転生者を知る敵②
一瞬で加速限界に挑むような、そんな飛び方だった。
アニメではよく無人機がやりがちだが、有人機でやるには非人道的でリミッターが課せられていたりと、なにかと不便───なんてものではない。非人道的そのもの。はっきり言って死にそうになる。
座席と見えざるなにかに板挟みとなり、逃げ場もなく押し潰されるのを待っているかのような苦痛。
されども、この暴力的な機動を緩めるつもりはない。
圧迫される眼球で視覚的情報を得るつもりはない。タキオンのメインカメラが俺の視覚となる。目を閉ざしていても、歯を食いしばり耐え、敵を逃すまいとメインスラスターから断続的に推進力を引き出した。
『転生………2人………楯突ク………面、白イ。足掻ケ………限界ヲ、見セロ………』
ギリギリで言語だとわかる言葉を使う赤いタキオン。
この赤いタキオンは、俺たちのなにかを知りたがっている。いったいなぜ?
アンノウンならわかる。特にこれから始まる第2クール序盤で、その兆候を知る。
しかしこの赤いタキオンは、人類の側の兵器を模す敵は、アンノウンとはとても断定できないし、なによりアンノウンからも攻撃を受けていたのでは、第三勢力と判断するしかないだろう。
その上で対策を練るだなど………正気の沙汰ではない。とてもではないが俺たちだけでできることではない。だがやると決めた。
アンノウンと敵対関係にして、俺たちとも敵対関係にあるなら、それがなんであろうと倒すだけなのだから。
「ビーツ!」
『指揮官は俺だ! 命令するな………と言いたいところだが、いいだろう。乗ってやる!』
脳内チップによって繋がる俺たちは、言葉にせずとも思考を共有できる。作戦の具体のイメージを送ると、すぐにフォーメーションに入る。
追走しながら可能にするフォーメーションといえば、やはり───
『挟撃、カ………』
『おいどうする! 読まれているぞ!』
「知るか! とにかくやれ!」
『チィッ!』
言葉にしない思考の共有であっても、赤いタキオンには読まれてしまい、どこか嘲笑するようなメッセージを受ける。
それでも強行する。俺のタキオンが上昇すると、ビーツのタキオンが赤いタキオンを追う。
場所はすでにティレニア海の上に移動していた。この海岸からトンネルを掘り、ローマのクレーターへ海水を注いでいたのだ。
ローマ跡地は雲の切間が発生していたが、ティレニア海は曇り空が広がっていた。その白い雲のなかに構わず突入する。
ビーツのタキオンの位置情報を頼りに、先行する赤いタキオンの場所を予想する。
数秒後にはすぐに攻撃へ移行。ロングソードをラックから引き抜いて、全速力で下降する。
ビーツは後ろ、俺は上空。
まさに第11話の終盤で、グラディオスがEタイプから受けた奇襲そのものだ。いかにタキオンとて、同スペックの相手が2機も揃って敵対してしまえば、フォーメーションを組んだ途端に脅威となる。
タキオンに追われるタキオン。振り切れるはずがない。そこに俺のタキオンが上空から奇襲。流星のような速度で赤いタキオンの直進上に刃を置くよう振り下ろす。
「………これを避けるか!」
ところが赤いタキオンは、その奇襲さえ通常では不可能とされる機動で回避してしまう。未来予想をしていたとしても、わかっていても避けられるものではない会心の一撃だったのに。
『だが、挟撃の甲斐はあった。見ろ』
「………へぇ」
ビーツは勝機を見逃さなかった。
赤いタキオンの脇腹に発生していた異常が、すべてを物語る。
俺の奇襲を避ける際、赤いタキオンからブチブチとなにかが弾ける音が聞こえたのだ。
そのまま直進すればロングソードに串刺しにされるところを、赤いタキオンは強引に身を捩るローリングで回避したのだが、タキオンとはそもそも殺人的速度で飛翔する機体。無茶をすればすぐに致命的な傷が発生する。俺だって実行などしないローリングを敢行すれば、腰部へのダメージは計り知れない。
アンノウンならまだ崩壊はしなかっただろうが、機械を模してしまったがゆえに発生する不祥を、赤いタキオンは見抜けなかったのだ。
『コレ、ガ………転生者ノ………実力………?』
『こいつはまだ学習し切れていない! 負荷を狙え!』
「わかってんよぉ!」
通常、ガリウスのプログラムには、回避パターンを学習させながら最適化を促す。俺のタキオンはソータがこれまで何度も繰り出した、神がかったダメージコントロールによって負荷が少なく、大胆な回避運動を学習させている。神経接続型ゆえにコンマ単位で実行することができる。ただし、搭乗者の負担は大きいのだが。
対して赤いタキオンは産まれて間もなく、搭乗者も不在。すべて自分で判断しなければならないのだ。
「今度はこれだ!」
『いいだろう!』
俺はビーツの脳内チップへ、これまで会敵したアンノウンのデータを送る。
どうせビーツも知っている敵だ。見られても問題はない。
漆黒のタキオンと灰色のタキオンが、高速で回転しながら赤いアンノウンに肉薄する。槍、あるいは矢をイメージした、ロングソードを突出したドリルのような攻撃。それでいて、あえて回避を促すべく、先行したビーツに合わせて、俺はあえてタイミングをずらす。
赤いタキオンは誘いに乗った。俺たちならまずやらないような、左右へ激しく上体のみを揺さぶる運動。
ビーツのは避けられるが、続く俺の攻撃は初めて通る。
「右脇腹が薄い! 次はこれ!」
『FとGの連携だと? なんだこれは。だが面白い。乗った!』
ビーツのタキオンが仕掛ける。ロングソードを背中のラックに戻し、足のハードポイントからライフルを二丁抜いて弾幕を張る。
右脇腹を激しく損傷した赤いタキオンは、ダメージを無視するような動きを繰り出す。
「背中がガラ空きだ!」
Fタイプを模すビーツ。なら俺はGタイプを模す。片手のみだが、弾幕の隙間を縫うように距離を詰め、赤いタキオンが被弾すればその隙間さえも詰めて、背部のメインスラスターへ右腕のヒートナイフを一閃。
赤いタキオンの機動力が著しく低下する。そこに俺とビーツの弾幕の挟撃。たまらず赤いタキオンは下へ落下するように逃げる。
「逃すな! もう奴は激しく動けな───これは!?」
落下する赤いタキオンの形状が変わる。メインスラスターがメキメキと変形し、初日を思わせる赤い樹木のような枝を伸ばし、ティレニア海に落下する前にサブスラスターで姿勢制御を行いながらも、反撃を繰り出そうとしたのだ。
『転生者………実力ハ、認メル………ダガ………ソレデ、世界ヲ………救エルカ? 救エル、ト豪語スル、ナラ………コレ、ヲ………倒シテ、ミセ………ロ』
「くっ!?」
それは幾多もの触手を思わせる、オールレンジ攻撃に等しかった。
赤いタキオンを中心に、幾多もの触手が俺たちのタキオンを襲う。
『奴め。あのハッキングでタキオンを理解したつもりだったのだろうが、ついになりふり構わなくなったか!』
「なら、あれを倒せば俺たちの勝ちだろ! 奴に次はもう無い! 海に落とせば再生できねぇ!」
『今日は頭が冴えているじゃないか。そういうことだ!』
第4ラウンドが、始まる。
これが最後だ。絶対に最後にする。
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