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始まりの日B02

「ヒナ。ここって確か、ソータやお前が世話になってるケイスマン教授が使ってる研究棟だよな?」


「う、うん。そうだけど………なんで?」


「行くぞ」


「え、え? エー先輩!? なんで燃えてる建物のなかに入ろうとしてるの!?」


「いいから。任せろ」


「ひゃ、ひゃい!」


 まるで猫みたく目を丸くするんだからな。可愛いな、ヒナって。


 最推しはソータとアイリだけど、最初期の推しはヒナだったこともあり、そんな彼女を抱きかかえているだけあって、少し格好つけたくなった。


 ケイスマン教授は名の知れた学者で、主にシェルターや船についてを専攻している。船といっても海を航行するものではない。宇宙船だ。


 そして第3話で、いよいよヒナの活躍が見れる時、ソータと再会した彼女たちが乗っていた船は、周囲のものとは違った。真っ白だった。


 エーとしての記憶を辿れば、その宇宙船を建造した学者こそケイスマンなのである。


 ふたりの人格と記憶のある俺だからこそ、この絶体絶命の窮地で見出せる唯一の生存条件だ。


「オラァッ!」


 シャッターは硬く、電動であるためロックがかけられ破れるはずもない。横にある非常口を蹴破った。


 そこにあったのは───やはり小此木瑛亮の記憶どおり、地下ルートで外に射出される予定の宇宙船があった。


 ただし、想定外の要素もいくつか存在した。


「教授!?」


「ケイスマン教授っ!」


 シャッターの向こうは格納庫になっていた。エーは何度かケイスマンの講義を受けており、開発途中だったポッドを見せてもらったことがある。考えたとおりポッドには逃げ遅れたであろう生徒が数人搭乗しており、しかしそれを操作するパネルは外にあるため、ケイスマンが椅子の上で空中に投影されているキーボードを叩いていたのだが、無事とは言えない姿をしていた。


 ヒナを降ろして駆け寄る。遠目からわかるとおり、白衣が赤く染まっていた。原型も留めていない。生徒たちを避難誘導している際に爆発に巻き込まれたのか。


 本編では名前しか出なかった男だ。ソータが受講している講義をしているとだけしか知らないし、外伝にもファンブックにも登場しない。いったいどんな容姿をしているのかと思えば、案外年老いていた。


 禿げ上がった頭部には後頭部にしか白髪がなく、顔は猿のようにしわだらけで、しかし双眸だけは猛禽類のように鋭い。今も老体に重傷という、とてもではないが動くはずもできない体に鞭打って操作を続けていた。


「その声は………エース・ノギか」


 しゃがれた声にゴボゴボと水が鳴る音が混じっている。


 血の泡を吹きながらも操作をやめようとしないケイスマンは、俺を見ることもなく、声だけで正体を察知した。


 というか俺、エーではなく、エース・ノギって名前なのか。初めて知った。


 ああ、だからみんなに「エー先輩」って呼ばれるんだな。


 アルファベットのAじゃなかったのか。


「みなは、無事か?」


「来る途中で誰も見ませんでした。多分、避難所に退避したのだと思います」


「そうか………よかった」


 ケイスマンの瞳に安堵が混じる。ソータに課題の再提出を課すような厳しい男かと思いきや、全員の命が危険に陥れば、我が身の安全など無視して、今も誰かを助けようとする優しく立派な男だった。知らなかった。知ろうともしなかった。


「なら、あとは頼む。………グラディオスへ、行け」


「そこになにがあるんです?」


「この校舎の地下で開発していた新型ガリウスを、届けろ。………そこに私が作った救命ポッドがあるだろう。逃げ遅れた生徒を、数名収容している。近くに………新型ガリウスのテストパイロットもいるはずだ。ここには………新型のプロトタイプしかない。だが護衛してもらうには、こうするしかない。行け。お前は風来坊のような男だが、その才は磨けば光るだろう。願わくば、卒業後は私の助手にでもして、惰性した生活と性根を叩き直してやろうかと思ったが………ふは、どうやら………ここまでのようだ。頼んだ、ぞ」


 ケイスマンはパネルの操作を終えると、後ろにあった椅子に崩れるように腰を下ろし、動かなくなった。


「教授………?」


「………死んでる」


「ひっ」


 目を開けたままピクリともしないケイスマンに、ヒナは喉を鳴らして俺にしがみ付く。


 俺は知りもしなかったケイスマンの勇姿を見届け、右手で瞼を閉じてやった。それしかできなかった。仮に花束なんて持っていたとしても供えてやれるはずがない。「そんな暇があれば、行動せんかっ」と生前のケイスマンの口癖同然の叱責が、エース・ノギというもうひとりの俺の記憶から蘇る。


「ヒナ。救命ポッドに乗るんだ」


「エー先輩も、乗るよね?」


「………仕事がある。俺はまだ乗れないよ」


 一緒でなければ嫌だ。と駄々をこねるヒナの腕を引き、ケイスマンが開発した救命ポッドに彼女を押し込む。


「おうおう。知った顔が何人も………てか、マジかよ」


 ヒナを押し込んだあと、迅速に扉を閉じる。何重ものロックをかけて、密閉を完了させた。放り込む前に見た救命ポッドのなかには、俺の知る限り、かなり重要な人物がいる。しかも複数。できれば話してみたかった。


「さーて。エース・ノギくんなんて知らないけど、俺なんだしな。ケイスマン教授にも会えた。ソータにもアイリにも、ヒナにも会えた。いいことあったなぁ。じゃ、始めるか」


 俺はケイスマンが操作していたパネルを見て、そのすべてを頭に叩き込むと、テストパイロットが搭乗するように言い付けられていた新型ガリウスのプロトタイプに乗り込む。


 ………なぜ俺かって?


 簡単だ。ここにはケイスマン以外の死体があった。多分あれが、新型ガリウスのテストパイロットだ。ざっと十三人。


 ソータたちが乗ることになる新型ガリウスのパイロット予定だった連中だろう。だからグラディオスはソータたちに頼るしかなかったんだ。


 救命ポッドを閉ざした今、それを護衛できるのは………パイロット学部を途中で中退し、整備学部に転部した俺しかいないからだ。


 ああ。今日が命日になりそう。


ロボットアニメにありがちな設定ではありますが………色々と参考にしているのも確かなのです。

そのなかでも独自性をどれだけ活かせるかが、私がこの数ヶ月で悶々と考えてきた成果なのかもしれません。


次回はお昼にでも連続で更新できればと思います。

Xの方ではヒナや、エー先輩と逃げるシーンなどをアップする予定であります。桐生落陽で検索していただければ見れると思いますので、よろしければどうぞ。


作者からのお願いです。

皆様の温かい応援が頼りです。ブクマ、評価、感想、いいねなど思いつく限りの応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

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