AとC⑦
「………そうか。ビーツ艦長が」
「はい。俺宛てに発注された特務は、ビーツ艦長が独自の調査をするという名目で、オルコット氏に依頼したものでした。つまり」
「アリスランドとオルコットには癒着がある、か」
「はい。それが、今後厄介なアクシデントを招くかもしれません」
「ふむ………これから与えられる任務の裏付けも調べなければならなくなる、か」
翌日早朝。
ローションと汗と、愛の営みで発生した液体塗れで寝てしまったこともあり、全身カピカピになった俺は、クランドから出頭を命じられたことを思い出して焦った。
みんなを叩き起こして部屋の掃除をする。俺は時間がないのでシャワールームに飛び込んだ。すると足裏に付着たまま乾いたローションなどが水を得て戻り、床を滑られて危険性を増すという悪循環に陥る。見かねたシェリーもシャワールームに入り、洗髪の補助をしてくれなければ確実に間に合わなかった。
艦長室にはクランドとカイドウ、シドウがいた。俺に関係する重鎮たち。
さて、どこまで説明したものかと悩む。
特務の期間中の会話は、ハルモニには記録させない決まりだ。タキオンの記録も同様に抹消される。それにゆえに俺とビーツは遠慮のない会話ができたのだ。
けど、だからと言って馬鹿正直に最初から最後まで喋るわけにはいかない。
俺とビーツは転生者で、この世界の原作となったアニメのファンなんです。なんて告げれば、レイシアの診断後、精神科に通院を勧められそう。
ゆえに教えられるだけの内容を選んで告げた。
ローマ跡地のクレーターにいた赤いなにかは、そのまま教える。あれはアンノウンとは別の生命体ではあるが、もし別個体がいれば、確実に敵になる。ただし、あの謎の声は伏せた。
「とにかく、ローマでなにがあったのかはわかった。報奨金も近く入金されるだろう。上からは私のところにも、もちろんきみのところにも連絡がないのなら、グラディオスクルーに教えてもいいのだろうな。誰もが知りたがっている。聞かれたら、ありのままを伝えてもいいだろう。ご苦労だった。エース少尉。下がりたまえ」
「ハッ。失礼します。………今さらですけど、少尉って呼ばれるの、少しだけまだ慣れないですね」
「たった今、シドウ大尉にも劣らぬ返答と敬礼をした者が、なにを弱気なことを。階級など、そのうち気にもならなくなる。ゆっくりと慣れていけばいい」
「そういうものですかね」
「そういうものだ。………ああ、そうだ少尉。待ちたまえ少尉。きみに頼みたいことがあるんだ、少尉」
「………あの。早く慣れさせたいのは理解できますけど、そう連呼されるのも、それはそれで恥ずかしいです」
「そうか? それは済まない」
お茶目な艦長さんっ。
お返しにキャロットケーキをワンホール焼いてもらっちゃうぞっ。
という冗談は抜きとして、出会ってから半年以上の付き合いだが、クランドは最近になって、やっと表情らしいものを浮かべるようになった。
今なんて俺をおもちゃにして、相好を崩すくらいだもんな。信頼され始めたのだろうか。
「それで、頼みたいこととは?」
「うん。すでに噂として出回っているようだが、内容はそのとおりだ。グラディオスの改修と同時に、我が艦の怪我人とドイツ支部の人材を交換することとなった。怪我人全員というわけではない。未だ怪我が治らず、退院できぬ者も多い。支部長と話し合った結果、ドイツ支部のなかから選りすぐりを派遣してもらうこととなった」
「………ほうほう」
来たか。これを待っていた。
第2クールからネームドキャラが増えるからな。そして死亡する者も増える。新たな絶望の幕開けとなる。
「そこで、エース少尉には、補填員の審査に回ってほしい。優秀な人材を選んでくれ」
「俺でいいんですか? むしろ、贔屓めいた人選になってしまうかもしれませんよ?」
「そこは心配要らない。きみが第1審査となるだけだ。第2、第3の審査はカイドウら各セクションの責任者が行う。きみはグラディオスのクルーに誰が相応しいのか、加点するだけでいい」
なるほどね。俺の贔屓ですべてが決まるわけじゃないということか。
けれども、それでいい。少なくとも、今頭に浮かんでいるあの女は、砲雷長であるアーレスの印象には残っているはずだ。整備科って言ってたし、あとでそれとなくカイドウと顔合わせでもしてやろう。………その前に実力云々を調べる必要がある。ガリウスGの発展型である改修機に対応できないのでは、話にならない。
「承りました。審査はいつからですか?」
「明日から始まることとなっている。1ヶ月で決めたい。残りの1ヶ月で慣熟訓練を終わらせなければな」
「承知しました。では、失礼します。今度こそ」
「ああ。足労をかけたな………少尉」
まだ言うかっ。レイシアさんにチクるのは決定。クランドが大嫌いなキャロットケーキの刑だ! 渋るようだったら俺が焼いて、手ずから差し入れてやる。愛を込めてな!
艦長室から去り、まずはハンガーへ───とはならず、グラディオスの外に出た。
脳内チップを介してメッセージを作成。送信。3秒もかからない。そして30秒後、即答が返った。
ドイツ支部に入る。もう半分くらいが顔見知りだ。「お帰り少尉殿」と声をかけられる。異例の特進だもんな。話題にもなるか。
向かうは宿舎棟。女子寮の裏口。そこで待ち合わせとなっている。
が、そこに現れたのは呼び出したシーナ・サクラではなく………
「えっ、エー先輩………っ」
「え? コウ!?」
髪どころか衣服も乱れている様子の、グラディオスのパイロットであるコウが、慌てた様子で飛び出してきたのだ。ドアの近くで腕を組んで待っていたところに転げるように飛び出したので、思わず変な声が出た。
そして、異変は続く。
「た、たたた、たす、助け………っ」
「お、おい。落ち着け。コウ! いったいなにがあった? ってお前………うん? なに? その首の、虫刺されみたいな………汗塗れだし………ベルトもしてねぇし………あっ」
さてはこいつ、交尾してやがったな!
こんにゃろ、こいつ無駄にイケメンだからなぁ。
グラディオスでも隠れファンがいたとか。ファンブックで見たような気がする。ドイツ支部に降り立てば、黙ってればイケメンの少年だし、歳が近い女が黙ってるはずもなかったか。
いやでも、良かった良かった。
本編ではコウはアイリに懸想して、その恋が叶わぬまま戦死した。俺がアイリの負傷を請け負ったせいでイベントフラグがへし折れて、機会を奪ってしまったことに罪悪感を覚えていたけど、コウがもし、意中となるパートナーを見つけられたなら、それはそれで嬉しいことだ。
そういえばこいつ、俺が特務に向かう前もこんな感じで乱れていたような? ははーん。先週からそういうことしてたのね。いやぁね水臭い。それならそうと言ってくれれば、避妊具を分け与えたというのに………あ、冗談。今朝見てみたら、箱の中身が残り3割以下だったんだった。分け与えられる余裕がなかった。レイシアに相談しないと。
………けど、なんでこいつ、そんなおめでたいことになってるのに、涙目になって俺に助けを求めてきた?
「コウきゅぅぅん………ジュル………ぬふ、でゅひ、ぬぅほ、んほ………逃がさないよぉ」
「いぎぃ!?」
「………なにやってんのお前?」
コウが転げるように飛び出したドアから、シーナが怪しい笑みを浮かべて、乱れた服装のまま気持ちの悪い顔をして現れる。
コウは悲鳴を上げて俺に飛びつき、俺は冷めた目でシーナを睥睨した。
「たす、たすけ………助けてくれエー先輩! こいつ、俺が寝ている間に、鉄の棒が生えた下着を履いて、俺の尻に挿れようとしたんだ!」
「………あー」
さて、こいつどうしてくれようか。
シーナがコウをペロリしたわけね。パートナーになれたと。なんか、コウは最初こそ初心そうな表情をしてたもんな。転生者の知識を総動員して、乙女ゲームみたくコウを攻略して、全年齢対象の壁をぶち破って18禁ものにしてくれた挙句、男性器を模した下着までプレイに使うかね、こいつ? 寝込みを襲うとか、正気か?
「でゅふっ、んふ、ぬふ………私の初めてあげたんだし、次はコウきゅんの処女をもらうのぉ」
………ダメだこりゃ。イカれてやがる。
これだから過激派ってやつはよぅ。別に腐女子がダメとかじゃないんだよ? 俺は同性愛に理解があるし。内容は面白いって思う時もあるし。
でもだからって、一方的はよくない。
見ろよ。俺が右腕が消し飛んで、脳死まで追い込まれた時にしか泣かなかったコウが、子供みたく涙目になりながら縋っている。
………ヤベェな。なんか可愛く見えてきた。違うそうじゃない。
俺はシーナの推薦を本格的に取り消そうかと、本気で迷い始めた。
ブクマ、リアクションありがとうございます!
イカれております。本編が病気! 病院も裸足で逃げ出す!
それと、作者は腐女子あるいは同性愛に偏見があるわけではありません。他人様の趣味嗜好を否定するつもりも毛頭ございません。ただシーナというキャラクターが狂っていた。それだけなのです。何卒作者のことを勘違いしないでください。よろしくお願いします。
作者からのお願いです。
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