所詮は子供B01
Aパートはパワハラから入り、破綻で終わる。
順調とは程遠い、問題が山積みとなる修羅場の連続。しかし、Bパートは違う。舞台は戦場に移り、生きるか死ぬかの瀬戸際で、私怨に拘っている場合ではないと、やっと認知するのだ。ソータも不器用ながら言葉を尽くした。
デーテルのパワハラと差別と理不尽でギスギスしていたなかで、クスドの裏工作でハーモンとソータが殴り合いになり、コウとユリンに飛び火して、カイドウだけでは足らずクランドまで出張って一喝し黙らせる。
管理不行き届きとして隊長であるシドウも隊員の前で説教を受けるも、効果はない。
で、俺が努力した結果、チームワークは良い方に傾いているし、クスドの裏工作も事前に阻止した。
俺が知るBパートはすでに始まっていた。レイシアに詰問されてから3日が経つ。
チームワークの方は、やっとシェリーとコウも連携を覚え、シドウの命令にも従うようになった。
本編では不眠症になりかけるくらい追い詰められて、頭を抱えたシドウは、今はすっきりした顔をして、以前のような差別は若干見受けられるものの、デーテルと比べればマシな方だ。隊長としてうまくやれていると思う。
それに隊員であるソータたちも、かなり熟練してきた。シドウを理解し始めたのかもしれない。非難を軽く流した直後に「それ以上のパワハラはエー先輩に狙われますよ?」なんて指摘をしやがった。あれか? ディープなキスをしろと?
いやいやソータくん。
マジで勘弁してくれない?
今、レイシアに恨まれたら冗談じゃなくなるの。本当に。
で、シドウも慣れたもので「やれるものなら、やってみろ」と答えた。ふざけんな。誰がやるか。
けれども、一番の変化というべき点がひとつ顕著となった。
あのハーモンが驚愕するくらいだからな。
ほら。今日も訓練が終わって、シミュレーションルームから一直線にドッグに足を運んだ少年が来た。
「先輩っ、エー先輩!」
「お、おお。クスド。どうした?」
「聞いてください! 僕、午前のシミュレーションでB判定をもらったんです!」
「マジか。やるじゃねぇか。こんにゃろ」
「わっ。い、痛いですよエー先輩。これって、褒めてくれてます?」
「褒めてんだよ」
「よかった、痛っ。嬉しいです」
仔犬が1匹、増えやがった。
あの陰気で、ハーモンの威を借るクズ………ではなくクスドが、年中暗い表情だったあいつが、別人みたく笑いながら俺の周囲をうろちょろするようになった。
これじゃまるで、小学生の低学年の子供がテストで満点を取ったと母親に報告し、賞賛をねだっているようだというか、そのものじゃねぇか。
クスドはソータよりも甘え上手で、俺にピトッと密着するなり頭を差し出す。犬みたく「撫でろ」と主張せんばかりのアピールに、お望みどおり首に腕を回して固定し、逃げられなくなったところでガシガシと撫でてやった。
「そいつ、予備パイロットじゃねぇか。B判定たぁ、やるじゃねぇか坊主」
「は、はい! あり、ありがと、ござま………」
カイドウが一号機からニュッと現れて褒めると、クスドは元に戻って萎縮してしまう。ピューッと俺の後ろに隠れてしまった。
「おやっさん。フラれたっすね」
「顔面凶器を気にしてんだ。言わないでやれよ新入り」
「聞こえてんぞテメェらぁッ!」
カイドウが怒鳴ると、師弟関係のような先輩整備士と同級生の整備士たちが逃げていく。
「ったく………そんなに怖いかね。俺のツラはよぅ」
「怒ると鬼も真っ青になって裸足で逃げるくらいには」
「言うようになったじゃねぇか。エース、テメェ」
「あっ。冗談です。おやっさんの笑顔は超素敵!」
「世辞だって一発でわかる嘘こきやがってよぉ」
カイドウとも軽口を叩ける仲になった。
なにせ、他の同級生の整備士たちが、先輩の整備士に師事したように、俺もカイドウに面倒をみてもらうようになって、自然に師事した関係になっている。
「それにしてもだぁ。この前までD判定だった予備パイロットを、どうやってB判定になるまで成長させた? お前がパイロット科だったこたぁ知ってるが、お前自身そこまで成績よくなかったんだろ?」
「それはまぁ、クスドが実は才能があったわけで。俺はその長所を伸ばしてやっただけですよ」
ちなみにソータのシミュレーションの結果はSS判定だ。ヒナとユリンがS判定。シェリーとコウとハーモンがA判定。このまま順当にいけば、クスドもA判定となる。ガリウスGにはA判定になってからしかパイロットになれないという制限があった。
「長所か。俺でも気付けなかった才能を、よく見抜いたな。参考までに教えてほしい。スクトの長所とはなんだ?」
シドウが俺たちの輪に入る。
振り返れば………ああ。なんていうか、欲しがってる犬たちが3匹、うずうずしながら今にも飛び出そうとしている。ソータとヒナとハーモンだ。
特にヒナは、レイシアからなんとかしろと言われて、結局は先延ばしにしてるからなぁ。よし、今日辺り、なんか手を打っておこう。数時間後にアイデアを出さないと。
「こいつ、敵の布陣のなかから核を見抜くのが得意なんですよ。だからすぐ攻勢に出て、最優先で敵陣を崩壊に導ける。タイムレコードも判定に大きく関わってるでしょう。多分、ソータよりも敵の殲滅速度が速いですよ」
「レビンスよりも? それは不可解だな。それならば、俺でさえ未だ出したことのないSSS判定になるではないか」
シドウの判定はSだ。限りなくSSに近い。
それに届かない理由は、実はクスドと同じ原因にあった。
それはクスドの致命的な欠点だ。どれだけタイムレコードを縮小できたとしても、A判定に届かない明確な事実があった。
「クスド。そのシミュレーション、味方の損害率は何パーだった?」
「えっ」
「シミュレーションはお前単騎が出撃するわけじゃない。味方を配置できるだろ。設定ではシドウ少尉と、ソータたち6人。それからお前たち予備パイロット限定で、13機分のガリウスを総動員できるな。で? もう一度聞くぞ? この旗艦となるグラディオス含め、損害率は何パーだ?」
「え、えっと………えへ。95パーセント」
「なにが、えへ、だよ。誤魔化そうとしてんじゃねぇ! 95パーって、ほぼ全滅だろうが!」
「で、でも! 周りの予備パイロットは誰も敵を殲滅できなかったんですよ!? 倒したのは僕だけですっ」
「それじゃあ勝っても意味ねぇんだよ。俺だって死んでんじゃねぇか! このやろっ。褒めるのは無し! 罰を与える!」
「い、いででで!」
クスドの耳を摘んで引っ張った。無重力だから簡単に体が浮く。体重の負荷が軽減されて顔から耳が裂けることはないが、左右に引っ張れば苦痛を与えられた。ジタバタと暴れるも、日々整備士として働く肉体派にとっては、ガリ勉の抵抗など虫の羽ばたきにも等しい。効果は無い。
ひとしきり罰を執行し、許して降ろすと、クスドは失態を理解してしゅんと項垂れた。
「ご、ごめんなさい。エー先輩。やっぱり、僕は」
「泣いても反省してもいいけど、諦めんな。今回はお前が本気でとり組んだから、俺も本気で叱っただけだ。本気でやらねぇやつに、ここまでしねぇよ。損害率は悲惨だが、B判定って結果は否定しねぇ。よくやった。クスド」
「せ、先輩………!」
「てなわけでシドウ少尉。なにか良い戦術書とかありません? こいつ、極端に防御が下手なんです。守りってのを知らない。でも守りを知ったらどうなると思います? 必然的にタイムレコードは伸びてしまうけど、クスドは化けますよ?」
「そうか、守りか。俺もかつては同じ悩みを持っていたな。うん。それなら俺が学生時代に使っていたものが、まだあったはずだ。スクト。あとで受け取りに来い。ノギの期待に応えるまであと一歩だ。A判定になって、俺さえも驚かせてみせろ」
「は、はい! ありが、とうござい、ます!」
おおお。と整備士たちが声を上げる。
シドウの笑みを見るのが珍しいからでもあるが、彼が直接誰かを褒めて認めるのは、もっと珍しいからな。
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