所詮は子供A01
清々しい朝───というのは宇宙船は縁遠いもので、部屋全体が壁で覆われ、窓ガラスなどない閉鎖的かつどこか閉塞感のある部屋で起床する。
枕元に置いておいた支給品の端末を操り照明をつけ、まだ眠い目を擦りながらベッドから這い出る。
男子の朝なんて、美容に気を使う意識高めの連中を抜きにすれば適当なもんだ。
鏡の前で洗顔し、髪を整え、軍服………ではなく、整備士に支給されるつなぎを着る。
「今日で………2週間目か」
グラディオスがサフラビオロスがあった宙域を発って、2週間が経過した。
模擬戦と整備と戦闘が交互に行われる、なんら変わらない日々。
俺たち学徒兵が見習いパイロットになったり、見習い整備士になって、かなりの経験をした。
そうなると、そろそろやってくるのが油断だ。大敵と続くように、そういうタイミングでなにか良くないことが起きる。もう、ちょっとした、一種のジンクスみたいだよな。
慣れで気が緩んで「俺たち結構強いんじゃね?」と思ったところに、ドカンと撃たれる。ひとりが撃たれると恐怖が伝播してパニックに陥る。
俺たち名もないキャラクターならまだしも、ソータたちネームドキャラクターがそれに陥るのはまずい。
勝てることは勝てるのだ。いつもギリギリの辛勝。
そんな環境のなかで、なにかが壊れていく。いつも誰かが壊れていく。
彼らは思い出す。ここは作られた平和が維持されていたサフラビオロスではなく、いつ命を落としても不思議ではない戦場なのだと。常時張り詰める緊張やストレスで、新兵が陥りやすいPTSDや不眠症の発症。ピリついた空気に精神が耐えられず、直情的になり勃発する喧嘩の数々。
カウンセラーのレイシアだって参ってしまう。
俺は極力、それを避けるために暗躍するつもりだが、24時間フル稼働はできない。限度がある。レイシアと連携していてもだ。
大局を見極めなければならない。
一点ではない。全体の面を。
さもなくば、バランスを欠いて全体的に崩壊しかねない。
辛うじて現状を繋ぎ止めているのが、俺が「天破のグラディオス」という今俺がいる世界を描いたアニメを最終回まで視聴した結果、生存者と死亡者を知り、結末を知っていること。グラディオスは生還する。だが支払った代償が大きすぎる。
勝てることは勝てるのだが、あの鬱々しい展開を繰り返してはならない。
より良い方向に仕向けるのが、俺がここにいる理由であり、使命だと確信していた。
───だというのに。
「あっ………くそ。ズレた」
「待て。ここを、こうして………いいぞ」
「よし! いい感じだ!」
偶然通りかかった学徒兵らが寝床にしている部屋の廊下を歩いていると、以前振り分けられた俺の部屋のなかで、同級生らが熱意のこもる会話をしているのが聞こえた。
彼らは俺と同じく、エンディングのスタッフロールで名前のないモブキャラだ。整備士A、整備士B、整備士Cと書かれていて、キャストも新人だったりと。本編でひとつでもセリフがあればいい方かな。
この世界は最早、アニメの世界などではない。喜怒哀楽と痛覚がある。みんな生きている。二次元の世界ではない。ここも現実の世界だ。となれば、彼らにも名前がある。
ただ俺は第3話で学生らの安住の地だった宇宙コロニー、サフラビオロスを真っ二つに破壊した戦犯である。強く恨まれていた。もう二度と笑顔で会話をする機会など訪れないくらいに。
しかしだ。
「あ、この素材いいんじゃね?」
「学習させろ!」
「いい感じに成長してきたなぁ。次はヒナの写真を学習させてみよっと」
「俺はレイシアさんを。へへっ」
「じゃあ俺はユリンちゃんの顔をヒナちゃんの体に貼り付けて………だぁ、クソ! また首から下のバランスが崩れた! 顔のサイズを合わせるだけだろうがよ!」
………あいつら、命懸けの戦場で、息抜きとはいえ、なにをしているのだろうね?
………いや、みなまで言うまい。
俺たちだって年頃の男の子! 閉鎖的空間で、自由も制限され、集団生活を余儀なくされ、抑圧的な生活に潤いを求めているんだよな。
「………ハルモニ」
『イェス。メカニック・エース』
少し離れたところで腕の端末を起動。
カイドウから操作権限を貸与されたまま、回収を忘れられた高性能AIを呼び出した。
「あの部屋の馬鹿ども、なにしてると思う?」
『検索します。………ヒット。彼らはサフラビオロスで開発されたAI、通称フォトロプシーを駆使して、写真の合成と編集を行っているようです。また、外部から保存したグラビア誌の女性の裸体を学習させ、グラディオスクルーの顔を合成、生成しています』
だよなぁ。
エース・ノギの記憶を辿ると、サフラビオロスでそんなAIが出回って、モラルのない一派がド直球のエロいイラストを生成し、学園のなかでも特にスタイルと美貌が優れた女子生徒の合成写真を作り、個人で楽しむ範疇ならともかく、有料で売り飛ばしたんだもんなぁ。
本人の許可とか、すでにそういう問題ではない。
その一派はすぐにしょっ引かれ、フォトロプシーの使用は禁止されたが、なかにはまだ持ってる奴がいたと。あいつらがそうだったのか。
「で、ハルモニが分析できるってことは、フォトロプシーを支給された端末に移して、操作してると?」
『イェス。すべて把握しております』
「あいつらも整備士だろうに………いや、ハルモニの存在のこと知らないのか? 馬鹿だねぇ。………ハルモニ。今すぐあいつらの保存した画像を削除。これ以降の合成写真の保存もできなくしてやれ。この事実が判明したら、あいつら処分されかねねぇ」
『イェス。メカニック・エース』
ハルモニほどの高性能AIは、フォトロプシーよりも上位の存在だ。
やらせてみたら、すぐにプログラムの書き換えを完了させてしまった。
で、
「うわぁああああああああああああああああ!!」
「データが、俺が作った力作が、消えたぁあああああああああああ!!」
「なんでだよぉおおおおお! 俺の5日間の努力がぁああああああああ!!」
連鎖する悲鳴と怒号。
可哀想だとは思うけど、仕方ないんだ。
みんなのためだから。いつか理解してくれるだろう。
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