補充要員選考
「あー、いたねぇ。そんなの」
シーナは呑気にワッペンをまだ眺めていた。
「おい。こちとら真面目な話してんだよ」
「私だって真面目だよ。ちょっと懐かしくなってさ」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。タイアランがなにしたか、もう忘れたか?」
「忘れてないけどさ」
タイアラン・ギネスといえば、ハーモン以上の問題児だった。
ハーモン以上の身長と体格差。横暴な性格。しかし媚を売るのがうまく、原作ではデーテルに気に入られ、傘下に入って好き放題やらかした。
格下と判断した男には容赦がなく、女子は誰でも自分のものにしたがる、性欲の権化。ガキ大将をそのまま大人にしたようなタイプ。
戦闘力があり、そして優秀。機関科に配属されてはパイロットと小競り合いになることもしばしば。
最終的に人気が出ることもなく、アリスランドとの戦闘で命を落とす。あれは………正直、アリスランドにサムズアップを送りたかった。
できれば会いたくないし、スカウトもしたくない。俺の第1選考で私怨でズタボロにしてやるつもりだった。
だが、
「タイアランは来ないよ。てか、登場の余地がない」
「え? ………は? なに言ってんの?」
「ああ、お前知らないか。グラディオスがここに降下する前にタイアランが幅きかせようとしてたんだけどさ。私を襲おうとしたことがあったんだわ」
「え、ちょ………だ、大丈夫だったのか?」
「大丈夫だからここにいるんだろ? 潰してやったよ。こう、プチッと。ひひひ………」
「ひぎっ」
これがタマヒュン。下半身が謎の疼きを訴える。幻痛というやつだ。
哀れなりタイアラン。
「よくそんなことして………罰とかなかったのか?」
「そりゃ過剰防衛だって咎められたけどさ。でも厳重注意みたいなもんだよ。あいつの被害者が続々と声を上げてさ。むしろタイアランの方が厳罰食らってた」
「そっか。ならいいか。やるじゃん」
「ふひひ。そりゃあ私だって、あいつは推せないし」
サムズアップが交差する。わずかながらに俺たちに友情が芽生えた。
「てか、それを言うなら元凶のデーテルは? 本編じゃタイアランを手下にしたせいで、勢力が増したし。なんか対処したわけ?」
「第5話で色々やってくれたからな。調子乗った時点で俺のおもちゃ確定だ。徹底的にやったよ。第10話の時点であの虫ケラ、副艦長から降ろされてたな。派閥にも解散命令が出てたし。そうなってからは快適………じゃ、なかったな。第10話後半から俺の体が変になったし、第11話からあの地獄が始まったし」
「それ、今度詳しく聞かせてよ。で、今デーテル虫はどこにいるって?」
「ああ、人材交換のリストにあったぞ。重症人と一緒に、この支部でさよならバイバイ」
「ふひっ。やるねぇ艦長さんも。とりあえず、お前もやるじゃん」
「おう。いらねぇかな。ヘイトの受け皿なんて」
再びサムズアップが交差する。シーナとは推しが同じでよかった。具体はどうであれ。
缶コーヒーで乾杯しながら、明るくなっていくであろう未来に、理想に、全力を尽くすと誓う。
「とりあえず、調べてほしいことがある。詳細が欲しいとかじゃない」
「つまり、本編に登場するであろうネームドキャラを、ってこと?」
「そういうことだ。警戒すべきかタイアランだけじゃない。ジョーだ」
「………ジョー・ゴウシンかぁ………」
第13話では、すでにグラディオスにいた補充要員の名前だ。ところがひとりだけ異例があり、その者だけは第13話が始まってから合流することになっている。あの時はSNSなどを騒がせたものだ。
だがジョー・ゴウシンという男だけは当初からここにいる。つまりドイツ支部所属なのだ。
「ま、わかったよ。他のネームドキャラのメスは眼中にないけど、第2クールからの新参のほとんどのオスは、どうも私も好きになれなかったし。そういうことなら請け負う」
「助かる。ジョーはどこにいるかわかるか?」
「いや、私もドイツ支部全体を知ってるわけじゃないよ。誰がどこの所属なのかも知らないし。向こうからちょっかい出しに来た、タイアランは例外としてね。ジョーってパイロットじゃないし………」
「そっか。いずれにせよ選考会には出るだろうしな。そこで落とすか」
「いいね。ああいうタイプは大嫌いなんだ。協力する」
やはり、転生者がもうひとりいるというのは心強い。こうして手を組めるという時点で、グラディオスの治安維持にも繋がってくる。
シーナは飲み終えた空き缶をゴミ箱に捨てる。彼女はこのまま、支部のハンガーに戻るという。
ちなみに、支部のなかでワッペンをするのは禁止とカイドウから言い渡されていた。選考会は決定しているが、予定を前倒しにしたと知られれば、シーナが根掘り葉掘り詰問され、俺にアプローチがかかるかもしれない。なにより不満や嫉妬が向けられれば、シーナ自身が危ない。1ヶ月後の発表ののち、ワッペンを付けることが許される。それまでシーナは支部のハンガーで仕事をすることになった。今回はあくまで異例の試験だ。結果発表までグラディオスに立ち入ることはできない。
「あ、そうだ。ちなみなんだけどさぁ。お前に協力する上で………報酬が欲しいんだけどさぁ」
「………俺を強請るつもりか」
「金銭はいらないよ。ただ、ね? ほら。えっと………しゃ、写真………欲しくて」
「写真?」
「………コウきゅんの」
なんか、デジャブっぽいな。そういえば俺も、ソータたちの心理を知りたくて、レイシアに共犯関係になってほしくて、報酬として写真を提出したような。
そしてシーナは、ポッと頬を赤らめていて、恋する乙女のようなリアクションをしている。それが意外だった。
「お前、コウの尻をガン掘りしたかっただけじゃなかったのか」
「う゛っ………ま、まぁ、それはそうとして………私だってファンとして接しようと思ったけどさ。でも………なんか、推しキャラから、憧れにまで変わっていって………うん。結構マジで惚れちゃいました………って、なに言わせんだよ!」
「お前が言い出したんだろ」
「うるせぇ! メス3人と関係持ちやがったクズめ!」
「ぐっ………26歳の社会人が16歳の高校生と同衾するのって、普通に犯罪だと思うけど?」
「赤ちゃんプレイ風オイルエステ!」
「推薦取り消すぞ!」
「あ、ごめん。じょーだん冗談」
まったく。油断したら悪口飛び出すとか。便利な奴だけど、扱いに難があるなぁ。
「ったく。まぁ、写真くらいならいいよ。この前、このグラディオス前で撮った写真があるんだ。それでいいか? ほら」
ノーハンドで写真フォルダから1枚の写真を送る。俺含め、パイロットの男子全員が揃った集合写真だ。
「きゃぅん! みんなんがわいぃいい! あ、お前はいらないからあとで編集して顔塗りつぶしておくわ」
「………じゃあ、別アングルから撮った奴があるんだけど、それもいるか?」
「うん! ぼじぃ!」
案の定、俺だけを排斥する言動をしてくれる。
だからシーナに罰をくれてやる。
腕の端末に写真データを受け取ったシーナは、案の定発狂した。
「私の! 聖域を! メスで侵すなぁあああああああ!!」
「わぁ、うるせぇ」
女子と、ついでにレイシアもいる写真を送ると絶叫する。どんだけ女子が嫌いなんだよ。これはこれで不安になってくるぞ。
「オスの写真! オスの、イキのいいオスを、寄越せぇえええええええ!」
発狂しながら襲い掛かるシーナ。俺は逃げ出す。
でも場所が悪かった。事情を知っているクランドやカイドウが見れば、ただのじゃれ合いなのだけど、ユリンたち過激な武闘派から見れば、一方的に俺がシーナに襲われている縮図だ。
ただちにシーナはユリンとシェリーに捕まって、尋問を受ける。
「ねぇエー先輩。あの女の子と随分と仲がいいんだねぇ?」
ヒナは俺を尋問した。
誤解だと理解してくれるまで、俺たちは硬いアスファルトの上で正座を余儀なくされたのだった。
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