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帰投

「あ、そうだ。ハンガリー支部寄りたくないから、推進剤もらうからな」


「消え失せろ!!」


 仕返しに、今度は俺が締まりのない終わり方を演出してやった。


 一時的に手を組み、次に会う時は敵同士。決別し、それぞれの道を行く演出。それがビーツの理想なんだろうが、知ったことじゃない。


 決別し、テントから出た1秒後にまたテントに戻り、輸送機に必要な分の推進剤の拝借を伝えると、案の定ビーツはキレた。面白ぇこと。


 俺はタキオンに戻り、キャンプの資材置き場から推進剤の入ったタンクを拝借。給油なんて整備士見習いだった時代から何度もやってる。スムーズに行い、ビーツが文句を言う前にタンクを元あった場所に戻す。メモ用紙を貼り付けた。内容は「ゴチでぇす!」と日本語で書いてやった。見たらまたキレるなあいつ。


 タキオンを輸送機の上に固定する。コクピットと輸送機をタラップで接続して、どうせハンガリー支部には寄らないし、タキオンに被せるカバーは外したまま離陸。


 巨体が重力に逆らう振動。操縦席のシートに身を沈め、ベルトをすると本格的に上昇を始める。


 すると、キャンプからビーツが出て、なんと殊勝なことか、見送りに───


「チッ! 上等だよあの野郎っ!」


 輸送機を見上げたビーツが敬礼代わりに左手でファックサインを送ってくれたので、俺も左手でサムズダウンをプレゼント。意趣返しか。ライバルなんだから、これで丁度いいのかもな。


 そして、輸送機はついにローマ跡地から去り、北上するのだった。来る時は東へ大きく迂回したが、推進剤の補給をしない一直線の飛翔だ。最短でドイツへと帰るための。


 推進剤を少しも無駄にできないフライトとなるだろう。そこはハルモニに計算して、操縦を託すしかない。


『特務、お疲れ様でした。メカニック・エース。現在、ドイツ支部へと終了の旨を送りました。返信はいずれ届くでしょう。今は少しでもお休みください。私が操縦の一切を請け負います』


「………悪い。そうさせて………もらう………」


 やっと休むことができた。


 あのわけのわからない、赤い化け物を海に叩き落とすために脳内チップを使い過ぎた。


 それでも戦いが終わって、ビーツに弱味など見せたくない一心で、気を張り続けた。倒れてなどいられない。


 実は、昨日はあまり食べることはできなかったし、眠ることができなかったのだ。


 限界領域をとっくに超過するほどの戦闘。心身共にボロボロだった。


 焦りを感じるが、昨日よりも弱い。


 つまりこの症状───脳内チップが俺を侵食し、思考を機械化しようとしている。グラディオスクルーの大半を震撼させた、俺の廃人事件その2の再来だ。


「くそ………寝ようにも………まるでエナジードリンクの過剰摂取みたいな冴えが出て、眠れねぇ」


 脳の一部が睡眠と食事への興味を忘れて、必要としなくなっている。


 反して倦怠感と興奮が同時に襲いかかってきて、指先は震え、動悸が激しくなっている。


 ギリギリ1週間離れただけでこれだ。様々な関心が薄れているのに、ヒナとシェリーとユリンのことだけは、はっきりと認識している。


 操縦席を離れて、いつも食事を摂る座席へ移り、手を伸ばせば届きそうな高度にきたゆえ、雲を見下ろしながら食事の用意を始める。せめて手軽なものを………ポテトとソーセージを炒めた保存食をレンチンして、食欲が失せても強引に咀嚼して嚥下する。


 水をがぶ飲みして、トイレを済ませて、インスタントコーヒーの支度をする。コーヒーは半分、砂糖とミルクを多めに。時間をかけてゆっくりと飲む。


 簡易ベッドがある部屋まで移動し、やっと体を仰臥させて───それでも眠れず、仕方なく目を閉ざし、毛布にくるまって到着の時間を待った。






 1時間後のことだった。


「ハッ………ハッ、ヒュ、っぐ………」


 激しく呼吸しながら、それでも操縦する意識は手放さない。


 最悪だった。


 俺はタキオンに再び搭乗せざるを得なかったのだ。


 失念していた。なぜ大回りな迂回ルートを選んだのか。


 ドイツとイタリアの中間にある場所こそ、アンノウンが多数出現するポイントで、案の定フライト途中の輸送機が発見、撃墜されないためにタキオンで出撃した。カバーを外しておいて正解だった。


 けどすべてが不幸中の幸いとは呼べない。


 イタリア支部跡地を脱した時点で、脳内チップのキャパシティ使用率が70パーセントを超過し、1時間の休憩では10パーセントも回復できていなかった。


 群れを成すCタイプ。なんとFタイプもいる。輸送機はドイツ支部からの借り物だ。落とすわけにはいかない。降下させ、救難信号を送りながら現中域より離脱させる。タキオンが囮になるしかなかった。


 すでにオーストリアを抜け、ドイツの国土にいる。ミュンヘン辺りだ。


 チェコも経由して一直線に───という時に発見されてしまった。


 着替えずにパイロットスーツのままベッドで仰臥していたので、アラートを聞いて飛び出し、ヘルメットを被ってタキオンに最短で搭乗することができた。


「ア゛ア………最悪だ。たまには空気読めよ、クソアンノウンども!」


 最悪なコンディションで、消耗を最低限に保ちながら加速するタキオン。こうなるんだったらタキオンにも給油するべきだった。もう半分もない。輸送機の負担を軽減すべく、少しでも軽くするために給油せずにいたのは失着だった。


 狙撃するFタイプの弾幕を回避し、肉薄。ヒートナイフで胸を突く。


「あと10匹ぃ!」


『警戒! Dタイプです!』


「嘘だろ………こんな時にクソ面倒なドリル野郎が来やがったかぁ! ならお出迎え………ぐっ」


 メインカメラの映像が、急に荒くなる。画質が低下したような見え方だった。


「まずい………体の限界の方が………早い………ッヅァァアアアアアアアアア!!」


 震える左腕。両足。腰。


 それでも生き残るため、涎を飛ばしながら吼える。


 まともに作用しなかったレーダーが、一瞬だけ鮮明になる。Dタイプはすでに俺の背後にいた。ヘビィガンを発砲。照準が定まらない。ヒートナイフで迎撃。心中を捉えられず、強烈な回転に負けてヒートナイフが折れ曲がる。


「負ける………か」


 新たなヒートナイフを展開。ヒートチェンソーはすでに砕けた。これが最後の近接武器。


 荒々しい呼吸。獣のような唸り声が頭に反響する。


 倦怠感。頭痛。発熱。吐き気。意識朦朧。すでに肉体の限界を超え、タキオンの制御もままならない。


「生きる………」


 10体のCタイプが一斉にタキオンへ襲い掛かる。


 Dタイプも反転している頃だ。


「会うんだ………みんなに………帰る………」




『そうだね。また会おうって約束したもんね。()()()()()




「え?」


 薄れかける意識のなかで、知った声を聞いた。


 直後、ぼやけるメインカメラで捉えたアンノウンが、一斉に爆撃される。ミサイルだ。でもどこから? 支部は近くにない。爆撃の支援など頼めるはずがない。


 そんな、停止してしまったタキオンの上を通過する8つの機影。


 その速度たるや、まるで戦闘機のハイマニューバ。


「………完成したのか。そっか、よかった………」


『エー先輩っ!』


『ヒナはエースを確保! アイリ、輸送機を誘導しエースを設置! ソータはDタイプを追え! 第二陣の接近を感知した。ハーモン、コウは新手を出迎えろ! シェリー、ユリンはこのままCタイプを迎撃! エースを全力で支援し、ドイツ支部に戻すぞ!』


『了解!』


 あらら………隊長ったら、みんなのこと名前で呼ぶことにしたのね。第2クールからそうだったもんね。


 たった1週間だったけど、なんだかとても懐かしい声を聞いた気がするなぁ。


ブクマ、リアクションありがとうございます!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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