楠木美壱
「ああ、お前か。任務は終わった。ご苦労。もう帰っていいぞ」
「いや、お前さぁ。もっとなにか言うことないわけ?」
「言ってほしいか? 俺が涙を流し、別れを惜しみ、互いの健闘を讃え、抱擁すると? 正気かお前?」
「いやそこまでやれとは言ってねぇけどさ」
ビーツと馴れ合うつもりはないが、しかし軍人として動いているならば、他の目がないとはいえ、きちんと対峙して終了を告げるべきだ。締まりのない結末など、転生者であるからという言い訳など通用しない。
キャンプの近くでハルモニが操縦する輸送機と合流し、ともにゆっくりと降下して着陸。タキオンと輸送機のチェックをハルモニに任せて、俺はやっとヘルメットを外して外気で顔と頭を冷却させながらビーツのテントに入った途端にこれだ。文句のひとつくらい言ってやりたくもなる。
「せめて敬礼くらいはしろよ」
「一介のパイロット風情が、俺に意見するか。立場を考えろ。それともお前は、他の艦の艦長に向けても、そんな不躾な言動をするのか?」
「いや、お前限定だけど」
「ならば俺も、お前限定で、このスタンスを一貫する。理解したなら去れ。いつまでそこで呆けているつもりだ? 邪魔になると気遣いもできないのか?」
やっぱり、嫌な奴。一時的に連携して、フォーメーションまで組んだ仲だというのに。
「そう辛辣になるなよ。………楠木」
「………」
「ビーツ。お前の前世は楠木美壱。そうだな?」
「………やっと思い出したか」
「ああ」
やっと機材から目を離し、俺を直視するビーツ。
「俺にとっては約半年以上の再会だ。………お前は?」
「………約2年となる」
「そっか。久しぶり」
「ああ」
今度は俺も黙る。黙ってビーツの様子を見た。ビーツもまた、俺の反応を観察していた。
楠木美壱。
俺が通う大学の同級生。学部は違う。俺が文系で、楠木は理系。
俺と楠木を比較すれば、なにもかもが劣るだろう。楠木はいつでも優れていて、秘めるハイスペックな才能を存分に発揮し、俺と楠木を繋げたサークル活動では常に全員の先頭に立っていたからだ。
1年生だった頃は俺と立場が同じだったが、今では上級生らとも対等に話し合えるくらい台頭してしまった。遠い存在だ。それでいて楠木は隔てなく優しく、多趣味で、俺にも話しかけてくれるような聖人かと勘違いしてしまうほどの、出来た奴だった。
来年の部長候補。人望が厚い。周りには常に誰かがいる。
欠点として挙げるとすれば、これは転生する半年前、偶然都心に出かけた際に見てしまったのだが、同じサークルで俺が少し気になっていた同級生の女子と交際していると公言して玉砕し、傷心していたところでラブホテルに上級生の女子と入っていくところを見てしまったのだ。
それからも女子を取っ替え引っ替えし、ビュッフェ感覚で遊んでいたと聞いて激昂した。サークルで1年生以外で食べられたことがない女子はいないと確信するほどのクズだった。
だから俺は内心でこいつを「クズの木」と呼んでいたくらいだ。
それでも糾弾できなかったのは、楠木は俺以上にやり手で、証拠も巧妙に隠すし、楠木と俺の言葉では信頼が違うもんな。俺の言葉など信じてもらえるはずがない。
そしてなにより、楠木が俺と同じくアニメ好きで、特に「天破のグラディオス」のファンであった。楠木がクズでなければ親友にもなれたくらい話が合う。同志を集めるべく、俺が男子に、楠木が女子に布教したりした。
楠木を何度か俺の家に呼んだことがある。天破のグラディオス鑑賞会として夜通しで見ては考察を述べた。
楠木は理系の観点から考察できるので、その知識は俺に蓄積されていく。インターネットで得た情報なども加味すると、あの「掟破り」が有効ではないのかと論議したり、ビーム兵器の有用性を論議したり………
まぁ、今思えば、楠木がいたからこそ、俺の原作破壊行為の無茶が通ったようなものなのだが。
「………お前が言いたいことはわかるよ」
「は?」
「こっち側がいいんだろ? お前」
「………」
ちょっと、地雷だったかな。安易に踏み抜くにはリスクが大きかった。
楠木改め、ビーツは射殺すような目で俺を見る。
そりゃそうだ。俺だって、もしビーツの立場なら、グラディオスにいる転生者に嫉妬する。それで好き勝手していれば、なおのこと。
「………俺が言いたいことがわかるなら、俺の考えていることも、わかるな?」
「俺を失脚させたいか」
「それもある。だが………違うな」
「お前はアリスランドを捨てずに、グラディオスも手にしたいんじゃないのか? 俺がお前だったらそれに似たような行動をする」
「安直にして、幼稚な発想だ。グラディオスは最早、お前の色に染まった中古品に等しい。前世の俺は、よくそれに似たこともしたが………今は、そうではない」
ビーツは前世で、彼氏がいる女子も食った。もし該当するなら最低な表現だ。その行動も最低だが。こんなクズじゃなければ親友にしたいって願望したのにな。本当に。
「なにが狙いだ?」
「お前の崩壊」
「あ?」
「冗談だ」
「………別に、いいよ。そういう感情を向けられてるって自覚はある。俺だけを狙うなら、まだいい。けどな楠木。ソータたちに手を出すな。第8話の、ペンタリブルでやらかしたあの現象、俺が防がなかったら誰かが怪我をしてた。アリスランドのクルーを差し向けたのもお前だろ。俺を刺しに来るなら堂々と来い。受けて立つ。逃げはしない。だから………ソータたちを、狙うな」
「戯言を。だが俺がお前を狙うことはなくとも、ソータとアークの問題があるぞ? それには俺も介入する」
「それはあいつらが解決する問題だ。俺だって梃入れはする。俺が言っているのは、お前が小細工を使わずに、正面切って戦いを挑めってことだよ」
「まぁ、なにが言いたいのかは理解した。………だが確約はできんぞ? お前も気付いているだろう。すでに展開は、これから始まる第13話からも、ストーリーは俺たちが知っているものからかけ離れるかもしれない。その時、俺は自分に優位になるよう動く。当然だ。これは戦争にして、俺とお前の戦いでもあるのだから」
それくらい、俺だってわかっている。
だからこそ、ビーツに、楠木に、釘を刺しておかなければならないのだ。
転生者同士として。この世界には本来登場することのない異物同士として。
「………特務は終了した。馴れ合いの寄り合い所帯は解消だ。お前の力量も把握できたことだし、収穫はあったな」
「ほざけ。俺はまだ本気を出しちゃいねぇよ」
「偶然だな。俺もだ」
ピリつく緊張がテントに満ちる。
矢を添えて引く、弦のように張り詰め、キリキリと音を立てているようだ。
「次に会う時は敵同士だ。容赦はしない。覚悟しておけ。小此木」
「やってみな。俺の全力で、お前を阻止する」
それが、決別の言葉となった。
こうして手を組むのも最後。
今後の展開で、グラディオスは必ずアリスランドと遭遇し、艦対戦を行う。
負けない。
負けたくない。
俺はこの時、楠木が親友でなくて良かったと初めて思った。
俺たちは前世から、相容れないライバルになるためにここにいる。
そう確信したからだ。
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閑話もそろそろ終わり、やっと後半へ向かえます。
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