共同作戦⑩
翌日。作戦が始まって5日目の早朝。
起床して朝食。昨日はシャワーも浴びず、着替えもせずに簡易ベッドに潜り込んでしまった。起床後の気持ち悪さといったら、形容できないくらいだ。
けれど、嫌悪感があるということは、まだ脳内チップの侵食を受けていないということだ。
現状、どうしても三大欲求の最大に求められるひとつを封印しなければならないため、いつ兆候が現れても不思議ではない。警戒しなければ、心が持っていかれる。自分をできるだけ保たなければならない。
「………マジか。くそ。………もう時間がないってのか」
だがシャワー後、早速兆候が現れて危機感を覚えた。
せっかく用意した朝食に、魅力が薄れていたのだ。
問題は空腹感だ。半減している。原因は………そうだ。昨日の夕飯、ビーツの急な来訪が嫌で、大盛りカレーを流動食がごとく喉に流し込んだから、それで脳が誤認したのか。食事はちゃんと摂るべきだとわかっていたのに、誤認させては意味がない。
よって、食事は人間に必要なものだと認識させるべく、食欲が半減しようと、昨日と同じ量を用意して、しっかりと咀嚼し、いつもより時間をかけて食べることにした。脳をわからせねばならない。機械に支配されるのではない。俺が機械を支配するのだ。
「………ヒナたちに、会いたい」
もう俺は、ヒナたちがいなければ、自我を保てなくなってしまっている。
不便にして、因果応報にして、自戒を破るファンとしては失格な痴態。できるなら、戒めを破った罰として切腹するはずだったのに。状況がそれを許さない。
「………ハルモニ。機体のチェックは終わってるな? なにか気になるところはあるか?」
最初こそ最上級に可愛くて、それでいて姦しくて悪魔みたいな存在と1週間ほど離れられることに若干の安堵を覚えたが、寂しくてたまならい。そんな脆弱な心を紛らわせるように、俺はハルモニに問いかける。例え機械音声だろうが、会話をすれば気が紛れるし、なによりそれが人間として必要な行為ゆえに。思い出すように言葉を選んだ。
『必要とされる箇所は3点です。どれもメカニック・エースの手による整備が可能』
こういう時、元整備士見習いでよかったと思う。パイロット一本でここまで来てしまうと、自分の機体の修理も整備もできない。
「よし。とっとと直しちまおう。サポート頼むぞ、ハルモニ」
『喜んで』
高性能とはいえAIに喜怒哀楽の感情があるのか───などという論着を交わしたところで有るだの無いだの水掛論になる。今のはそういう返答なのだと納得して、突っ込まずにおいた。
薄手から厚着に着替えて、早朝の外気で顔を洗うように晒す。
天気予報では今朝から晴れるという。極寒というほどではないが、それなりに冷えるとはいえ、これから徐々に気温が上がる。
再戦まで24時間と少し。やれるだけのことをやるだけだ。
「ハルモニ。整備しながら装備を変えるぞ。輸送機のなかにあったはずだな」
『イェス。しかしジャケットほどではないものです』
「この際、贅沢は言っていられないよ。ガンビッドジャケットなんて持ち出そうなら、デッドウェイトすぎて飛べやしない。………グラディオスでは新しいジャケットが開発されてたな。それを俺のタキオンにも装着………いや、火力面が不安だしなぁ。やっぱ、タキオン専用のジャケットをもう一度設計するしかないか」
『メカニック・エース。その件につきましては、マスター・カイドウより特務終了後に話がしたい、というメッセージを預かっております』
「………なんでそういうことを早く言わないわけ? ………いや、おやっさんの手口か」
『イェス。マスター・カイドウはメカニック・エースの特務執行中において、集中力を欠く要因になるだろうから、終盤になったら伝えるようにと、私にプロンプトしました』
「ハァ………まぁ、そういうことされなくても帰るけどさ。寄り道なんかせずに」
輸送機から様々な機材を降ろし、バッテリーに繋ぐと、ハシゴをかけて膝の関節部を点検する。着地が多かった。大気圏内であれば、足首、膝、腰の関節は着地の度に軽微なダメージを負う。蓄積すると大変なことになる。
かといって予備パーツまでは持ち込めなかったし、換装できる施設もない。チェックとダメージの確認で、あと何回無茶ができるのかを調べるくらいしかできない。
タキオンのシステムに脳内チップを介してリンクし、レイライトリアクターを回転させず、軽微な動きをさせる。内部バッテリーたるコンデンサーに、少しでもレイライトリアクターから供給されたエネルギーさえあれば、短時間ではあるが関節くらいは動かすことができる。整備士の技術だった。
ふと───ビーツのキャンプを見る。
陽光を受けて装甲を輝かせる2機のタキオン。俺のは灰色で、ビーツはアークから借りた漆黒の装甲のタキオン。現在、どちらも整備中だった。ビーツも手ずから整備をしているらしい。漆黒のタキオンも似たようなポージングをしていた。
「2体のタキオンか。実現するとは思ってもいなかったけど………でも、これで差が縮まったわけじゃない。ビーツは俺の予想が正しければ───」
《随分と独り言が多い整備士だな。黙ってやることはできないのか?》
「………随分と傲慢なクソ上司だ。盗み聞きした挙句、挨拶代わりに文句を垂れやがるとは。おはようくらい言えないのか?」
《貴様にそんなことをする趣味はない。それよりも、お前が呑気に寝ている間に、色々わかったことがある。聞け》
「………ん。わかった。続けな」
会ったり、脳内チップを介した会話をするだけで、少なくとも仲間同士とは思えない刺々しい会話になってしまう。
それでももう慣れた甲斐があってか、それだけで済む。俺も、特に苛つくことはない。
《あの赤い敵は、やはりどのアンノウンにも該当はしない。発生は大気圏を突破した隕石の衝突………かと思いきや、周囲の被害を見る限り、そして近年の記録を見る限り、そんな隕石が落下したというものはなかった。これは地中から発生したものだ》
「地球外生命体だと思ってたのが、実は原産地が地球だった………ってことか?」
《そうだ。少なくとも、あの赤い光がいた場所が爆心地だ。お前は宇宙からそれを見たのだろう? そして………あの声だ。俺たちのことを知っている。その上で声をかけた。ならば、敵の目的もいくつかに絞られる》
「目的ね。じゃあなにか? 俺たちと接触することで、なにかを学ぼうって魂胆か?」
《おそらく、そうだ。具体は知れんが、敵は俺たちのタキオンに侵入した。であるならば………奴もまた、なにかを調べているのかもしれない。明日は心してかかれ》
確かにビーツの推測は当たっているかもしれない。
深層世界で会敵、交戦した際も半端ない学習能力で、俺の防壁が破られそうになったくらいだ。
覚悟しなければならない敵───Eタイプ以来だな。
果たして俺たちは、そんな敵にどこまでやれるのか。
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