転生者を知る敵③
初日とは異なり、今回は俺もビーツもフル装備だ。持ち込んだすべての武器を懸架し、使い捨て、機体を軽くしながら敵の手段を奪い追い詰める。
襲い掛かる触手を切り払う。アンノウンと同様の熱量だ。5本目の迎撃でヒートナイフが1本終わる。
《なんだこの手応え………Eタイプとも違う。まるで液体のような金属? 液体………収縮? ハルモニ。記録しておけよ》
《イェス。メカニック・エース》
触手の迎撃に、微かな違和感を覚える。記録することで、交戦記録は残る。
ちなみに、ビーツの提案でオルコットの権限が働き、この特務で発生した会話は、すべて残らないよう設定してある。ゆえに俺はビーツと心置きなく軽口を叩けるし、ビーツもオルコットに会話記録を提出せず、違和感を持たれることはない。
『神様気取りの不躾者め。誰に勝負を仕掛けていると思っている! お前が俺のことを知っていようがいまいが関係ない。このまま消えろ!』
吼えるビーツ。いつもより言動が荒々しく、そして余裕がないようにも思えた。奴もなにか掴んだというのか?
『神様………良イ、表現ダ………ナラバ、コノ………神ヲ………超エテ見セロ。世界救済ニ、相応シイカ、見届ケル………』
「知るか! そのくだらない御託しか述べられない口を、今すぐ閉じろ!』
持ち替えたロングソードで触手を迎撃しつつ、ライフルで赤いタキオンを狙う。
すでに赤いタキオンは、タキオンたるすべてを失い、半分ほど原型を留めていない。
いつの間にメインスラスターを再生させ、サブスラスターも寄せ集め、化け物に変貌したそれを支える推力としている。
空高く樹木を伸ばそうとしているが、俺もビーツもそれを許さない。攻勢のみは奪わせない。
『小此木ぃ!』
「あのスラスターを破壊する!」
『俺が囮になってやる! 今のうちに、やれぇ!』
俺のタキオンが降下する。赤い触手がビーツから半分ほど離れて俺を追うも、敵の攻勢が半減したところで漆黒のタキオンが囮役にも関わらず火力を増して赤いタキオンだったものを水中に押し込もうとする。俺を追尾しようとした触手も無視するわけにもいかず、もう半分がビーツ迎撃へと戻る。
このタイミングを逃さない。逃せば次はない。
俺のタキオンはあらゆる攻撃を回避した。俺もどうこう言っていられる余裕もなく、脳内チップのキャパシティを短時間で大半を失ってしまうリスクを理解しつつ、未来予想を発動。一瞬を連続で使う。区切った一瞬で赤いタキオンだったものの動線を把握し、無駄のない紙一重の回避を実現した。
ただし、
『メカニック・エース。脳内チップキャパ、60パーセントを切りました』
「だぁ、クソッ! こう相手の手数が増えれば、ほんの一瞬だろうが消耗が早ぇな!」
半分以上を使用すると、本格的に発熱してくる。不快感を気合いで噛み殺す。
このドッグファイトを制さなければ、俺に明日はない。触手を掻い潜り、ついに敵の推進器まで辿り着くと、ヘビィガンを発砲。まだサブスラスターしか潰せていないが、複数を破壊するほど赤い化け物が傾ぐ。肥大化したせいで姿勢制御に難が出るのだ。
灰色の軌跡を空中に描き、ヒートチェンソーも用いながらサブスラスターを多く潰す。ライフルで敵の中枢、つまり巨体の中央にあるメインスラスターを狙い、防御が厚くなるとサブスラスターを狙う。見えない駆け引きというのはどうも苦手だが、攻防がはっきり視認できるものなら、俺だって可能だ。
一周すると、ついに赤い化け物の高度が下がる。メインスラスターだけでは推力こそ維持できるが、姿勢制御が間に合わない。特に異形の化け物となってしまってはバランスを欠き、自重で傾いてしまう。
下はティレニア海。アンノウンと似た性質をしていては、水のなかでは行動できない。最後の足掻きと様々な試行錯誤をしているようだが、機械と化け物が融合してしまっては、自分の体のコントロールもできないだろう。
『見届、ケタ………ナラバ………最後マデ………足掻ケ、ヨ………転生者………』
かなりの強敵だったが、万全を期して、環境さえ利用してしまえば、苦戦することはあれど勝てない相手ではなかった。
また意味不明な言葉を俺たちへ届け、赤いタキオンだった化け物が着水。ジュオッ───と海水が蒸発し、水蒸気が立ち昇る。
俺とビーツは、赤い化け物が、まるで海という魔物に呑まれていくような不気味な様を、ただ見送るしかできなかった。
「………ビーツ。あの赤いの、なんだったと思う?」
『わかるはずがない。最後に通信を試みたが、どうやら一方的にしかできないらしいな。あれに受信機能がないだけかもしれんが。………反応はどうだ?』
「サーモはまだ反応がある。微弱だが、海水も温度が下がって………沈んでるな。………消えた。完全に機能停止。あの化け物、倒せたと思っていいのかね?」
『少なくとも、アンノウンを未知の生命体と過程するならば、コアが提出、あるいは破壊されれば、供給される熱も停止する。………死んだのだろう。もう復活することはない』
「じゃあ」
『ああ。俺たちの勝利だ。特務完了。これにて作戦を完了とする』
ティレニア海の上空に佇む2機のタキオン。俺とビーツは対峙し、しばらく向き合っていたが、ビーツが踵を返すように反転。キャンプへと戻る。
「………ふぅ」
すぐに遠くへ行ってしまったビーツを見ながら、海の上でホバリングする。脳内チップを使いすぎた。少しだけ休憩したかったのだ。
「大気圏内の空中戦………マジでキツかったな。ハハ………俺も戦闘機に乗って訓練しとくべきだったか」
重力から推進器で逃れるようにする飛翔は、肉体的にも大きな負担となる。宇宙空間とは別物だ。
脳内チップは警戒体制を維持したままなので、ヘルメットのなかでは排熱が間に合わず、熱が籠りっぱなしだ。
「………ハルモニ。輸送機を戻してくれ。指揮官が作戦を終了したって宣言したんだ。帰るぞ。グラディオスに」
『イェス。メカニック・エース。再離陸後、キャプテン・クランドに帰投メッセージを送信します』
「ああ。頼む」
俺のタキオンもキャンプへ飛翔する。輸送機は貴重な足だ。戦闘に巻き込まれないよう、事前に逃しておいた。遠くの山から飛びだったのをメインカメラで確認する。
その数分後、赤い化け物が沈んだ海から、ゴボリと大きな気泡が弾けたのを目にしたのは、誰もいなかった。
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