共同作戦⑨
2機のタキオンはクレーターの中央に来ていた。
海水の注入は止めている。十分な量を満たしているからだ。むしろこれ以上の供給は妨げとなる。
クレーターの手前にあるタンク車から放出していたのは特殊な薬剤で、水に触れると冷却を促す効果があるという。一種の保冷剤のような役割を果たすのだとか。
『タイミングを合わせろ。5秒前!』
ビーツから照準が送られる。カウントダウンに合わせて、バズーカのトリガーを絞る。
『今だ!』
合図でトリガーを引く。
バズーカから砲弾が発射される。見たこともないタイプだった。
水面に着弾。砲弾は水中を潜行。
『まだだ! 次弾装填!』
マガジンにあるだけの砲弾を撃つ。3発。計6発がクレーターのなかにできた巨大な水溜まりのなかに撃ち込まれる。
眼下に広がるそれを見守る。3秒後に効果が現れた。
メインカメラをサーモグラフィーに切り替える。水底で着弾した砲弾が次々と炸裂し、水温を下げていく。
なにより効果があったのは、あの赤い光だ。海水の供給を止めた途端に活発化して、水温を上昇させていたが、水温をこちら側でコントロールするように下げてやると、反応が微弱となった。
水温は最高で40度ほどだったのだが、今は0度を下回り、水中でパキパキとなにかが鳴る。
「へぇ………大したもんだ。冷凍弾ねぇ。量産化したらアンノウンにも効きそうだな」
『すでに交戦したFタイプで実験した。実弾を発射するライフルで、小型化した銃弾でな。しかし、まだ改良が必要だった。焼石に水だったよ。精々、奴の体表面の温度を若干下げるだけだった。フルオートで30発。これくらい撃たなければ意味がないが、コスト面では痛手だ』
「それはご愁傷様」
『問題ない。すべてオルコットの経費だ。青褪めていたが、知ったことではない』
莫大な予算が必要だったってことか。
なら、そんなことをせずに通常装備で撃った方がコスト面では優れている。実用化されるのは、まだ先なわけだ。
「それより、これ………どう思う? 奴はまだ死んでないぞ」
サーモグラフィーで凍りついた水面を見る。
水たまりすべてが冷凍弾で氷結していた。アンノウンではなく、水には効果があったと。
だが水底の、イレギュラーたる存在の光だけは、まだ失われてはいなかったのだ。サーモグラフィーでもそれがはっきりと視認できる。真っ青になった大半の一点、中央に微弱な色が息づいている。
『時間稼ぎにしかならなかったか。戻るぞ。今後のことについてミーティングだ。機体のこともある。脳内チップのキャパも苦しいだろう。睡眠できずとも、俺たちのクールダウンも必要だ』
「俺のマネージメントもしてくれるのか? 随分と優しいじゃねぇか」
『勘違いするな。俺の手足になるお前が倒れれば、俺が出なければならなくなるだろうが。余計な手間というのが嫌いなだけだ』
素直じゃないねぇ。
バズーカを提げながらキャンプに戻る。
すぐに休憩───と行きたかったが、ミーティングをしないわけにはいかない。
ここには頼れる大人がいない。
俺たちだけでやるしかないのだ。
「ハルモニ。タキオンのチェック頼む。内部を徹底的にな」
『イェス。メカニック・エース』
元整備士見習いといえど、内部のことやシステム関係だけは俺でもどうすることもできない。俺にできることは限られているので、時間のロスも考えて、ハルモニを頼るしかない。
ハッキングの攻防の一件と、連戦で脳内チップのキャパが著しく低下している。気怠さや、軽い頭痛と吐き気を覚えるも、ぐっと我慢する。ビーツにだけは弱味を見せたくはない。
意識してしっかりとした歩調を保ち、しかし輸送機に一旦戻って防寒具を取り出すと手早く纏い、ビーツの待つキャンプへと向かう。緊急時ゆえ、普段着で搭乗してしまったせいか、汗が滲んでしまっていた。できるなら着替えたかったが時間が惜しい。
「………来たか。飲め」
「お?」
「福利厚生だ。俺も飲む」
ビーツが指で簡易デスクを指差す。そこにはカップが置かれ、湯気たつコーヒーが淹れてあった。
どうやら、このためだけに新品を開けたらしい。
「殊勝な心がけじゃねぇか」
「本当なら酒がいいのだがな。知っているか? 三大欲求を満たすには、酒も効果がある。特にアルコール度数が高いものなら、なおのこといい。お前は………ああ、前世ではよく飲む方だったが、未成年飲酒はダメとかいう律儀な自分ルールを貫いていそうだな。せっかくドイツ支部にいるのに、もったいない。ビールをまだ飲んでいないのだろう? ククク………難儀なものだなぁ? ええ?」
「………今度、仕入れられたらスピリタスを買っておいてやるよ。そんなに酒が好きなら、尻の穴から飲ませて意識を宇宙の彼方に吹っ飛ばしてやる」
たまには上司らしいことをすると感心した途端にこれだ。復讐を決意する。
「で? 状況は?」
いつまでも付き合っていられない。できるならすぐにでも休むか、タキオンの整備がしたい。早々にビーツの見解を聞くべく催促する。
「再び休眠状態に入ったが、時間の問題だ」
「また目覚めるのか」
「俺の計算では、36時間後だ」
「それまでに機体を万全にしておくか。………お前は? 1回乗っちまったんじゃ、もう無力か?」
「馬鹿を言え。たった数分だろうが。本気を出せる余力は、まだある」
「ハッキングにも脳内チップのキャパを必要としただろうが」
「もう忘れたか? 俺は2個移植していると。仮に、お前のキャパが50パーセントだとしても、俺はまだ25パーセントだ。36時間もあれば回復できる。お前こそ回復できなければ、どうなるかわかっているのだろうな?」
「舐めんな。それくらいなら明日には全快だ」
「ならいい。36時間後、奴が覚醒した時。そこで………全面対決を挑む。冷凍弾は無い。冷却剤もほぼ底をついた。総力戦となる。お前、タキオンの武装は持ってきたのだろうな? ネイキッド状態で勝てる相手ではないぞ」
「ジャケットは無いけど、武器ならある。ただ、人使いの荒い指揮官にパシられたからな。推進剤が心配だ」
「ふん。………キャンプにあるものを持っていけ」
補給は協力してくれると。そうでなければな。俺のタキオンが飛べなければ、困るのはビーツだ。
「話はそれだけか? もう戻るぞ。今晩はよく眠れそうだ」
「ああ。………いや、待て。ひとつだけ聞かせろ。ハッキングを受けた際、お前………なにをした?」
「………」
「答えろ。これは命令だ」
命令か。急に上司ぶりやがって。
けど、ひとつわかったことがある。
やはりというか、当然というか。
「さっきも言ったとおり、奥の手って奴だよ。俺のタキオンは、そういうふうに出来てるんだ」
嘘は言っていない。
むしろ、そうなるように設計したひとが、タキオンを内部から守っていると再認識したくらいだ。
「俺のタキオンには無い機能か。現段階で、カイドウがそれを作った………と?」
「そんなところだよ。おやっさんの優秀さはお前もよく知ってるはずだ」
これは嘘。それを作ったのはカイドウではない。
「………わかった。もういい。戻れ」
「あいよ」
ビーツのキャンプから出る。
36時間もあるなら、整備はまだしなくてもいい。
脳内チップの回復を促すために、今は睡眠をとるべきだった。
ビーツとの会話でひとつ、わかったことがあるが、考察するのは明日にするとしよう。
この共同作戦も、36時間後には終わる。長かったなぁ。
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