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その名はB09

 ハーモンがそういう顔をするのは、もっと先のことだ。


 スタンドプレーであっても、敵の意表を突いて窮地を脱した時がある。帰投したハーモンを、クランドが直接褒めた。あの、他人はもちろん自分にも厳しい性格をしているクランドが、全員の前で絶賛したのだ。


 そこでコロッとハーモンは絆される。ソータたちとも和解して、第2クールでは戦友となった。あの何事もぶっきらぼうなソータがハーモンを頼り、ハーモンもまたソータの願いを快諾するほどに。


 基本的にはいい子だからな。ソータに似ている。褒めれば懐くし、なにより伸びるタイプだった。


 グレたのは、ハーモンが優秀な軍人の家系だからだ。長男と次男もこれまた優秀で、いつも比較されて、貶されれば心が折れてしまう。


 ハーモンは飢えていたんだ。他人からの賞賛を。誰でもいいから認めてほしかった。でも不器用だから、喧嘩ばかりしてしまう。


 だから俺は、ハーモンが欲しかったものを与えることができた。


「ハーモン。ここにいる間は、俺がいつでもお前を見てるよ」


「そ、そうかよ………」


「そうだ、お前専用の装備でも作るか。銃はチマチマしてて、性に合わないだろ。お前は多分、ギリギリを攻めたいタイプだろうからな。どれがいいかな。ぶん殴る系もいいな。高周波ブレードも捨てがたいけど」


「あ、あのよ」


「うん?」


 急にしおらしくなったハーモンは、どこか赤くなって、彼には似合わない身の捩り方をしながら、俺を見た。


「え、()()()()()は………」


「エー先輩でいいよ。親しい奴にはそう呼ばせてる」


「エー先輩………うっす」


 即効性の薬でも、こう早く効力は出ないのに。


 誰にも敬語を使いたがらないのに、後輩らしい口調に変わりやがった。あと少しで頭も撫でられるかな。


「エー先輩は、なんでそんな、俺のこと………構ってくれる、んすか?」


「ん? ダメだったか?」


「いや、そんなことは………ねぇっすけど」


「そっか。これは直感みたいなもんだよ。お前、なんか放っておけないんだよ。それに伸び代があるって思った。だから、お前がどこまでやれるのか見てみたくなった。体力と根性があるよ。直情的になるのが短所なだけだ。………今まで、そのことで悩んでたんだろ? これからは俺も一緒に悩んでやるよ。なんなら、兄貴だと思ってくれていいんだぜ?」


「………こういうひとが兄貴だったら、いいのにな………」


「うん?」


「あ、いや。こっちの話っす」


 シドウにもちょっと似てるな。思ったことが声に出てしまうところとか。


 ハーモンの兄貴か。咄嗟に口走ったけど、それもいいな。


「シドウ少尉にはうまく言っておいてやるよ。だからお前は、自分にできることを探しな。あと、チームワークなんてすぐ考えなくてもいいから、誰かの話をしっかり聞いて、それから自分の意見を言ってみな。案外、うまくいくことも多いぞ。あと………俺は喧嘩は絶対にダメだ、なんて偉ぶってる大人みたいなことは言わないから、安心しな」


「う、うす。エー先輩がそう言うなら。やってみるっす」


「お前ならできるよ」


「………うす!」


 必死で隠してるんだろうけどなぁ。ニヤけてるぜハーモン。


 クランドをはじめとした大人たちは、作中で似たようなアドバイスをしたけど、こんな多くは語らなかった。


 だからこそ親身になり、苦労を共有するとまで断言すれば、ハーモンは狂犬から忠犬になる。


 尻尾があればぶん回しているに違いない。大型犬みたいに。


 おやつを食べたあとは、ハーモンはドッグに向かうと言って去っていった。いい子だから、不器用なりにも言葉を選んで謝罪をしてから、話し合いをするかもしれない。これでソータたちがハーモンを見直してくれればいい。


 さて、次はコウだ。


 ハーモンの時もそうだったが、俺はコウとも交流がない。面識くらいはあるのだろうけど。


 しかしだ。ハーモンが食堂を襲撃した事件のせいで、本編ではコウについて触れられていない。今どこにいるのかさえも掴めていないのだ。


「行き当たりばったりで会えるほど、案外グラディオスって狭くないんだよなぁ」


 偶然に期待できもしない。


 いや、それよりも気を配っていなければならないことがある。


 敵襲だ。


 次回の第5話では何回か敵襲があったという描写しかない。つまり、ランダムな時間で襲い掛かってくる。明確な時間が表示されていない以上、気を抜けない。


「………あのひとに賄賂渡すのを優先するか。いや、今なにかあったら………え、マジかよ!」


 艦内に響き渡るサイレン。ハッとした俺が士官室の外に出ると、通路のスピーカーから放送が入る。


『1時の方角に熱源出現! 敵襲が予想されます! パイロットは全員ドッグに集合! シドウ少尉の指示に従ってください! 繰り返します───』


「よりにもよって、今か!」


 焦りながらも走る。ドッグまでは距離があるし、途中から無重力区域となるため二重シャッターを経由しなければならない。時間をロスするが、ノーマルスーツのままでいたのが幸いして、着替える時間は省略できる。


 数分を要してドッグに入ると、そこにはすでにシドウと6人の隊員が揃っていた。


「遅ぇぞエース!」


「すみません、おやっさん!」


「推進剤を一号機に補填してる途中だ。計器見とけ!」


「はい!」


 俺はいつからソータの一号機の専属になったやら。


 カイドウにどやされながら、一号機のタンクに注がれる推進剤の補填率をチェックする。


 それをしながら、耳を傾けた。


「これは訓練ではない! 初陣ではない者もいるが、多くが初となる実戦である!」


 シドウの声にも力が入っていた。


 それよりも注目すべきは、ハーモンだよな。


「………作戦の説明は以上だ。なにか質問は? ………デクスター。文句があるなら今のうちに言っておけ」


「………いや、ねぇっす」


「ッ!? この短時間でケアを完了させただと………?」


「なんすか?」


「い、いや。なんでもない」


 シドウは驚愕するしかないよな。


 模擬戦後は反発してきた学徒兵が、従順になってたのだから。言葉遣いはどうであれ。


 シドウは狼狽しつつも搭乗を命じる。ソータとユリンは平常だったが、ヒナやシェリーは緊張した面持ち。コウは読めない。ただ、ハーモンはいつもと違う。


 機体に飛び移る際、視線が合った。サムズアップを送ると、「ヘッ」と笑いながらわずかに首肯した。


 いい感じに、精神的に成長してやがるじゃないの。


ハーモンが落ちました。これでひとりめ。

次回の更新は15時頃を予定しております!

Xにてハーモンのイラストを公開しましたので、それもチェックしていただけると嬉しいです!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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