その名はC01
その日の夜のことだった。
グラディオスがサフラビオロスから離れて四日目。
宇宙空間を航行していると、常闇のなかにいるみたいで時間感覚が狂うが、もう慣れた。
軍人に貸与される端末はデジタルな腕時計のように時間を表示してくれる。勤務は交代制で、今は大人たちが働く時間だ。俺たち学徒兵は就寝時間である。
別に出歩くなとも言われていないし、平然と廊下を移動しても叱られることはない。カイドウ辺りに発見されたら「休むのも仕事の内だろうがボケ野郎」なんてドヤされるかもしれないが。
しかし鉢合わせることもなく、俺は目的の場所を訪れる。
メディカルルームだ。
第4話「その名は」の由来は、本編でシドウがソータたちにアンノウンという名称を告げることにある。それはシミュレーションの時に語っているので、俺が見る景色にはもう関係がない。
そしてあの戦闘が終わり、勝利の余韻に浸ってエンディングが流れる。基本的にCパートは存在しない。俺の行動は、本編の裏側を独自の視点で見て、動いていることになる。
「失礼します。エース・ノギ、入ります」
「はーい。どうしたの? 睡眠薬、もう切れた? 使い過ぎはよくないよ? 慣れるのが一番ダメだからね?」
ドクターは就寝していて、代わりにレイシアが夜勤に出ていた。
というか、逆にレイシアはどのタイミングで休んでいるのか心配になる。朝昼晩と登場していたもんな。ちゃんと寝ているのだろうか。
「いえ、薬はあまり使わずとも、最近はよく眠れるので控えてます」
「うんうん。風邪薬とかと違って、睡眠薬は控えられるならそれに越したことはないよ。じゃあ、怪我でもした?」
レイシアはとても優しい大人だ。学徒兵たちにもとても人気で、整備士の見習いたちは、ただ癒されたいためだけに、あえて軽傷を作って赴くとか。実にけしからん輩がいるもんだ。
「怪我はしてません。夜分にすみませんが、ちょっとご相談が」
「オーケー。カウンセリングだね。いいよぉ」
ちょっと待っててね。と告げて、レイシアは紅茶とクッキーを用意してくれた。なんていう待遇の良さ。カウンセリングなんて建前で、紅茶と菓子を食べに来る奴が出そう───クッキー?
「これ、配給されてましたっけ?」
クッキーを指差して尋ねる。
「ううん。わけてもらったの。エースくんには感謝してるんだよぉ。本当は、こんな言い方したらカウンセラー失格なんだけどさ。ほら、サフラビオロスでエースくんが学園の倉庫から食糧を運んでくれたじゃない。そのなかに大量の調味料もあってさ。補給船が来る前に大量のお砂糖を確保したから、持ってきてくれたの。私、お菓子作るのが大好きなんだ」
存じてますとも。クランドへのお仕置きケーキを作っていることも。
そうか。俺が咄嗟に提案し、食糧を補充したことで、在庫も余裕ができたから、レイシアも砂糖と小麦粉を得ることができたのか。
「お陰で女子会ができそうだよ。ありがとね」
「いえいえ。こうして俺も久々に甘いものが食べられるんだから、嬉しい限りですよ。あ、クッキーうまい」
ファンならたまらないよな。レイシアの手作りクッキー。プレーンとチョコの二種類だ。決して数は多くないが、滅多に摂取できない糖分が、干魃し始めていた脳に染み渡るようだった。
「まぁ………エースくんは、色々大変だもんね。聞いたよ。シドウにも連れ回されたんでしょ? ごめんね? 私、シドウとは幼い頃から付き合いがあって、欠点を多く知ってるから………もう、目に浮かぶようだよ」
ぬふふふっ。幼馴染ですからな。存じておりますとも!
シドウとレイシアのカップリングも推し対象。是非とも梃入れして成就させたいところ………待て。落ち着け。暴走してもなにも始まらない。
「シドウ少尉は実直なひとです。俺もパイロットなら、シドウ少尉の部下になりたかったですよ」
「そう言ってくれると嬉しいな。実はさっきまでヒナちゃんがいてね。シドウの目付きが怖いって泣きつかれて………ああ、もういっそのことシドウをぶん殴ってこらしめてやろうかって思ってたんだ。でも味方ができたなら………うん。やっぱり嬉しい」
綺麗なお姉さんが、可愛く笑う。
危うく惚れるところだった。
もちろん俺は筋金入りのファン。推しを恋愛対象にするなど言語道断! 恋愛感情を自覚したら切腹する覚悟を持たなければな。
「実は、今回のお願いというのは俺のことじゃなくて、後輩たちのことなんです」
「うん? どういうこと?」
「あいつら、とっても不安定です。シドウ少尉からもハーモンのことを相談されて、話してみてわかりました。みんな怖がってるんだって。もちろん俺も怖いけど。でも1年生の方が、もっと怖いはずだ」
「うん。そうだね。へぇ、エースくんはしっかり先輩やってるなぁ」
「でもひとりだけでケアするにも限度があるし、今回はうまくいっただけで、次回は失敗するかもしれない。だからレイシアさん。俺にソータたちのカウンセリング結果、教えてもらえませんか? それだけじゃない。最近の悩みを相談された時のことも」
「………それを知って、どうするのかな?」
初めてレイシアの表情が引き締まる。
憤ってはいない。怪しんで、警戒している。
そりゃそうだ。ヒナたちが誰にも相談できず、やむなくレイシアを頼って相談した内容を横流ししろと持ちかけているのだから。カウンセラーとしても、いやひとりの女性としても許可できるはずがない。
「あいつらの悩みを共有したいだけです。もちろん、えっと………女性ならではの悩みとかは、伏せてもらって構いません。セクハラはよくないですし」
「エースくんのやろうとしているのはセクハラなんて生温いもんじゃないよ。ある意味で越権行為でもある。カウンセラーとして守秘義務があるしね。だから、その提案は呑めない」
「俺はただ………みんなを死なせたくないんですっ。俺はパイロットじゃないから、直接守れない。いつも守られる立場だ! だから………だからせめて、不安の種があるなら、俺の力でどうにかしてやりたいんです! どうか、お願いします!」
本心だ。
目的は違えど、これから出すべき結果に繋がっているのは間違ってはいない。
だから俺は、レイシアに頭を下げ続けた。
やっとCパートです。今回は長かったのですが、これからこんな感じになると思います。様々なキャラクターが登場しますので。
Xにソータをアップしてみました。いかがだったでしょうか? 私はあのデザインにとても満足しています。気怠そうでダラっとしている感じが、とてもいいです。
次は誰にしようかと考えています。リクエストも受け付けていますので、ご遠慮なくどうぞ。
次回は21時頃か22時頃を予定しております!
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