所詮は子供A09
「そういえばなんだけど」
「はい?」
「エースくん、みんなのために頑張ってるのは知ってるよ。この前提出してもらったレポート、ほぼ私の見解と一致してた。男の子に至っては初見のものもあったよ。特にハーモンくん。あの子、絶対にカウンセリング受けてくれないし」
狂犬から忠犬になったハーモンとは、あれから毎日会話するし、たまに一緒に食堂でおやつをねだりに行く仲となった。
ハーモンが幼かった頃の話しや、学園での葛藤、グラディオスでガリウスGのパイロットになってからの悩みを聞けた。すべてではないが、要約したものをレイシアにレポートとして提出した結果、彼女の力になれたようだ。
それは嬉しい。レイシアとは共犯者としてではなく、仲間として付き合っていきたい。信頼されて嬉しいと思えるし。どこぞの虫ケラ副艦長とは違って。
しかし、なんだ?
レイシアが向ける、どことなく底冷えするような視線と、そこに秘めた仄暗い感情は。
やはり、心理学など学んだことのない素人が、プロの仕事に足を踏み入れて引っ掻き回すのを好ましく思っていないのだろうか。
「最近は男の子ばかり送ってくれるのは助かる。けどさ。エースくん、女の子に無頓着すぎない?」
「………へ?」
「もしかして、異性に興味ない?」
ば、馬鹿な。
なぜそう思われる? 待てよ? まさか午前の一件が、もうグラディオスの隅々まで広まったとか?
ありえる。噂なんて、そんなものだ。
それに俺は公言してしまったものな。どこぞの副艦長にディープなキスをするぞと。してやりたいとも。遺憾ながら。演技だったとはいえ。
「そ、そんなことはないです! 俺、女の子も好きですし!」
「も? もしかして、どっちもいける系?」
限定ではあります。はい。俺はソータにディープなキスをしようとした前科があるので否定できません!
けど違うんです。勘違いなんです。俺は同性愛に理解があるだけで、ノンケなんです!
女の子の方が大好きだけど、とある深い事情があるから、ネームドキャラクターにはお触りは極限避けているだけなんです!
って、説明できたらいいのにな。
「そういうわけじゃないです。でも、やることが多くて。学園とは環境が違うから、俺も戸惑っているんですよ」
「もっともな理由だね。でもさ、そろそろ気にしてあげなよ? ついさっきなんて、ヒナちゃんが散々愚痴ってたんだから」
「え、ヒナ?」
「そ。エー先輩と最近お喋りできなくて寂しい。だって。エースくん、意外とモテるねぇ」
カウンセラーが、ヒナの秘密を、悩みの種になってる本人に告げていいのだろうか。
「………いや、嘘だぁ」
「嘘じゃないよ。昨日だってここで愚痴ってたし。同行したアイリちゃんと一緒に慰めたんだからね。そろそろヒナちゃん、クッキー食べ過ぎてお腹周りが気になるだろうし、声をかけてあげたら?」
「え、ぅえ? いや、え………?」
前世で、こんなことを言われた経験がないから。それが1割。
しかし残りの9割は、別の要因で混乱をきたしていた。
実はヒナは、本編では………ソータに興味があったのである。
特に第5話。たった今現在。例えば演習でソータと組んだ際、頼られた時はヘルメットのバイザー越しだったとはいえ、明確に頬を赤らめていた。
演習が終わればソータとハイタッチして、とてもいい笑顔で笑った。他の異性には見せなかった顔だ。
それからアイリと同じくらい距離を詰めていくのだ。
つまり、ヒナが俺に興味など抱くはずが、ないのである。
「ヒナが俺のこと、そんなふうに思ってるはずが………あいつ、他に好きな奴がいて………」
「ハァ。鈍いねぇ。それにおバカさん。あのねぇ、エースくん。確かにサフラビオロスの一件があって、ヒナちゃんだって正常な思考ができなかったとは言えだよ? 夜中に部屋を抜け出して、わざわざエースくんのところに行くと思う? 逆にエースくんだったら? そういう子がいて、特別な感情もなく、自室を抜け出してその子のところに会いに行く?」
「いや、それは………しないと思います」
「でしょ? しかもあの子、エースくんのベッドで寝ちゃったんでしょ?」
「ちょっ………あいつ、そんなことまで言ったんですか!?」
「言ってたよ。手を出さない辺りエー先輩らしいねって苦笑してた。まぁ、そこは大人として褒めておくよ? よく頑張りました。よくできましたエースくん。あんなすっごいおっぱいした子が近くで寝て、よく手を出さなかったねぇ」
「っ………セクハラですよ」
ちくしょう! 全部筒抜けだ!
「あ、ちなみにだけど、艦内での恋愛は自由だよ。節度さえ守ればね。あ、シーツ汚しちゃったらここに持って来ていいよ。秘密で洗ってあげる」
「レイシアさん。未成年になんつーこと言ってんですか?」
「んふふ。そっか。エースくんは私が持ってるお砂糖と小麦粉と茶葉が枯渇してもいいって言うんだ? ふーん?」
あ、これダメなパターンだ。
俺ならわかる。ファンとして。レイシアはクランドも黙らせるくらい怖いから。
「じゃ、早期解決を期待します。そうだ。詳細を知りたいから、会話もレポートに書いてね。事後まで持っていけたら直接連絡してくれてもいいよ。ハルモニの記録も消去できるし」
イカれてやがるこのカウンセラー!
ヤれと? お触り厳禁を決めたファンに、触るどころじゃない粗相を、やらかせと!?
「コホン………ヒナはまだ、15歳ですよ」
「先週16歳になったよ。誕生日を祝ってもらえなかったって泣いてたし」
そういう問題じゃねぇんだよ!
男としちゃ、疼くものがあるけど。けど………ね? モラルって、大切だよね?
犯罪。ダメ、絶対。
こうなったら話題を変えるしかねぇ。
「レイシアさん。俺が提出したレポート、読みました?」
「え、なに? もうすでにヒナちゃんペロリしちゃった?」
そうじゃねぇよ。
「ほら、例の………報酬?」
「あ、見てなかった。あのファイルがただごとじゃなくてさぁ。今見るね………ダレコレ?」
よし。シドウの別人を思わせるキラキライケメンスマイルで、無事脳細胞が死滅して記憶までぶっ飛べ。
「それから、もう噂になってるでしょうけど。そのスマイルを作った原因も、隠しカメラで撮ってます。次回のカウンセリングに使えるでしょうし。添付しますね。それじゃ、俺はこれで」
「エー。ナニコノ、意味ワカンナイ笑顔ハァ………うん?」
映像データをクラウドにアップし、メディカルルームを出た。
気になって2分くらいドアの前で聞き耳を立てる。
で、案の定。
「あひゃひゃひゃひゃっ! うわぁ、なにこれぇえ! あーっひゃひゃひゃ!」
みんなが憧れる白衣の天使とは思えない、日頃の鬱憤を爆散させたような汚い哄笑が聞こえた。耳を澄ませる必要なんてなかった。
満足して、今度こそ去った。
レイシアがイカれてきましたが平常運転です。書いてて楽しかったです。
次回、新キャラを出します。
作者からのお願いです。
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