AとC⑨
「おっとぉ………クランドから急な連絡があったが、まさかそいつがお前の推薦とはなぁ、ええ? 少尉殿よぉ」
異例の推薦をしてしまい、本来連れ込むはずのないシーナをグラディオスのハンガーに入れてしまったことで、カイドウは少し呆れた様子。
「予定にないスカウトだったのは認めます。けどおやっさん。これ、見てください」
脳内チップでノーハンドで画像を送信。カイドウは端末で受け取って、それを見る。
「………ふむ」
俺をからかうつもりで集まってきた整備士たちも、カイドウの端末から浮上するモニターを見ては唸る。
「随分丁寧な整備だな。新人に配備された機体を、個人の特徴に合わせてチューンしてんのか。だが、それくらいならここの連中でも分担すりゃできる。一応、水準を満たしてるってくらいだな」
「分担してなかったら?」
「………なに?」
「この機体、全部こいつひとりで整備してるんですって。だろ?」
斜め後ろにいたシーナに確認すると、カイドウらにギロリと睨まれたせいで臆したか、シーナは緊張気味になりながらも、何度もコクコクと首肯する。
「だが、整備士はグラディオスの5倍以上いるし、パイロットだってうちの12倍くらいだろ? そんだけの人数がいりゃ、1機をたったひとりで整備するなんざ馬鹿げた話しにならねぇはずだろ。いったいどうなってやがる?」
「えっと………それが、ベテランたちがグラディオスからもらった開発データに着手するために、製造の方に多く行ったり、起動試験とかにも人手を割く必要があるとかで。結局、私たちがやるしかなくて。でも、他の機体は大半が複数人が整備してて」
「なんでお前さんはたったひとりなんだ?」
「それは………自慢するようですけど、ガリウスの整備、結構得意で。Fなんて見慣れてますし。マニュアルを1日熟読すれば、大抵はわかります。だから上長から、いきなりお前は一人前として認めるからひとりでやれって言われて。でも、そこに苦労はなかったです。量産機だから扱いやすいし、エングレルファクトリー社製っていうのもあって、パーツ交換だってそこまで手間じゃないですし」
「………へぇ。おいエース。お前の目は節穴じゃなかったってことが証明されたな。良かったじゃねぇか」
シーナは自分で、とんでもないことを言っているのに気付いていないのだろうな。
マニュアルを読めば理解できる。これを言えるのはカイドウくらいだ。証拠となる写真も提示した。これでカイドウも、シーナの有用性を見抜くことができる。
からかうような言動だけはやめてほしかったけど。
ほら、ハンガーには昨日の出撃における微調整を整備士たちと共に行なっているパイロットがいるじゃん? コウは傷心してるから不在だけど。
さっきからユリンたちが、刺殺するような視線を突きつけてくれるんだ。俺がシーナを引っ張ってきたからだ。よりにもよって同年代の女子をスカウトしたのが気に入らないのだろうな。
「おやっさん。こいつ、試してもらえませんか?」
「無茶言いやがる。まぁ、でもいいか。おう、ちっこいの。お前の名前は?」
「し、シーナ・サクラです! お会いできて光栄です! カイドウ主任!」
「おう、よろしくな。声がデケェのはいいことだ。喋れねぇのかと思ってたけど安心したぜ。おう、シーナ。こっち来な。エースの推薦だろうが容赦はしねぇ。これからお前には、第七世代ガリウスG十三号機の整備をしてもらうぜ。手付かずで放置気味だったんでな。丁度いい。マニュアルもあるから、やってみな」
「は、はい! ………エース、ありがと! 私、頑張るから!」
「あいよー」
カイドウに連れられ、憧れのグラディオスに初めて乗艦し、興奮と向上心で満ち溢れたシーナは、俺に手を振ったあと十三号機が収容されているスペースへと向かう。
でも、さすが若くして一人前の整備士として認められることだけはある。
初心者っぽいことも、ファンとしての粗相も、一切が出なかった。俺は最初、周囲をキョロキョロして足元を疎かににしたことがある。1年生と同じミスをしてカイドウに怒られた。けどシーナはしっかりと前を見ているし、周囲に気を配った歩調と、足元にも注意ができている。
腕の端末にカイドウからマニュアルを送信されたのだろう。展開した3秒後には質問責めにしていた。
それは初心者がやりがちな「わからないですから教えてください」というものではない。ふたりの顔を見ればわかる。きっと高レベルな会話が行われているのだろう。3分後にはシーナが興奮気味になって喜んでいたし、カイドウも呼応されたように喜んでいる。新しい弟子を得られた感じみたいな?
シーナは躊躇いなく工具を手にする。カイドウはまた俺のところに戻ってきた。
「いや………すげぇな、あのチビ。マジでマニュアル見せただけで理解しやがった。逆に俺の方が気付かされた感じだぜ。おう、エース。逸材を持ってきてくれてありがとよ。シーナは採用だ。俺がもらうぜ」
「それはよかった。即戦力になれそうですか?」
「来週にゃ改修型が触れるだろうよ」
そいつはすごい。俺もシーナが、ここまでやれるとは思ってもみなかった。
俺の第1選考を飛ばし、カイドウの選考で採用を最短かつ予定日前日で獲得したシーナの実力は、予想以上だったのだ。
確かにとんだ逸材。シーナは前世で工場に勤務してたとか言ってたけど、だからっていきなり最新鋭機に触れて、カイドウを唸らせるなんて大したもんだ。
俺自身も、とんでもない拾い物をしてしまったと、我ながら驚愕していた。
7時間ほどが経過した頃。
シーナは汗とオイル塗れになりながら、輝くような笑顔を浮かべていた。
その日の作業はほぼ終了。単独で十三号機の整備をほぼ完了させてしまうほど。結果として、上がる頃にはカイドウからとっておきの贈り物をもらって飛び上がっていたくらいだ。
「んふふぅ」
「よかったな。それもらえて」
「お前のお陰だよぉ」
「いや、9割はお前の実力だ。おやっさんだってマジで喜んでたよ」
グラディオスに併設される地上の休憩所にて、ベンチに腰を下ろすシーナ。その前に立つ俺は、シーナが両手で宝物のように持つそれを見て苦笑した。
ワッペンだ。つなぎに縫い合わせるタイプそれは、グラディオスクルーと所属を意味している。
「まさか、予定日の前日に決定しちまうとはさぁ。あー、夢にまで見たグラディオスの整備士ワッペンだぁ。マジかっこいいよな、これ」
「ああ。いかすよな」
彼女の感動は俺も覚えがある。とは言っても、俺はその下に見習いあるいは半人前を現すグリーンのバッジも付けなければならなかった。その点で言えば、シーナはグリーンもなく、いきなり正規の整備士として、最大責任者に認められた。受け取った時は泣いていたくらいだ。
カイドウは昼休憩にクランドに会いに行き、シーナのことを報告。ならばとクランドも承諾。正式に新造されたピカピカのワッペンのひとつを保管庫から取り出し、シーナの手に渡ったのだ。
「これでお前は、グラディオスに出入り自由だ。だからってコウを襲おうとするんじゃねぇぞ? やりやがったら俺の責任にもなるんだからな。もしなにかあったら、そのワッペンは没収する」
「うっ………鋭いなぁ。けどま、この恩は忘れないよ。絶対に。早速恩返しがしたい。私になにか、できることはあるか?」
「ある。明日から選考が始まる。その人員を見逃さないでくれ」
「え、なんで?」
「………タイアラン・ギネス。こいつを忘れたか?」
タイアランとは第2クールで登場する………それはもう、問題のあるキャラだった。
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お昼は更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
閑話もそろそろ終わり、本編へと戻る予定です。
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