図体がデカいだけのツンデレ猫ちゃんめ。
やる気になってくれたのはいいけど、表情と言動が一致しないから、わかりにくい。
ハーモンの時のように直接頭を下げるとは思えないが、それとなく謝罪はするのだろうな。
もうコウを縛り付けるものはないから。彼はこれから、ゆっくりと成長していくだろう。
「よし。残りはシェリーだけど───ああ、くそ。マジかよ。こんな時に!」
シェリーがいるレクリエーションルームまで足を運ぼうとした矢先、艦内にアラートが鳴り響く。
オペレーションルームから通達が放送された。
『全クルーに通達。先程、当艦の航行予定経路にて、救難信号をキャッチ。連合軍の輸送艦隊がアンノウンに襲撃されている模様。当艦は同胞の救出に向かいます。全クルーは所定の位置で待機せよ。パイロットは出撃準備。繰り返す───』
第5話のBパートは、戦闘が何回か発生する。多くはないが、少なくもない。5回ほどだったかな。
全勝するなかでチームは再び結束するのだ。であるなら、俺が後輩たちをフォローする必要もないが、救済へのルートマップには必要だ。
整備士見習いとして、俺はドッグへ向かわなければならない。シェリーもまた、レクリエーションルームからドッグへと移動しているだろう。彼女は根は真面目で、パイロットとしての意識も高い。機嫌を損ねたからといい、パイロットとしての義務を放棄しない。
結局、またしても会話をするチャンスを逃したが、まだ慌てる時でもないのだ。
「………いや、待てよ?」
走りながら考える。
第5話Bパートの回想シーンのナレーションはアイリが行った。
その語りが現在に移行した際、確かチラッとだったが、主要キャラの描写があったはずだ。
思い出す限り、それさえ利用できれば、まだチャンスはあるはずだった。
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