再起動A05
「遊撃を可能にしている我々しかできない任務。というわけですか」
アーレスが唸りながら述べる。
クランドは首肯して続けた。
「他国の支部が、必ずしもアメリカやドイツほど余力があるわけではない。陸海空、自国を防衛するだけで手一杯なところもある。特に、これより立ち寄ることとなる中国支部は10年前はアメリカ支部に匹敵するだけの防衛力を誇っていたが、近年は指針の変更や、政治家と軍との板挟みとなった国民や難民が一挙に押し寄せて抗議デモをした結果、弾圧に出た軍との小競り合いがきっかけとなり、ストライキなどといった反発が頻繁に発生。アンノウンとの戦争無き時代であれば政治家が強引に押し留めたのだろうが、国を支えるべき国民が難民となることを選び、多くが中国支部を去った結果、人員不足のため防衛網を縮小し、かつての世界の食糧庫とまで言わせしめた生産性も著しく低下した。………誰が悪いとまでは言わない。時代が悪かったのだ。そしてそれは中国だけではなく、各国でも問題視されている。彼らに自国以外の防衛を要請するには、無理難題を押しつけているようなものなのだ」
この世界は、やはり妙にリアルなところがある。
前世でも人種、宗教、経済、政治が度々問題視されてきたが、この世界はそれらを煮詰めて5倍濃縮させた感じの印象だ。
「そこで、諸君らの意見を聞きたい。航海航宙科、可能か?」
ここからは、いつもと同じだな。舞台の裏側。本編では今頃、スポットライトは苦悩しながら今を生き抜こうとしている子供たちに向けられている。その子供たちの活躍の場を作る───とはお世辞にも言えないが、指針を決めようとしている大人たちの、本編では語られることのない葛藤と決起の集会だ。
各セクションのリーダーたちが見解を述べる。大半が「可能です」と続けた。誰もがプロだ。特務とあらば全力を尽くす。そのための半年間だった。
カイドウ、シドウともに承諾。これで満場一致で可決を得て───
「ノギ少尉。きみはこの特務を、どう見る?」
「え、おれ………あ、失礼しました。私ですか?」
「他に誰がいる?」
急に俺の意見を求めてくるんだもんな。驚き桃の木山椒の木。俺灰だらけ尻の周りは………いや、そんなことを考えている場合ではない。
「特務というのは理解しています。参考までに教えていただきたいのですが、なぜ………各セクションのリーダーの意見のあとに、私の見解が必要なのですか?」
「きみの意外性を買っている。そして、いつもと変わらぬ悪巧みをしているのなら、事前に教えてもらった方が、私の心臓は止まることはないだろう?」
涼しげな顔をして、しれっと言ってくれやがる。そんなに期待してるのなら、リクエストに応えてやってもいいのだが、生憎俺にそんな余裕はない。
「悪巧みだなんてとんでもない」
「どうだか。それで、なにか思うところはあるかね? 例えば、きみがローマまで赴くことになった特務にて、謎の赤い敵に遭遇したと言ったな。それと同じ部類の敵が出現する………とは考えられないかね?」
………そうきたか。
あの特務から帰投した時、俺もタキオンもボロボロだった。それほどまでの敵がいるとすれば、グラディオスで対抗できるのか、その是非を知りたがっているのだな。
ここにいるのは誰しもがプロであり、エリートだ。
もう俺を馬鹿にするような嘲笑を向ける者はいない。全員の視線が俺に集中している。忌憚ない意見を求められている。
「………あれは、本当に未知数です。しかし、グラディオスなら………勝てない敵ではない、と思いたい」
「勝てない敵ではない、と断言しないのかね?」
「断言できれば楽なのですが、残念ながら。しかし、そうであったとしても、本部から請け負った特務は受けるべきだと思います。………日本支部跡地。もしそこに、あの敵がいるとすれば討たなければ。いや。あの敵以外が敵であったとしても。グラディオスは前進するべきです」
ここで駄々を踏んでも仕方ないし、それをするつもりもない。
あくまで本編の筋書きに従って、指針をひとつに纏めつつ、クランドたちへ道を示す。
クランドはしばらく俺を凝視し、数秒後にやっと視線を外した。
「少尉の意見は承知した。至極真っ当なものである。よって、我々はこれより、中国支部での補給、日本支部跡地の調査の特務を完了させ、アメリカ支部へと向かう。当初の予定と異なり、より日数が必要とされるものになるだろう。総員、クルーに伝達。明日の出航で、我々は極東を目指す! 以上、解散!」
「ハッ!」
クランドが叫びながら起立すると、俺たちも倣って立ち上がる。敬礼に合わせて敬礼を。そして応えを返す。
「あ、クスド。ちょっといいか?」
「はい。………艦長、少し外します」
カイドウたちが艦長室から去るなかで、俺はクランドと話をしようとしたクスドを呼び止める。クスドはクランドに一礼し、早歩きで俺の前に移動した。
「なにか御用でしょうか?」
「参謀が板についたな。かっこよかったぞ」
「わっ………え、エー先輩。やめてくださいよ」
頭をグリグリと撫でると、嫌がる口振りではいたが、クスドはとても喜んでいた。ついでに俺たちを横目で見ているクランドも薄く笑っている。
と、周囲を見渡す。俺たち3人以外はもう退室を済ませていた。
「艦長。先程の会議では申せなかったことを、今申し上げます」
「………なるべくなら、心臓が止まらない内容であることを祈る」
「俺のことじゃないです。グラディオスの指針について、そして………敵のことです」
クスドについては、ここに残るための口実、つまりダシにさせてもらった。その詫びとして、先輩後輩の仲に戻ったように、可愛がるように評価をした。でもかっこよかったと思ったのは本心だ。
クスドとともにクランドがいるデスクの前に。ここからは首脳会談だ。
「………敵、か」
「はい」
「………アリスランド、ビーツ艦長代理かね?」
「………はい」
クランドは俺の表情から心境を読み取り、言い当てた。
本編から逸脱した情報提供となるが、仕掛けてきたのはビーツだ。俺はそのための対抗策を練らなければならない。
「あの特務で、ビーツよりはっきりと、宣戦布告を受けました。仕掛けるポイントは不明。ですが、ここにきて急な特務の発注と進路変更。………確実にアリスランドが、再び接近します」
「………そうか。そうだな。それを議題にすれば、私は同軍を、人間を撃てと命じなければならなかったのだな」
対策を講じる上で、その命令はどうしても欠かせない。俺はそれを先延ばしにしただけだ。
だが、それには意味がある。覚悟と準備だ。
「中国支部は陸路を行く上で、どうしてもアリスランドも姿を隠せない。ならば」
「中国支部を抜けた先か」
「はい。そこで仕掛ける可能性が高いでしょう。艦長。俺に命令してください。ビーツのことを少しだけ思い出しました。多くは申し上げられませんが、俺たちには因縁があります。どうしてもというなら、ソータではなく、俺に命じてください。………俺がビーツを撃ちます」
「………殺すのかね?」
「残念ながら命を無駄に奪う趣味はありません。拘束しますよ」
「………承知した。それを聞いて安心もした。ならばノギ少尉。いざとなれば、きみに先鋒を任せる。だが、それでも足りぬと判断した場合………済まないが、他のパイロットに頼らざるを得ないことは、承知しておいてほしい」
「………はい。そうならないよう、努力します」
これは俺と楠木の、転生者同士の問題だ。
なるべくなら、グラディオスは巻き込みたくはなかったが、ともに母艦で移動している以上、どうしても他に頼らなければならない部分が出てくる。それくらい、俺だってわかっていた。
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