共同作戦⑧
《ハルモニ! 敵はどこに侵入した!》
《現在様々なフィルターを突破しつつ、レイライトリアクターに干渉しようとしています》
《よりにもよってそこかよ!》
レイライトリアクター。つまりガリウスの心臓部。
これを失えば俺たちは終わりだ。戦力を失うに等しい。
《侵食率18パーセント》
《オンラインで侵食を、ハッキングを受けているならば方法はひとつだ! タキオンのハッチを開け! レイライトリアクターを強制停止させる!》
《待て! この外気に長時間晒されれば生命が維持できない! 不躾な声の主をこのまま迎撃するぞ!》
ビーツと意識で繋がった状態で、思考を共有しているゆえの討論。1秒もかかっていないやり取り。
《お前にハッキング対策や、専門用語が理解できるとは思っていない。今はただイメージし、意識して防壁をクリエイトしろ!》
癪なことだが、ビーツは俺のことをよくわかっている。
《お前はグラディオスに搭載されている高性能AIを持ち込んでいるんだろう? ならば迎撃はそれに任せて、お前は防御に徹すればいい!》
意識して防壁をクリエイト───実行できるだろうか。
だが、このまま傍観しているわけにもいかない。俺も侵入者を追って、レイライトリアクターへと向かった何者かを追う。
《これは………まるでウィルスだな》
《パソコンでいうやつのか?》
《それにも該当するのだろうが、平たく言えば人体を蝕む方のそれだ。病原菌を撒き散らして、イレギュラーを発生させまくっている。まずは………そのイレギュラーを消す!》
《元凶はどうする? 放置して好き勝手させるってのか?》
《それはそっちのAIに迎撃を任せておけばいい。俺は両方ともできるからな》
脳内チップの数の差か。それとも個人の能力の差。どっちもか。
俺は防衛。敵の侵入を防ぎ、イレギュラーを正す役目。いきなりそんな大役を押し付けられても、なにができるかはわからないが───待てよ?
もしかすると、イメージ次第ではできるのではないか?
俺は以前、意識をタキオンの内側へと潜行させたことがある。誘われたというのが正しい表現だろうが、似たようなものだ。
もしあれと同じ感覚で、タキオンを内側から掌握したのなら。すべてが俺の意のままとなるのではないのか?
やる価値はある。やる前から諦めるのは破滅も同じだ。
あの時の感覚を思い出す。
深く───より深く。
両足に錨を絡み付け、深海の底へと沈む───いや、底のない闇へと落下するイメージ。
意識が加速する。
最速の域に達し、タキオンの深層へと潜行する。
《お………おま………なに………》
ビーツの声を置き去りに、体内の時間さえも加速させ、深層へと潜り込む。
すぐに白い空間に、なにかが見えた。四角い升目がズラリと並んでいる空間。そして今、その半分が赤く染まっている。元は白いはずだったそれを侵しているのが侵入者か。
《もうこの領域に来るとハルモニは頼れない。俺自身がやるしかねぇ!》
侵入者の侵攻を食い止めつつ、本丸を叩く選択肢。脳内チップを介して命令を下すのではない。俺自身がタキオンの白血球となり、ウィルスを殺すのだ。
四角い升目に降り立つ。25メートルプールほどの大きさ。押し寄せる敵。
それがなんなのかは知らないが、ここは俺のイメージが具現化した領域。敵そのものに介入して、可視化する方が手っ取り早い。
可視化を施す。赤い升目と白い升目の境目で、それが揺れ動く。
刺々しい赤いマネキンが出現した。
《タキオンのなかに入り込もうとしたのはいいけど、こうなることは予想できなかったんだろうなぁ!》
躊躇うことはない。赤いマネキンに襲い掛かる。赤いマネキンも俺に応戦した。
こうすることで俺自身がシステムとなり、ハッキングに対抗する。
持てる技術を動員する。この数ヶ月、ただグラディオスが進化するのを見ているだけではなく、アーレスの地上訓練にも参加して鍛え直し、対人戦の格闘技術も学んだのだ。
初手、相手が正拳突きを繰り出す。俺も正拳突きの構え───からのフェイント。反転。身を低くして、後ろ回し蹴り。腹部にヒット。手応えはあるが、妙な感触だ。空気を入れたビニール袋を蹴っているような。
だが敵が大きく突き飛ばされると、白い升目が回復する。
要は陣取り合戦だ。敵が馬鹿正直で助かった。人間はいつでも狡賢い。俺もビーツもそう。
フェイントを混ぜて赤いマネキンを殴り、蹴り、突き飛ばす。
この一見するとただの攻撃でしかない足掻きも、システムとして作用する。
敵陣を一気に白く上書きする。
赤いマネキンを場外へと叩き出す勢いで攻撃すると、学習したのか敵もフェイントを交えた。
《くっ………》
組み手も経験した。ボクシングと柔術のような敵の効率的な制圧方法を組み合わせた、独自の体術。
だが、それさえもすぐに学習される。半端ない学習速度に焦りを覚えた。徐々に赤い升目も増えていく。
やがて中央まで俺が戻され、一歩だけ後退した時。勝てないかもしれないと不安を覚え、
「やれやれ───来客が多い日だ。覚醒の日は、まだ先だと思ったのだがね」
男の声がする。
そして、赤い升目が一瞬で消えた。
「こういう時もあろうと、ハッキングの対策はしてある。何者かは知らないが、私を作った私の理想たる機体を、おいそれと渡したりはしない。きみも戻るといい。エース」
最終防衛プログラムが働いたというのか。
この領域の住人が、眠りから一時的に覚めて守ってくれた。
できるなら感謝を述べたかったが、それを口にする前に俺の意識は深層の領域から追い出された。
「………ハッ」
《おい、お前! なにをして───なに? 敵が消えただと?》
時間にして一瞬だったに違いない。脳内チップでの会話よりも短い時間で、深層領域での攻防を完了させたのだ。
さらに敵はビーツのタキオンからも追い出されたようだ。俺とビーツが通信を繋いでいる脳内チップを介したというのか。………あのひとの人格と思想を移植された高性能AIは。
《おいお前。なにをした?》
《………奥の手ってやつだよ。それよりも、ハッキングを防いだならあの赤い奴をどうにかするべきだ! なにかないのか!?》
《むぅ………これだけは使いたくなかったのだがな。仕方あるまい。来い!》
なにか手段があるのだろう。キャンプまで呼び戻された。
キャンプではすでにビーツが漆黒のタキオンに搭乗していて、冷却剤とは異なるなにかを持たせていた。
「それは?」
脳内チップに負担をかけるべきではない。さっきの攻防戦で大半のキャパを失った。声で通信する。
『いいからお前はもう片方を持て。絶対に落とすなよ。これをクレーターへ撃ち込む!』
冷却剤とは違う別のなにか。冷えるもの。つまり………
「冷凍弾か」
『………極秘で製造していたのだがな。コストもかかる。まさか、これを使う羽目になろうとは』
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