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共同作戦⑦

「タンク1から4、出撃!」


 ビーツが叫ぶ。


「小此木、お前はこのキャンプにある冷却剤をタキオンで運べ!」


「しゃーねぇなあ!」


 認めてしまった以上、ビーツが指揮官だ。俺はそれに従い、輸送機から飛び出る。飛翔中は天井とタキオンが接続されている状態にあるが、地上で待機している今、それをする意味はない。輸送機の隣で片膝を突かせて待機させていた。


 ビーツとともに輸送機を飛び出る。


 俺はハルモニに命令して、タキオンを緊急始動させていた。飛び乗る頃にはレイライトリアクターの回転数も上昇している。スロットにインターフェースを挿入し、システムを起動した。


 一方でビーツは走って自分のキャンプへ戻る。


 監視カメラでは、クレーターの近くに待機させていたタンク車が、なにかをクレーターに向けて放流している。


 起動したタキオンは、ビーツが脳内チップに送信した機材の山のなかにある冷却剤の場所を示していた。トラックで運ぶほどの量をマニュピレーターで掴んで、飛翔する。


《こうなれば手段など選んではいられない! 一気に残存する海水を冷やす! 俺は開通させたトンネルを調べる。お前はクレーターの冷却を急げ!》


「おう!」


 懸架できるだけの量を運搬する。キャンプからそう離れていないクレーターへ飛翔。


 すぐにクレーターが見えた。


 ローマのすべてを覆い尽くすような大穴へ。


《冷却剤、投下!》


「そのまま投げるぞ!」


《構わん! やれ!》


 トラックの荷台ほどあるボンベをすべて穴のなかに落とす。


 日が暮れて闇夜に閉ざされているゆえ目視では確認できないが、タキオンのメインカメラを暗視モードに切り替えると、昼ように鮮明となる。


 泥が底に沈殿し、いくらか澄んでいた海水から、湯気のようなものが上がっていた。


 外気が氷点下ゆえ、水温が手で触れられるほどの温度に上昇したとしても、湯気は上がりやすい。


 水底の赤い光が、まるで心臓の鼓動のように明滅している。


 あれを黙らさなければ、第2ラウンドの始まりだ。


 冷却剤のボンベを投下すると、内容物が広がる。サーモグラフィーも重ねてかけると、急激に温度が下がり始める。


「クソ………まだ水底の温度が高い! 海水はまだか!」


《復旧作業中だ。………ああ、くそ! そういうとか! 奴め、地中から腕を伸ばしてトンネルを破壊しやがった! 土砂でトンネルが塞がっている! 今、掘削機を向かわせている!》


「あのドリルのことか! どこだ! 俺が運ぶ!」


《お前から見て4時の方向だ》


「………あれか!」


 戦車のようなキャタピラで走行する掘削機は、やはりというか低速だ。全長5メートルほどのそれが、それでも全速力なのだろうが、どうしてもちんたらと走っているように見えてしまう。


 タキオンを飛翔させ、掘削機の上で停止。両端を掴んで懸架する。冷却剤のボンベよりかは軽い。


《その機体は使い捨てだ。途中で壊れてしまおうが、トンネルを掘削できればいい。押し込め!》


「おう!」


 トンネルの出口側から掘削機を挿入する。キュラキュラとキャタピラが回転し、トンネルへと走っていく。


「トンネルが開通するまで、なにかできることはないか!?」


《もう一度冷却剤を運べ! 今度は水面ではなく、水底で作動させる! そのためのウェイトも付ける。それはこちらで準備するから一旦戻れ!》


「トンネルの開通予想時刻は?」


《おおよそ………3分だ》


「水温がまた上昇しかけてやがる。間に合うか」


《間に合わせたければ必死に飛べ!》


「もう飛んでる! そっちに戻るまで1分もかからない!」


 怒鳴り合いの報告。


 けど不思議と、連携は良い気がする。


 ビーツは脳内チップを2枚移植しているだけあって、マルチタスクに長けているし、なによりそのすべてに手抜かりがない。別の冷却剤のボンベには、すでにウェイトとなる───これは廃船の錨のようなものが括り付けられていた。確かにこれなら冷却剤を水底まで運べる。


「くっ………やっぱ重てぇな」


《慎重に運べ。冷却剤を無駄にするなよ!》


「わかってんよ!」


 リアルタイプのロボットとはいえ、大型輸送車だって運べるくらいの馬力はある。


 なるべく双方に負担をかけないよう脳内チップで計算し、ポジションを瞬時に割り出すと運搬を開始する。


 ウェイト付きの冷却剤のボンベを、初撃は投げ入れたが、今度はクレーターの赤い光目掛けてゆっくりと、慎重に投下した。


 錨によってボンベが沈んでいく。


 水底に到達した瞬間、冷却剤が散布される。


 熱を奪うも、それも一時的なものだ。


 やはり、大量の海水が必要だ。トンネルは高い位置にある。あれと同等の水位さえあれば、簡単には熱が伝わらない。


 アンノウンが海のなかで活動できない理由と同じだ。宇宙空間という極寒のなかで活動できる性質に対し、なぜ水中では不可能なのかといえば、やはり水があるからだろう。というのが考察勢の意見。水が熱を奪っていき、質量を維持できなくなる。一点を熱そうとしても海流によって阻まれる。


 一方でこのクレーターに臨時で作った水たまりは水流がない。そして供給源が破壊されれば、水も増えない。外が氷点下であろうと、水で閉ざされているため、水底でゆっくりとであるが熱を増やせるのだ。


「ビーツ!」


《破壊されたトンネルを掘削している! あと30………いや、20秒で開通させる!》


 ビーツも必死だ。


 20秒後、やっとトンネルが再開通して、海水の放出が開始される。水流によって押し戻された掘削機も落下しようとしていたが、落下の衝撃で爆発したり、熱量に直結しても面倒だ。出現した瞬間に掴んでクレーターの外に運んだ。


「よし! これでまた冷える………よな?」


《当面はな。だが解決したわけではない。あくまで対策を講じるまでの先延ばし処置───なにっ!?》


「ぐっ!?」


 俺とビーツは、同時に呻く。


 それは突然だった。


 俺は何回か経験しているが、ビーツにとっては初めてだったのだろう。




 何者かに、脳内チップに侵入されたのだ。




 そして、






《転生………生活ハ、楽シ、イ………カイ?》







 総毛立つほどの不快な機械音声が脳内に響き渡る。


 息を呑む。


 今、誰が、なにを言った?


《転生生活は楽しいかい? ………俺の聞き間違いか?》


「いや………俺も、そう聞こえた。送信場所は!?」


《お前の眼下………あの赤い物体だ》


「意思疎通ができるってのか………!?」


()()はいる。だが、()()とは違う………男でも女でもない、声………》


 俺とビーツが混乱するほどの異例の事態。


 ただの敵ではないことはわかっていたが、もうそれとは次元が違う。


 俺たちを正確に理解しての、発言。


 恐怖なんてものを通り越して、頭のなかかが白くなるくらいの驚愕。


 呼吸が震える。スロットルレバーを握る手も痺れる。顔に汗が滲む。どこか噛み切ったのではないかと思うくらい、酷く鉄の苦味を感じた。


「誰、だ………」


『警告! タキオンのシステムが干渉を受けています!』


「なんだと!?」


《こちらのタキオンにも侵入された! おい小此木! これを防ぐぞ! 敵の目的がなんなのかは知らないが、弾かなければタキオンになにをされるかわかったものではない!》


「くっ………!」


 俺はタキオンを最優先で地上に着地させ、ビーツとの連絡を繋げたまま、内部へと意識を潜入させた。


リアクションありがとうございます!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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