始まりの日A02
心臓が張り裂けそうだった。
どんなに努力しても越えられない壁、次元を、最終回を見終えたあとに黒魔術を無意識せずに使ったのか越えてしまった俺は、中庭を出てひたすら走っていた。
ここは宇宙コロニーサフラビオロスの学園で、主に機械工学やパイロット育成を目的に生徒を育んでいる。
しかし第1話にして襲撃を受け、甚大な被害を被るのだ。
「ハァ、ハァ、ハァ………くそっ!」
走る。走りまくる。
夢じゃなかった。頬の傷がそれを厳然と語る。
第1話「始まりの日」でサフラビオロスは平和が崩壊することになる。人々はただ逃げるしか選択肢を選ぶしかなく、連続して炸裂する爆発によって散っていく。無差別攻撃にパターンはない。この俺も攻撃対象で、最初は天井だった砲撃も徐々に拡散し、炎で全面を彩ることになる。
熱い。なにがなんだか、もうわからねぇ。
俺はただの学生だった。天破のグラディオスの世界においても、ソータとアイリから先輩と呼ばれるだけあって学生らしい。着用している水色のつなぎからして、学園では機械工学を専攻しているのか。さっきまでいた現実では考えられないことだ。俺は文系だってのに。数術が大の苦手だってのに。
「クソが………!」
さっきまでの興奮は別の興奮と緊張で満ちた。思わず悪態ついてしまうほどに。
今や全方位で炸裂する爆発の轟音が凄まじい。アニメで聞いたサウンドとは別ものだ。衝撃の度合いも桁違い。もし4D映画として上映することになっても、こうはならない。
映像という作り物と、実際の戦争は別物だ。俺がいた日本は、もう戦争を選ばない。俺の世代は戦争を知らない。歴史では学ぶものの、他国ならまだしも、戦闘機のバーニアの音など基地近くまで行かなければ本物を知ることもできない。
なんでこんな目に遭う?
俺はただ、ソータとアイリがイチャイチャするのを愛でられれば、それでよかったのに………っ!
「なんでこうなるんだよぉ!」
感情を爆発させて吼える。
「がぁっ!?」
それがまずかった。砲撃の対象になったのかもしれない。
走る軌道を一瞬で計算され、進行上の建物が爆破されて巻き込まれる。
車道に投げ出されると、一転二転し起き上がった。どうやら瑛亮だった俺より、「エー先輩」と呼ばれる俺の方が体が頑丈らしい。擦り傷を負っただけですぐに動き出す。
ところが、すぐ近くで倒れている女の子を目にした途端、俺の動きは止まることになる。
「………ヒナ」
「あ………エー、先輩………?」
ヒナ・ワルステッド。ソータの同級生の女の子だ。
天破のグラディオスの3話まで放送されたあと、SNSなどで人気を集めたビジュアルと天真爛漫な性格。スタイルもよく小柄。男たちの心を掻っ攫った。当時はアイリより人気があったくらいだ。俺もそうだった。………あんな結果になって、ファンたちを絶望のドン底に叩き落としたが。
「なんでここに?」
「逃げ遅れちゃって」
すごい。もう夢などではないとわかっていても、こんな状況でもヒナと会話できるだけで心が弾む。
確か、ヒナは第1話で登場するが台詞はない。第3話から台詞が用意されているはずだ。
「エー先輩。私、みんなを助けられなかったよぅ」
急いで駆け寄ると、ヒナはエーという俺に余程信頼を寄せていたのか、こんな緊急事態ゆえか、手を伸ばして首に腕を回した。なんてことだろう。極限の密着状態。服の上からでもわかる柔らかさ。が───アイリから漂う、あの香りに混じって異臭がツンと刺激する。
なにを燃やしたらこんな刺激臭を放つのだろう。と視線をヒナが顔を背けた方に向け、激しく後悔した。
焼死体があった。それもひとりやふたりではない。大勢の子供と、数人の大人だ。この区域は未成熟児含め、小学生くらいの子供たちを預かる施設があったのだろう。ヒナは子供が好きだと劇中でも語っていた。ゆえに大勢を避難させようとして、砲撃に巻き込まれたのか。
胃からなにかが込み上げる。顔を撫でる熱と、そこから漂う人間の脂肪を燃やす異臭。ヒナが俺の頬に顔を寄せる。触れた頬と頬がやけにベタついた。
「………逃げるぞ。揺れるからしっかり掴まってろ!」
「でも、でもぉ!」
「しっかりしろ! 大丈夫だ。俺を信じろ!」
ヒナを横抱きにして走り出す。エー先輩とやらの筋肉は頑丈なだけでなく、しなやかで耐久力があった。小此木瑛亮だった頃はこんな体力なかったし、自分でもとても驚いている。
抱きかかえたヒナは俺の胸で咽び泣いていた。どうやら、かなり俺のことを信頼してくれているようだ。
破壊行為を繰り返す砲撃は、徐々に遠ざかる。逃げるなら今がチャンスだ。
それに俺は、第1話の内容もすべて記憶している。多分、生き残るには記憶から類推したパターンが必須なのだと思う。
異世界転生してからびっくり。いきなり命懸けの逃亡劇です。ヒロインっぽい子が登場しましたが、今作のテーマである「天破のグラディオス」ではメインヒロインではないのだとか
Xの方ではタイトルロゴを公開しました。続いてはA(エー先輩)を公開する予定です
作者からのお願いです。
皆様の温かい応援が頼りです。ブクマ、評価、感想、いいねなど思いつく限りの応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!




