所詮は子供B03
喧嘩は長続きしなかった。
コウもシェリーも、長く語るタイプではない。
ヒナとクスドが不安そうにしながら両者を交互に見て、ハーモンは苛つきながらコウを睨み、ソータは俺の指示を待っていた。
仕方がないので俺がなにか言おうとする前に、コウとシェリーはその場から離れてしまう。
あれはいつだったか。ハーモンとコウが喧嘩して、勝手にドッグから出て行ってしまったことがあるが、それに似たような空気になる。整備士たちも「なんだなんだ?」と野次馬気分で俺たちを見ていた。
シドウが不在でよかったと思うべきか? 面倒な説教に繋がらない───違うな。あのツンデレも日々学習し、解決する術を知った。
ちなみにソータやハーモンもそれを知っていて、青いシルエットをした猫型を謳う狸みたいな万能ツール満載なロボットでも見るような目で、まーた俺を凝視しやがった。多分、シドウもひとしきり頭を抱えた末に、そうするだろうな。
なんて簡単にイメージできるのだろうな。チクショウ。日々の行いのせいか!
「エース先輩。行かなくてもいいの?」
誰しもが「はよ行けや」と言いたげな目をしていたなかで、ユリンだけがズバッと言う。相変わらず怖いもの知らずなんだからなぁ。
「………行くよ。ああ、行きますとも。ったく。俺だって暇じゃないのにさぁ」
「エー先輩。なんならコウの野郎、俺に任せてもらえねぇっすか?」
「よせ、ハーモン。喧嘩になるだけだ。コウを刺激しても、結局はふたりとも営倉にぶち込まれるだけだろ」
「けどよぅ」
「いいんだよ。こういうのは慣れてる」
そう。慣れてる。
自分に言い聞かせてないと、悲しくてやってられなくなる。
「シドウ少尉にはうまく言っておいてくれ。シミュレーションは先に進めてくれていい。合流できそうなら行かせるから。それから………おやっさん!」
「あいよぅ。行っていいぞ。シドウからも、隊のトラブルの仲裁にお前を派遣するよう言われててなぁ。お前も大変だねぇ。ええ? センパイよぅ」
カイドウは理解がある大人だ。ジャケットの製造の進捗も悪くないし、俺の休憩として送り出してくれた。
「学生気分が抜けてないったらもう………いつか懲罰が下らないかヒヤヒヤしてますよ」
「なーに。喧嘩ってぇのはガキの頃しか許されねぇ特権みてぇなもんよ。俺ら大人が殴り合ったら、それこそ懲罰対象だろうからな。まぁ、俺の目が届くところで整備士のガキどもが殴り合いなんざしたら、その場で俺が罰を下してやらぁ! 24時間フル勤務よぉ! 泣くことも笑うこともできなくなるぜぇ? さぞかし楽しいんだろうなぁ! がははははは!」
コンプライアンスをフル無視した発言に、学徒兵の整備士たちが「ひぃ!」と叫ぶ。
だが実際、少しだけ目にしたことがあるのだが、同級生の整備士同士で喧嘩になったことがある。
その際、すぐにカイドウが間に入って仲裁したのだ。両者の意見を聞いて、吟味し、どちらかではなく双方の意見の短所ではなく長所を伝えて、自分のアドバイスも混ぜて、両者を納得させた。元々、整備の過程で主張が食い違ったらしい。喧嘩にはなったが、真面目に意見をぶつけ合っていたのだ。
粗暴なのは言動と顔だけで、内面は優れた人格者なのだ。
喧嘩をしていたふたりが納得すると「テメェらがガチでこの仕事に情熱を向けてくれて嬉しいぜ。でなけりゃ激しく言い合わないもんな。なんて最高な日だ」なんて言いながら笑った。教育者としても最適。どこぞの副艦長にも見習ってほしいもんだ。
俺もドッグを出て、周囲を見渡す。コウとシェリーの姿はない。
「さて、どっちから追うかな。………ハルモニ」
『イェス。メカニック・エース』
ハーモンとコウが喧嘩した際は、ハーモンの愚行が本編にありありと描写されていたから、行き先がわかった。先回りが可能だった。だがハーモンの説得後、コウの居場所がわからなくて難儀した。
しかし今回は違う。レイシアにもアドバイスをもらって、ハルモニに新しい機能を加えた。彼女の権限を使って。
「コウとシェリーの場所を特定してくれ」
『イェス。………ヒット。コウ・ギグスは展望デッキに。シェリー・ダルシャナはレクリエーションルームにいます』
前回では使えなかった高性能AIであるハルモニが手元にある。監視カメラを駆使して、ふたりの移動先を特定できた。
ただ探し回るだけでは発見できる確率は落ちるが、艦内かつハルモニがいれば100パーセントで潜伏先を検索できる。これは大きい。
「ここからは展望デッキの方が近いか。ハルモニ。シェリーが移動したら教えてくれ。これから展望デッキに行く。終わったらレクリエーションルームに行くからな」
『イェス。メカニック・エース』
効率を熟慮した末、まずはコウのケアに取り組むと決めた。
エース・ノギはコウと数回の交流がある。整備科にいた時代、コウの練習機に触れた機会があり、意見を交わした。
コウは筆記試験の成績はあまり芳しくないが、赤点は取らなかった。演習で成果を発揮するタイプだ。
そして数回にして短い会話だったが、彼は効率を重視する傾向にあるというか………なかなか意外な思考をしているのだ。ファンブックにあった補足を読んだ際、とても感心した。
展望デッキに入る。そこはレクリエーションルームのように宇宙を一望できる通路になっていた。分厚い耐久ガラスが層のように重なっており、しかしそれにしては鮮明に広大な闇と、そこに浮かぶ星々を一望できた。
レクリエーションルームとの違いは重力があるかないか。それとベンチがあるかないかくらいか。重力発生装置の区画にあるから、ここにはいくつかベンチがある。休憩をもらったクルーたちがよく利用するらしい。
そんな横に広い空間に、ひとりの少年がガラスの前に呆然と立っていた。
俺は黙って、横に並ぶ。
「………除隊でも言い渡しに来たのか?」
抑揚のない声でコウが問う。
「なんで俺が?」
いきなり悲観的なことを言うコウに、俺はすました微笑を湛えた。
「あんたはシドウ少尉と、仲が良いだろ」
「仲が良い方だったら、俺も嬉しいけど。別にお前の処分を言い渡しに来たわけじゃないよ。第一、整備士見習いにそんな権限ないよ」
「あんたがミチザネ隊の副隊長に選抜されたって聞いた」
「少尉が、そうだったらいいのになって誰かが聞いて、噂になっただけだ。実際にゃ違うよ」
「じゃあ、なんで俺に構う?」
やっとコウは俺を見た。
ここにいたのがハーモンやシェリーだったら、またすぐ喧嘩になったのだろう。
けど不思議なことに、俺を見るコウの目は、喧嘩を売る前の吊り上がったものではなく、とても大人しいクールな少年のものだった。
ブクマ、リアクションありがとうございます!
以前からチラチラと登場していたコウやシェリーの攻略に出てみました。まだ平和な方です。次の話から物騒なことになってきますので、準備運動のようなものですね。
さて、土曜日が近づいてきましたね。一応、書き溜めはしているのですが、さてさて先週のように7回と6回の更新ができるかどうか。もちろん努力します。皆様の応援があれば、なおのこと!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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