所詮は子供B04
「またお前と、こうして話をしたかったからさ」
「する意味があるか?」
「慰めてやるよ」
「不要だ。俺たちはそんな関係じゃない」
「じゃ、そういう関係になろうぜ?」
「フッ………なるほど。あんたはこうやって、あの馬鹿猿と金魚の糞を絆したのか」
一筋縄じゃ、いかないか。
ソータやアイリ、ヒナのようなエースと元々交友関係にあった面々ならともかく、最近は大人でいえばカイドウやシドウ、レイシアと仲が良くなり、パイロットではハーモン、ついには予備パイロットでクスドを懐柔した。ユリンはまだ途中だけど。
ここまですれば、コウだって気付くか。俺が俺だけのコミュニティを築こうとしていることに。
警戒されても不思議ではない。
コウはハーモンみたいな本質がワンコではないからだ。どちらかといえば構おうとすると無視を決め込む猫みたいな。
はは。どうせなら犬属性と猫属性の女の子をケアしたかったのに。なにが嬉しくて男を構ってるんだか。
こういうことしているから、レイシアにホモだと疑われるんだな。
「なんだよコウ。こっち側に来るのは嫌か?」
「ああ。嫌だね。俺は俺でやる。あんたの仲良しサークルに入って、馴れ合いに慣れてもみろ。危機管理能力の低下が免れないだろうな」
「ふーん?」
今のは、俺に喧嘩を売るでも、挑発するでも、どちらにも該当しない。
ただただ、コウなりの警戒と、自己保存………いや、防衛意識からくる、拒否に近いか?
「コウはコウでやるのか。具体的には?」
「馴れ合いはしない。自分の身は自分で守る。守れない奴は不要だ。その手段が乏しい奴はガリウスに乗る資格すらない」
「お前にはその資格があると?」
「そうでなければ、誰がパイロットなどやるか」
「じゃあ、シェリーは乗るなってことか?」
「………ああ。そうだ」
自己防衛と自己責任と自覚か?
それらを総じて資格と呼ぶコウ。彼の主張に該当する要素は、彼の過去に関係があった。
「自分の身は自分で守る、ね。………それって、ジグのことか?」
「なにっ………!」
コウはカッと目を見開き、これまでにない憤りを見せた。
手を伸ばして、俺の胸倉を掴んでくる。
「あんたが兄貴の名を語るな!」
「語るよ。友達だったもん」
「なん、だと? いや、それでもだ!」
コウがここまで激昂する理由。
それは彼の兄であるジグ・ギグスにあった。
生きていれば俺と同年代のパイロット科にいた。
エースはジグと交友関係にあったが、入学してから半年でジグはアスクノーツ学園に来なくなった。
ジグはハーモンと比較しても生粋の不良で、腕もよく、俺以外にも数人の友達がいた。
だが学園に来なくなった2ヶ月後、ジグは死体で発見された。かなり大きな事件だったが、そのインパクトが巧妙な隠れ蓑になっていた。エースの記憶にも印象に残っている。
「あの事件は、残念だったな」
「あれは………兄貴が、自業自得だったんだ! 誰にも助けを求めず、敵ばかり作り続けて………家にも帰らなくなり、最後は………殺された。もしジグが、責任のある行動を覚え、敵を増やさず、誰かに恨まれるようなことさえしなければ………くそっ」
「フォトロプシー事件」
「ッ!?」
「ジグはその首謀者にされたんだったな。加害者から恨まれるよう、仕組まれたんだって? けど、結局は本当の首謀者が発見されて、しょっ引かれたな」
「なんで、それを?」
「確かに、ジグは間違ったことをしたよ。あの事件の中枢にいたグループの幹部に目を付けられて、トカゲの尻尾切りにされたんだったな。確かにお前の言うように、ジグがある程度の危機管理能力があって、裏切られる前に逃げてさえいれば、結果は違ったかもしれない」
「なんでそれを、あんたが知っている!?」
本当に、なんでだろうな。
大半がエースの記憶にあったからだ。
語るうちに思い出す。ジグが最後になんて言っていたのか。
「結局、ジグはお前たち家族のところに帰らなかった。いや、帰れなかった。お前たちに迷惑をかけたくなかったんだとさ」
「だから………なんであんたがそんなことまで知ってる!?」
「音声データがメッセージで届けられてた。多分、死ぬとわかった前日にでも撮ってたんだろ。で、事件の数時間前に俺に送られてきた。聞いた時には、もうジグはあの世だった。あいつは言ってたよ。家族を愛してる。どうか弟は自分のようにはならないでほしい。本当の困難に陥った時、弟を頼むってさ」
「そんな………」
ジグというコウの兄も、なかなかヘビーな内容のメッセージを送ってくれたもんだ。
エースも気の毒だ。きっと、なにも知らないジグの弟の練習機を整備する度に、複雑な心境になっていたに違いない。下手をすればエースのメンタルがやられていただろう。
「なんで………今になって………」
コウは俺を見ながら泣いていた。初めて知ったのだ。兄の本当の心を。
「捜査があんたのところに来なかったのか?」
「来たけど、なんとかなったよ。ログを消去するように言われてたし、ジグも細工してたからな。メッセージも消した。事情聴取されて解放。消去したデータを復元されてたら困ったけどな」
「なんで、ありのままを言わなかった? あんただってジグの………兄貴のことで疑われてたかもしれないのに。無実を証明するために、メッセージを残したり、細工なんてしなければ………」
「ジグの努力があったからこそだな。俺に捜査が向けられたけど大したことないし。それに俺は、ジグの心を辱めるつもりはないよ。お前の兄貴は確かに最後は孤独で、自己防衛もできず、ただただ死ぬのを待つような生活をしてたかもしれなかったけどさ。………ジグは、良い奴だったよ」
「っ………ぅ、ぁあ………!」
コウは泣き崩れた。
あの一件で、コウの生活は荒んだ。誰もコウに寄り付かないし、犯罪者の兄を持つレッテルはどうしても拭えない。どこにいようと指をさされる。ひとりで行動するしかなかった。不良といえど決して同じ出自ではないハーモンと喧嘩をすることで、鬱憤を晴らしていたのかもしれない。そうするしか自分を保てなかった。
早く伝えてやれよ。と俺はもうひとりの自分に文句を言えなかった。
もし俺が当時のエースに転生しても、きっとコウにすべての真実を打ち明けられない。そんな勇気はどこにもなかった。
でも、今は違う。
「俺はジグに、お前のことを託されてんだ。学生時代はお前、なんでもひとりでやっちまうし。事務的な会話以外すんなって顔してるし。でも今は違う。ジグの言う困難な時だ。だから俺は、ジグの代わりに………なりはしないのはわかってるけど、俺なりにお前を助けるつもりだよ。ジグはさ、あんまり頭がいい方じゃなかったけど、気のいい奴でな。………好きだったな。俺は」
「ぐ、ふ………ジグ………なんでぇ………」
コウは蹲って泣いた。
彼の心に俺の言葉が響いているのかはわからない。隠していたのは事実なのだ。コウにとって、それは面白い話ではない。
しばらくすると、コウは再び立ち上がり、洟をすすり、赤くなった目を擦りながら、また俺を見る。
「俺の兄貴………ジグの代わりになるってのが、あんたの願いか? ………エー先輩」
「願いってよりも、趣味? 使命とか固く考えてるわけじゃないよ。てか、お前今俺のこと………」
「………ダメ、だろうか?」
「いや、嬉しいけど。お前、俺たちのなかに入れば、危機管理能力がどうのとか言ってたじゃねぇか」
「………初めてだったんだ。あの事件が起きてから」
「うん? なにが?」
「兄貴のこと………悪く言わないひとってのが」
この時、俺は初めてコウの素顔を見れた気がした。
コウはいつも、集団生活のなかでも他人との距離を線引きして、自分はその線の外側にいて孤立したがっていた。その分、大人びていた印象があった。
けれど今のコウは、前世で言う高校1年生くらいの男子の表情をしていた。
この作品において、ツンデレの発生率は異常だと作者も思います。
作者からのお願いです。
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