その名はC02
「………ハァ。弱ったなぁ。そういう言い方をされるとさ」
数秒の沈黙ののち、レイシアは思い切り嘆息する。
「少なからず………私もエースくんと同じ。私も結局は、守られる立場だからね。だから私も、私にできる範囲で、みんなの力になりたかったからこの職を選んだ」
知っている。レイシアはパイロット志望だった。シドウの背中を追いかけた。
しかし彼女にパイロットの適正はなかった。ゆえに軍医としての道を選び、心理学も手を出してカウンセラーになった。
この艦でレイシアと同じ負い目を共有できるのは、パイロット科にもいた俺と、現役でパイロット科だったアイリくらいだろう。
「目を見ればわかるよ。下心はないことくらい」
「ありませんよ。そんなの」
「そういうところはシドウそっくり。まぁそれはいいとして。………うーん。エースくんはお父さんも注目してるし、私の立場が無くなるけど、メンタルブレイクする前にエースくんに相談するって手段も増えるなら………でもさ、カウンセリングって結構大変なんだよ? 覚悟してる?」
「もちろん。あ、でも俺が全部解決できるとは思ってません。それと、逆に俺が受けた相談を、レイシアさんに定期的にレポートしますよ」
「あ、いいねそれ。男の子って、いつもジロジロと下心しかない目で見てくるからさぁ。どうしても本心が見えなくて困ってたんだよねぇ」
そりゃあ、あんた。
こんな綺麗なお姉さんとふたりっきりになって、下心が疼かない男子なんていませんもの。
「うーん。魅力的で、私にもメリットがある提案なんだけどなぁ。エースくんが1年生に信頼されてるのも知ってるし。けどバレたら面倒なんだよなぁ。秘密を共有するにしてもさ、エースくんからもなにか差し出してくれないと、モチベーションがねぇ」
「ま、まさか………レイシアさん、俺に興味があるんですか!? 俺、シドウ少尉と比べればそんな筋肉ある方じゃないですけど、体を差し出せなんて………でもレイシアさんに触られるなら、悪くないかなぁ。チラ、チラチラッ」
「な、なに勘違いしてるのかな!? 年齢的にアウトでしょ! チラチラ言いながらこっち見ないで! ていうか、下心なんて無いなんて言っておきながら、鼻の下伸びてるじゃん! もう、歳上をからかっちゃいけません!」
「ちぇー」
「ちぇー、じゃありません!」
わかってますとも。お触りは禁止ね。はいはい。ファンとして守りますとも。
じゃあ、真剣に考案したもう一押しを提示してみよう。
否定的ではなくなったところで、最終兵器を惜しみなく動員した。
「ところでレイシアさん。今日、こんな写真を撮影することに成功しまして」
「今度はなによ。いきなり………ん? んんっ!?」
「こういうの、お好きですか?」
「………」
おっと、レイシアがフリーズした。
見せたのはシドウの写真だ。ハーモンとコウの扱いを相談された時に誤作動を装って撮っておいた。
ハーモンを調教するために食堂で見せたのは誤算で、あくまで見せるつもりはなかった。
すべてはこの時のため。レイシアに見せるために撮ったのだから。
「これ………どこで? え、嘘でしょ? あのシドウが? いつだってキリッとして、可愛げがなくなった、あのシドウが!?」
「欲しいですか?」
「へ?」
「お譲りしますよ? まぁ、タダでとは言いませんけど」
レイシアは堅物であっても幼馴染のシドウにベタ惚れだからなぁ。
アニメを見てきたファンだからわかる。レイシアは男女隔てなく優しいが、シドウに対しては別で、特に甘い。あれでシドウに自覚がないってんだから、鈍感系ラノベ主人公みたいだよな。何度「はよ結婚せぇ」と呟いたことか。
外見がイケメン青年で、中身が残念ってのも主人公要素満たしてる。婦女子たちも放置する方がおかしい。
そんな我らがシドウ少尉の間抜け面を拝んだレイシアは、驚愕したあとにニヤつきが堪えきれなくなり、唇の端が吊り上がりそうになったところで自制心が働いたのか、コホンと咳払い。惜しい。
「タダで………もしかして金銭を要求してるのかな?」
「いいえ? 秘密を共有するための、ねぇ。もしかしたら、定期的に提出するレポートのなかに、こんなものも含まれたり、含まれなかったり? おっと、手が滑って次の画像まで見せてしまったー」
途中から棒読みになるが、レイシアにとってはそれはどうでもいいことらしく、戦闘後に誤作動を装って撮影した写真も見せる。
効果は抜群だ。
だが逆に、レイシアの表情が真顔になっていく。からかい過ぎたか。それとも盗撮を咎められるのか?
やばいぞ。軍医を敵に回すのだけはまずい。場合によってはクランドにもバレる!
………と焦った矢先。
「………ハルモニ。新規クラウドを作成。私とエースくんのみが共有権と閲覧権を所持するものとする。名称は………LAカルテで」
『イェス。ドクター・レイシア』
レイシアが腕の端末で、グラディオスを管理する高性能AIを操り始めた。
すぐに俺の端末にも新規クラウドが出現する。許可を出すと、なかにはなにも入っていないフォルダがあった。
視線を移動させると、険しい表情をしたレイシアが俺を睥睨していた。
みなまで言うな。ということか。
黙って2枚の写真をクラウドに送信する。
「ハルモニ。エースくんの通信ログを消去。以降のレポートのログは保存してよし」
『イェス。ドクター・レイシア』
「レイシアさんもハルモニが使えるんですか? カイドウさんが言うには、艦長とカイドウさんだけしか使えないって」
「まぁ、ね。お父さんからもらったんだよ。公的にね。医療とかにも役立つし。………それよりも、忘れないでよね? これで私とエースくんは共犯なの。裏切ったら………ちょん切るからね?」
なにを切るというんでしょう? 怖いですよレイシアさん。
だが、これでレイシアともコネクションを作れたし、こっち側についてもらえた。
こっちが饅頭箱の下に隠した金銀財宝さえ収めれば、ソータたちのカウンセリング結果をもらえる。
まだ始まったばかりで、先は長い。
しかしこれで、いくらかやり易くもなっただろう。
リアクションありがとうございます!
お陰様で本日は7回更新できました! 明日は5回更新を目指します!
Xの方で、ソータとアイリのイラストをアップしてみます。
そういえば、みてみんでAIイラストを公開するのはいいとして、それを挿絵として本文に挿入するのはいいのでしょうか? そういうのが疎くて参ってしまいます。どなたか教えていただけると嬉しいです。
作者からのお願いです。
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