所詮は子供A07
まだだ。これで終わりなはずがない。
急ぎデーテルに接近し、あらゆる危険を想定し「危ない!」と叫んでは緊急避難を促した。
カイドウの指導でドッグは整理整頓が徹底されているが、思わぬアクシデントはどこにでもある。
デーテルは運悪くもそこに飛び込んでしまったわけだ。
とにかく投げたり、間に合わなければ蹴ったりと繰り返す。
デーテルの軍服が薄汚れていき、半壊し、原型を失っていく。
歓声はなりやまない。サッカーの代表戦決勝戦を彷彿とさせる熱狂が、デーテルが宙を舞う度に沸き起こる。
一応手加減はしたつもりだ。ドッグはガリウスがあるからな。デーテルをぶつけて装甲に傷を付けてはいけない。
最後に再びジャイアントスイングして、床を回転しながら滑っていくところで、デーテルは生意気にも四肢を利用してブレーキをかけやがった。
腐っても軍人だ。宇宙戦艦の副艦長。無重力空間での姿勢制御もお手のものか。
仕方ない。膝蹴りでもぶちかますか。
「デーテル副艦長殿っ。危なぁぁああああああい!」
「わ、わかった! わかったから! 私の側に近寄るなぁぁあああああああ!」
渾身の力で叫ぶデーテル。いい歳した大人が涙目になっていた。
いったいなにを理解したのかといえば、緊急避難の過程で、デーテルが「貴様を営倉に入れてやる」だの「裏切り者め」だの「二度と艦内を歩けぬようにしてやる」だの「私に手をあげて許されると思っているのか」だの、一方的に叫んでいた。でもそんな脅しは通用しないと、やっと理解してもらえたんだ。
俺はただ、危険から遠ざけて差し上げただけだからな。
糾弾される覚えはない。実に遺憾ながら、デーテルの言動は意味不明だった。
「く、くそぉ………忌々しきゴキブリめっ。飼ってやってもいいと考えた矢先にこれだ」
「ゴキブリィ? 飼う? え、副艦長。正気で言ってます?」
「黙れ! い、いや。もういい。この件はもういい。勝手にしろ………」
起き上がったデーテルは、ひとり寂しく去っていく。
「士官に暴力を振るうとは………軍法会議にかけてやる」
「なにか仰いましたか? 副艦長殿。もう一回避難します?」
「ひっ………なんでもない! なにも言ってないから!」
「そうですか。よかった。ではお気を付けて。良い1日を」
「疫病神め」
「ディープなキスします? 床か、俺か」
「ひぃ」
跳躍してドッグから飛び出した。四肢を使っても俊敏。さながらゴキブリのよう。
数秒後、ドッグはワールカップ決勝戦の延長戦で、優勝を決めたゴールをした瞬間のような大歓声に包まれた。
デーテル、本当に嫌われてんのなぁ。
「やるじゃねぇか坊主!」
「マジでスカッとしたぜぇ!」
「いやでもよ、これガチで不敬罪や傷害罪で刑罰に処されるんじゃね?」
「なに言ってんだ。フクカンチョー殿は半分くらいが優しさでできてんだろ? 許してくれるさ」
「許さなかったら俺たちもディープなキスをくれてやろうぜ!」
「ははははははは!」
気のいい連中がこと。
軍医ならび整備士を敵に回すと怖いからな。
これで当分はデーテルは俺たちの目の前に姿を現せないはずだ。任務を除いてな。
「おい。これはなんの騒ぎだ?」
「おうシドウ! 我が倅よぉ! 今ここにいる敏腕の詐欺師が、ヘタレ野郎に一発かましてやったところだぁ!」
怪訝な目をするシドウがドッグに入ると、上機嫌なカイドウが絡む。
詐欺師て………いや、違いないか。
「そうか………デーテルがボロ雑巾のような姿で泣きながら去って行ったが、やったのはお前か。よくやった。エース」
イケメンはこれだから。見たこともないようなキラキラとしたエフェクトが飛び交う笑顔を浮かべたシドウは、親子揃って上機嫌になって俺の頭を撫でる。
お陰で「ア゛ッ」と声を上げそうになった。惚れそうになるくらいイケメンだった。
だからレイシアに改造してもらった端末で、シャッター音を消したアプリでパシャリとな。今日の賄賂を確保した。珍しいものを見たレイシアが死ななければいいな。
「よし。今日の演習を開始する。士気も高まっただろう。そのモチベーションを維持して、課題に取り組むように!」
「ハイッ!」
「いい返事だ」
ソータたちも、こんな大きな声で応えを返すんだな。シドウも面食らうが、薄く笑っている。
そして、シドウたちミチザネ隊が演習のため発進して数分後。俺にも予期せぬことが起きた。
なんと、俺を恨んでいたであろう大半の同級生らが、頭を下げに来たのだ。
どうやらヒナたちが暗躍して、説得し続けてくれたようだ。だが彼らは、最近になって俺に向けていた感情がお門違いだと自覚したという。グラディオスクルーになって2週間。戦場というものを知った彼らに芽生えた変化が、あの事件の難易度を知るきっかけとなり、あれ以外に方法がなかったと理解を促した。
俺も改めて頭を下げた。今しかなかった。
双方が了解し、見ていたカイドウが間に入って和解の証人となってくれた。
「これでお前も、心置きなくクルーの仲間入りしたってわけだな! じゃあ遠慮はしねぇぞ。一号機だけじゃなく、ジャケットの開発も手伝えや。お前にゃそっちの素養もありそうだ」
カイドウも彼なりに悩んでいたらしい。俺たちがいつまでも仲違いしているのは、しのびなかったという。
これでなにもかもが順調に進む───とは、いかないんだよな。
やるべきことがある。
ジャケットの開発にも携われることになったのは幸いだ。
第5話の次は、ついに俺たちファンの心を抉った事件が生じた第6話である。
俺が次になにをすべきかなんて、明確だった。
結局、AIイラストは描けませんでした。
2日間にわたる大量更新はいかがだったでしょうか?
また来週、実現できたらいいなと思います。実現するには皆さまからの応援が必要です。
作者からのお願いです。
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