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所詮は子供A10

 時刻はすでに就寝時間を過ぎている。


 消灯こそしないが、学徒兵たちが動き回る時間でもない。未成年は夜勤シフトに入れないとかいう、パワハラが飛び交うくせに、そういう謎に配慮したモラルはあるわけで。


 大人以外に通路を移動する子供というのは俺しかいない。


 クルーと数人すれ違うも、大半が知った顔、つまり整備士たちだ。たまにオペレーションルームのクルーに遭遇するが「はよ寝ろ」と注意されるだけだった。


 ここでは軍属になった以上、学徒兵もある程度は大人の扱いを受ける。自己責任だ。夜更かしは自由だが、翌朝の体調に不調をきたしても自分の責任。仕事に手抜きは許されない。


 俺もその範疇にいる。だから止められはせず、注意を受けるだけ。怪訝には思われるだろうが、深く懐疑されることはない。


 それを利用して、とある部屋に向かった。


 ここ最近、よく出入りしているところだ。かといって利用した経験は一度だけで、顔を出すのみだが。


「そろそろだと思うんだけどなぁ。………ハルモニ」


『イェス。メカニック・エース』


「更衣室に誰かいるか?」


『イェス』


「あちゃー………やっぱり来たか」


 面を見ると決めたのだ。


 あらゆる想定をしておく必要があった。


 例えば、本編を参考にして、発生しなかったイベントが別の目的に変化して起こってしまったとか。


 それが一番厄介で、できるなら回避しておきたかった。未然に防ぐのがもっとも効率的なのだが、生憎俺のスケジュールが過密すぎて、深夜にしか時間が取れなかったのも事実。


 だからこうして、ここ最近は同じ時間に更衣室を訪れた。


 たったひとりの、これまで会話をしたことがなかった少年に会いに。


「更衣室のロックを解除」


『イェス。メカニック・エース』


 相手は小心者だが狡猾だ。施錠を必ずする。だがこちらには艦を管理する高性能AIが味方しているのだ。システムのコントロールは、すでに手中にあった。


「ハッピーニューイヤー」


「あ、えっ………なんで………」


「明けましておめでとう。てなわけで大声出すなよ?」


 我ながら意味不明な挨拶をしながら更衣室に突入する。


 そこにいたのは、やはりあの少年だった。


 クスド・スクト。ファンからの印象は「クズ」という、不名誉そのもの。


 クスドは狼狽しながら、手に持っていたものを背後に隠した。


「ハルモニ。ドアをロック」


『イェス。メカニック・エース』


「な、なにそれ………そんなの知らない」


「ん? ああ、これ? 一種のチートツールだよ」


「チート!?」


 クスドが知ったら、まず欲しがりそうなものだよな。


 現に今、突然現れた俺に恐怖しながらも、興味だけは明確に瞳に浮き彫りになっていて、俺の顔と右腕を交互に見ていた。


「さて、別に新年を迎えたわけでもないけど、一応さ。聞いておかなきゃならないんだ。ここでなにしてんの?」


「それは」


 答えにくい質問だよな。


 クスドはとある細工をするのに夢中で、隠せたものは小さな要因。しかし大半が丸見えだ。彼がいた場所に答えはある。


「ハーモンのロッカーなんて漁ってたのか? お前」


「い、いや、それは………」


「当ててやろうか? 今、背中に隠してるのはガリウス用の塗料だ。一号機のな。それを小瓶に詰め替えたんだろ?」


「なんでそれを!?」


「整備士舐めんな。ちょっとでも塗料が減ってたら、誰でも気付くよ」


 それは嘘だ。誰も気付かなかった。


 しかし、クスドがソータにそこまでする原因があるのだろうか。


 本編では、また仲が悪くなったソータとハーモンが、より険悪になるようにクスドが仕向けた。


 ソータのガリウスG一号機の塗料を、ハーモンのロッカーにぶちまけたのだ。そして小瓶をソータのロッカーのなかに隠しておく。


 演習の時間になり、ノーマルスーツに着替えようとしたハーモンが青く塗られたそれを見て怒り狂い、ソータに殴りかかる。否定するが、ロッカーから原因となった小瓶が見つかり、さぁ大変。証拠があるのでは言い逃れも難しい。


 という流れになっていたのだが、更衣室の入室記録を照会し、クスドが犯人だったと、第8話で判明する。ハーモンとソータが決闘みたいなことをして、シドウが止めるために述べた事実だった。


 比べて今はどうだ。ソータとハーモンは、馴れ合いこそしないが信頼がある。


 けどクスドの性格を考えればわかる。信頼が崩壊するほどの仲違いをさせたかったのだな。


「ま、座れよ」


「あ、う………」


「別に、お前のことを密告しようだなんて考えちゃいねぇから。ほら、座りな?」


 ハーモンのロッカーを閉めて、その前に座るよう指示をすると、恐怖で震えるクスドはゆっくりと腰を下ろす。


 俺はクスドの隣に並んで座った。


 しばらく沈黙が続く。クスドは塗料を詰めた小瓶の存在を知られ、両手で隠すように握っていた。


 俺はクスドのことを、そこまで………好きではない。だが、評価はしているのだ。


 クスドが覚醒するのは第1クール終盤だ。


 クスドはアスクノーツ学園に通うパイロット科の1年生だ。成績は良くもないが悪くもない。中間辺り。


 学生時代からハーモンに取り入り、舎弟をしていた。グラディオスに来てからもべったりだったな。


 パイロットに志願するも能力で劣る。ただアイリより適正があったので、シミュレーションで実力を伸ばす予備パイロット扱いとなっていた。


 だが結局、クスドはガリウスGに乗ることはなかった。覚醒してからもだ。


 クスドはクランドの部下となる。


 彼はいつも狡猾だ。小心者だが、裏を返せば、いつも一歩引いたところから全体を見渡し、誰の味方につけば安泰なのかを見抜く能力に長けている。大局を見抜いて生き残る術があった。


 学園でもグラディオスでもハーモンの舎弟をやっていたのは、ハーモンは誰とも馴れ合わず、シドウやクランドが相手でも立ち向かっていたからだ。乱暴な人物であっても、その傘下にいるなら、庇護されているも同然。


 ゆえにクスドはハーモンに従事し、ハーモンの敵を裏から攻撃し、ハーモンをより孤立化させ、味方がクスドしかいないと思わせることにしたのだ。一種の洗脳に近い。


 そんなクスドだが、今俺がいることで───パシリの意味を失ってしまった。


 なんて言ったって、ハーモンはすでに狂犬ではなく、忠犬だ。


 ソータたちと連携を可能にし、シドウの指示にも従い、俺に頭を下げてくる可愛い後輩になってしまった。


 そんな人物の傘下にいたって、クスドの旨味はない。有事の際に名前を出しても「あ、そう。だからなに?」で終わってしまう。


 そうか。


 だからクスドは、ハーモンとソータが再び仲違いして、険悪な仲にしてやろうと画策したわけだ。


 周到にも深夜にやるだけあって、俺以外には発見されなかった。ハルモニには筒抜けだが。


 ある意味で、クスドは俺と同じなんだな。


たくさんのブクマ、リアクションありがとうございます!

先日はまた性懲りもなく、ヒナのイラストを作ってしまいました。イカれたカウンセラー、レイシアの会話のなかにあったシーンです。宇宙戦艦の艦内って、どうしてもイメージできず、学校のなかとか、潜水艦のなかみたいな背景しか作れません。きぇぇ


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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