所詮は子供A12
心臓が縮み上がるかと思った。それくらいのショックが俺を襲う。
まるで、小学生の頃に親に見せなければならないプリントがランドセルの奥から出てきて、期限がとっくに過ぎていて、証拠隠滅しようと画策した瞬間、背後にいた母親が「なんなんだぁ、それはぁ」と某狂戦士の形相と台詞を述べたれた時のような。
とにかく心臓麻痺になりそうなほどの恐怖があった。
「ユリ、ン………」
「こんばんは。エース先輩」
選択肢を間違えた瞬間に刺殺されてゲームオーバーになるヤベェ女が、いつもの妖艶な笑みを浮かべて、そこに立っていた。
「よ、よう。なにしてんだ? そこで」
「エース先輩こそ。パイロットの更衣室になにか御用?」
「あ、ああ。頼まれてな。備品を昼にストックしておくの、忘れたんだよ。バレるとおやっさん………カイドウさんに怒られるからな」
「あら。エース先輩もおっちょこちょいなのね」
「俺だって、ミスくらいはするさ」
咄嗟に出た虚偽の言い訳も、整備士ならではだ。実際、カイドウに頼まれて、備品のストックのためにパイロットの更衣室を訪れる整備士見習いの同級生もいる。
「エース先輩」
「なんだ?」
「なぜエース先輩は、そんな雑務を押し付けられたのですか?」
「そりゃ、俺は同期とは違って成績もよくないし。カイドウさんのパシリ同然だからさ」
「なぜエース先輩は、お強いのに下僕同然に働くのですか?」
「そりゃ、お前の見当違いだ。俺は強くなんかないよ」
「なぜエース先輩はパイロットに志願なさらなかったのですか?」
「そりゃ、俺は整備科だったし」
「なぜエース先輩は整備科に転部されたのですか?」
「そりゃ、俺の実力が伴わなかったからさ」
「なぜエース先輩はみんなのために動くのですか?」
「そりゃ、俺の趣味みたいなもんだからさ」
待て。なんかこのやり取り、なんかの絵本で見たことあるぞ?
さながら、オオカミを主食にしている赤ずきんちゃんから、彼女のおばあさんのふりをして、捕食から逃れようとするオオカミみたいだ。絵本じゃ逆なのにな。
されどもユリンの妖しく輝く瞳から逃れることはできない。
ストーリーのなかで不定期で発生する超難問に一発で正解を回答しなければ即死するとか、とんだクソゲーだ。
「エース先輩」
「うん? ………イッ!?」
精神的疲労で渋面してしまったのだろう。一瞬だけ深く目を閉じて、問われたので目を開くと、まばたきの数秒の間を盗んだユリンが、眼前に移動していた。
「お、おい。近いよ?」
「………」
「ユリン?」
「………」
「な、なんか言ってくれ」
距離にして15センチもない。
急接近したユリンから、なぜか目が離せない。釘付けとはまさにこのことだ。
初めて直近で見たユリンは、とても綺麗だった。
きめ細かな白い肌。小さい鼻や唇はバランスがよく、弧を描く目の妖艶さを際立たせている。
小柄で華奢。スタイルは年相応かな。いや、胸はヒナやアイリと比較すると少しだけ劣るが、俺の同期のなかには少数だがユリンのファンがいる。コアな連中だ。
「エース先輩」
「う、うん」
「私、強いひとが大好きなんです」
「そうなの? あ、いや。志願する前日にも聞いたな」
「ええ。だから、エース先輩は強くあってくださいね」
「………」
言うだけ言って、ユリンは俺から離れて去っていく。
なんなんだ、あの女。
そもそも、なんでこんな時間に出歩いてやがる?
いったい、俺になにを求めてやがる?
俺は本編では整備士AとかBとかCという名称のモブだろ、どうせ。
ユリンとは決して会話イベントなど発生しなかったはずなのに。なぜそんな期待をする?
「答えを知りたいですか?」
「ぅえ!?」
蛇睨みから解放されて、安堵した次の瞬間。振り向いたユリンから奇襲。
「知りたいなら………そうですね。私が初めて、エース先輩と会った時のことでも、思い出してくださいな」
ユリンは初めて、なにかを狡猾に狙うような笑みではなく、どこか照れたような苦笑を浮かべた。
そんな彼女の背中が通路の曲がり角で消えるまで見送り、またひょこりと顔を出して奇襲しないか警戒し、数分後にやっと安全を確保したと確信。自室に戻って考える。
ベッドの上で前世ではなくエース・ノギの記憶を辿る。
思い浮かんだのは、ユリンと出会ったのはヒナたちと知り合ってから、そこまで経っていない時期のことだった。
エース・ノギの記憶によると、エフナールという家名は聞いたことがない。有名な名家の出ではないユリンは、言動がお嬢様っぽくて、それが気に入らなかった3年生の女子に絡まれていたところを、事故を装って助けたのが始まり───だったような?
その時のユリンは感謝してくれたけど、それから仲良くなることもなかった。エースはユリンの訓練機の整備の担当ではなかったし。近くにいても声をかけてくれることはなかったし、エースも声をかけることはしなかった。
もしかして、俺はユリンを勘違いしているのか?
もしかすると、ユリンは俺が思うより純粋な子なのか?
天破のグラディオス本編では、様々なアクシデントが連続したから、ソータと同じく歪んでしまったとか。あり得なくもないのか。
少しだけユリンの評価を改めて、警戒などせず、フランクに話しかけてもいいのかもしれない。
クスドと同じだ。もしそれでユリンが歪まず、このままでいるのなら、本格的に救済を視野にいれるのも有りなのか。
「………まーた、やることが増えちまった」
『メカニック・エース。私も微力ながらお手伝いします』
「ありがとよ、ハルモニ。じゃあ、部屋に帰ったらレポートの作成と、クラウドにあるレポートの検索をお願いするかな。かなりハードスケジュールだぞ」
『喜んで』
みんな親身になってくれるが、ハルモニのような裏表のない高性能AIが手元にあるのは、かなりありがたい。
今日はあまり眠れないかもしれないな。と苦笑しながら、借りている士官室へと足を進めた。
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