AとC⑧
とりあえず、暴走するシーナは拳骨で黙らせた。左手の方だ。鋼鉄の右じゃないのは、せめてもの温情。
尻に異物を挿入されそうになったコウを抱えて退散。シーナとの面会は1時間後に延期した。
俺よりも身長が高いコウをおぶって戻ってきたので、グラディオスのクルーはそれは驚いていた。涙目になって怯え、なにも語らないコウをハーモンに託す。
「これ………なにがあったんすか?」
「プライドが高いコウがこうなるくらいの精神的ダメージを負ったのさ。今は優しくしてやってくれ。俺は今から、その元凶を絞めてくる」
「う、うす。………あ、俺も同行した方がいいっすか? ダチがこうなるまでやられたんだ。舐められちゃいけねぇし。カチコミなら俺に任せてほしいっす」
男の友情だねぇ。ハーモンがコウにこんなことを言えるようになっただなんて。ほら、コウが顔を上げて、ハーモンを見上げてる。
「いや、相手は女だからな。男だけで詰め寄っちゃ印象が悪い。ハーモンはコウを部屋に連れて行ってやりな。温かいもんでも飲ませてやれ。それに、いざとなったらユリンたちを派遣する。ある意味、俺らなんかよりもよっぽど効果があるよ」
「ああ、あの子に会いに行くのねぇ。なら任せて頂戴な。聞き分けのない悪いネズミちゃんを調教してみたかったのぉ」
俺が女に会いに行くと聞いて、当然面白くない顔をするヒナたちだったが、相手が誰なのか判明すると、どちらかといえば報復に期待していた。目が語る。「どうか説教が失敗して、自分たちにおはちが回りますように」と。本来なら面倒ごとのはずなのにね。3人で詰めてメンタルブレイクまで追い込もうという魂胆か。おっそろしいねえ。リーサルウェポンは最終的手段として置いておこう。出番がないように祈りながら。
そして1時間後。俺は支部に隣接する女子寮の裏手に再び足を運び───
「うわ、ハムスターが枯草みたいになってる」
そこに佇んでいたシーナに、つい率直な感想を述べてしまった。
いつもなら「誰がハムスターじゃコラァ」と蹴りとツッコミを同時に入れてくるのだが、今日に限ってはそんな元気もないようで。一応、安心した。
「おーい。シーナァ? 生きてるかぁ?」
「わ、わ、わわ、たししし、は………つい我慢できず、お手製のパンツで………こ、ココ、コウきゅんの、のの、可愛い、ぎぎ、ぎっ………お尻に、挿入してでで、じまいぞうになりばじだぁ!」
「うん。落ち着け腐女子。お前の理想が成立しないから、せめて自分の視界で理想を叶えようとしたんだな。犯罪じみてるけど。コウは号泣してたぜ? あとで謝りな? 反省してるようなら、それとなく伝えておいてやるから」
「わ、わだじばブァンじっがぐでず!」
「うんうん。わかるわかる。俺もそうだった。切腹したくなるよな。マジで」
共感できる部分もあるし、リーサルウェポンの出番はないようで安心した。
シーナは号泣しながら、顔から可能な限り垂れ流せる汁を放出し、猛省している様子。
それにしても、シーナがここまで思い立ったら外堀を埋めて行動するタイプだったとは思わなかったな。
「で? お前さ、コウといつ付き合ったわけ?」
「え? そりゃあ………ずびっ。お前が特務とかいうのに行く、5日くらい前かな」
泣き止むのも早い。それはそれで助かるけど。
「ふーん? なんかコウの様子がおかしかったのは、そういうわけか。で、お前から告白して、コウも異性に耐性がないからコロッと騙されて」
「おいコラァ。誰が騙したって?」
「尻に異物挿入するのが目的だったんだろ?」
「んぐ、ぐぎぎっ………」
「で、即刻ベッドインか。すげぇなお前。よくやるよ。俺だって………数週間は葛藤してたし。ヒナに説教されたり、変な噂流されたりしたこともあったくらいだし」
「赤ちゃんプレイ風オイルエステ………ブフォァッ」
「テメェ………チッ。リーク源はコウか。フォローするのは見送るとして………」
シーナを詰めても仕様がない。せっかく、こうして1週間ぶりに再会できたのだ。とっとと用件を済ませることにした。
「コホン………俺が尉官になったのは知ってるな?」
「なんだよ急に。自慢?」
「いや? 少尉になって、色々できることが増えたって話。ところでお前、グラディオスに乗りたいって気は、まだあるのか?」
「当たり前じゃん。………あ、まさか」
「そ。推薦権を得た」
「マジか! やったなノギ少尉! 2階級どころじゃない特進! ヒュー! かっこいい! 戦死をも超越した超人! 神なのかな?」
「………よいしょ振りが露骨だなぁ」
俺が権力を得て、ついにこの時が来たと雀躍するシーナのおだて方が露骨過ぎて、嫌味も言えなくなる。
されども、そのくらいでいい。とりあえずモチベーションだけは高く維持できているようだ。
「けど変に勘違いすんなよ? 俺は候補者に加点できるだけで、それで決定するわけじゃない。結局はそいつの技術次第だ。グラディオスはある意味で実力社会の縮図みたいなところがある。お前がその気でも、伴わないようじゃ話しにならねぇ」
「なんだよ。褒めて損した」
「ああ、そう。そういうこと言うの? コウのトラウマになりそうだし、そういうトラブルメーカーは早期に減点しておくべきかな」
「あ、嘘。ごめんって。冗談だよ。………まぁ、実力ってのは、心配ないと思うけど」
「そこは心配ないって断言してもらわないと困る。身内贔屓は許されてねぇんだ。とりあえず、今からこの支部のハンガー行くぞ。お前の実力を見せてもらう。整備してるガリウスFを見せな」
「プレッシャーかけるなよ。って言いたいところだけど、お前の言うことが正しいんだろうね。うん。いいよ。案内する」
シーナの先導でハンガーへ移動する。
グラディオスで取り扱っているのは、第六世代よりも上の第七世代。それも改修型。適正はもちろん、臨機応変に動けないようでは、今から受かるようにレクチャーするしかない。
ところがそんな俺の不安は、シーナが担当する新人が駆るガリウスFを見せてもらったことで解消されたのだった。
「………これ、お前がひとりで?」
「まだ他に整備士はいるんだけど、私も昇進して、これを任せてもらえたんだ」
「………ふーん」
俺も元は整備士の見習いだ。カイドウの弟子として、兄弟子たちに揉まれながら日々を過ごした。
その俺の視点から見ても、シーナが担当するガリウスFの整備は、きちんと隅々まで行き届いていて、とても丁寧だった。
「どう? 私、グラディオスでもやっていけそう?」
「………移動するぞ」
「え、ちょ、ちょっと。判定くらい聞かせろよ!」
小さなハムスターが俺に纏わりついて、ニャーニャーと喚くも無視をする。
連れて行く先は、グラディオスだった。
「え、もう飲み物休憩?」
「まさか。ちょっと待ってろ。………艦長。少しお時間よろしいですか? ヘッドハンティングしたい整備士がいるんです。グラディオスへ乗艦許可を願います。………ええ、いつぞやの整備士です。もしかしたら、磨けば光るかと思いまして。早期にグラディオスの内情を知ってほしいんです。はい。ありがとうございます。では、失礼します」
「艦長に、私のこと言ったって………え? どゆこと?」
「お前の仕事は丁寧だったし、ガリウスFをあそこまで微調整できる腕前を持ってんだ。だから、審査なんぞ必要ない。この場で一発限りの試験をする。シーナ、本気でやれ。おやっさんは、男だろうが女だろうが、本気でやる奴を絶対に見捨てないし、育ててくれる。これは二度とないチャンスだと思いな」
俺の背後でハンガーに通じる隔壁が動く。
シーナは固唾を呑んで、俺越しにグラディオスを見上げて、しばらく呆けたあと───決心した表情をして、俺に続いてグラディオスへ初めて乗艦した。
評価、リアクションありがとうございます!
申し訳ありません。更新が大幅に遅れてしまいました。
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




