合同作戦③
美しい街並みは失われてしまった。それくらい覚悟はしていたけど、こんな酷い壊れ方をするとは思ってすらいなかった。
どこまでも続く奈落の底を思わせるような深いクレーター。山脈の山頂から見下ろしても底が見えない。
底から漂う廃退の匂いを具現化したような悲惨な光景。
「ハルモニ………仮にこれが、宇宙から飛来した隕石が衝突してできたものだとすれば、こんな感じになるのか?」
『あるいは、地下でなんらかの爆発が発生し、地表を消滅させたとも考えられます』
「さっきの声、記録したな?」
『イェス。我々に警戒を促している声音でした。しかし声紋を照合すると、因果関係が一致しません。メカニック・エースが懸念している部分を主幹として捉えると、なにもメリットがないからです』
「………だよなぁ」
一方的に脳内チップに侵入し、警戒を促したあの男の声。どう考えても知っているものだ。
けどハルモニの分析のとおり、俺はあいつへ最大限の警戒をしている。であるならば、俺を助けるなんて酔狂な真似は決してしないはずなのだ。
「………考えていても仕方ない。特務がなんなのかがわからない以上、ローマの現状を知ったなら、それを調査しろってことかもしれないしな。降りてみるか───」
『警告! 前方に熱源多数! 同時に記録にある熱紋も出現───いえ、出撃しました!』
「出撃!? 友軍機か?」
『不明。この機体は───』
ハルモニが告げる衝撃的な事実に、俺は息を呑んだ。
間違いない。酔狂な奴がここにいる。そしてあの機体に乗って、アンノウンと戦っている。
なぜ? これが特務というわけか? あいつがなぜここにいる? 特務となんら関係していない以上、このまま見殺しにするというのも手だが。
『警告! アンノウンCタイプ、こちらに接近!』
「くそ! 見殺しにしようにも、俺たちも丸裸じゃあっちにも気付かれるか! ハルモニ、タキオンで出る! レイライトリアクター緊急始動! 回転数を上げろ! 巻き込まれそうになったら輸送機を飛ばして後退!」
『了解。ご武運を』
操縦席から離れて後ろのブースへ。タラップから降ろされた、ワイヤーに繋げられたフックに足をかけ、上昇。数メートル上にあるタキオンのコクピットへ飛び移る。
シートに座ると同時にシートベルトで体を固定。宙吊り状態になりながらスロットへインターフェースを叩き込む。
コクピットのハッチが閉まるとタラップもパージ。システムが起動すると、事前にレイライトリアクターを始動させていた甲斐あって、すぐに動き出すことができた。
輸送機の上からタキオンが起き上がる。カバーを繋げるフックが外れ、陽光に灰色のタキオンが照らされる。
「ブラストオフッ!」
メインスラスターが火を噴く。
初動もなく飛び上がると、こちらに急接近していたアンノウンCタイプへ肉薄した。
ヒートナイフで迎撃。あれから4ヶ月。タキオンも改修してもらった。特にタイタンジャケットから得た戦闘データを基に、高熱に対する耐久値が向上し、短いリーチにより近接戦を余儀なくされるタキオンの表面上のダメージを緩和するコーティングが上塗りされている。
「ヒートチェンソー起動!」
『イェス。右腕兵装を換装します』
ヒートナイフは突くことに特化している。切断力もあるが、耐久性に劣る。多勢に無勢では3本しか腕部に収納できないストックでは間に合わない。よって切断力のあるチェンソーを採用。
ロングソードのビーム刃を参考にした、チェンソーのように回転する刃だ。リーチこそ変わらないが、切断力の向上によってタキオンの機動力を殺さずに敵を仕留めることができる。
なお、ヒートチェンソーは両腕に出せる。近接戦に特化した形態と言える。
空中を泳ぐように踊るタキオン。敵陣に飛び込むと、マニューバを殺すことなく、苛烈にして最速の軌道を描く。
そしてハルモニが感知した熱紋がいる領域へと飛び込んだのだ。
「ビーツッ!!」
『来たか、ゴミめ。ようこそ、原作にも外伝にもないイレギュラーな領域へ』
そこにいた漆黒のタキオン。
グラディオス級二番艦アリスランド所属。エースパイロットであるアークの機体を乗りこなす、俺と同じ境遇たる転生者。
ビーツ・クノが、タキオンに搭乗してアンノウンと戦闘を行なっていたのだ。
『やはりお前もタキオンに乗ったか』
「お前も乗れたんだな。いや、そんなことより、なんでお前がここにいる!」
『オルコットの豚から、なにも聞いていないのか? 遺憾ながらお前を呼ぶことになったんだ。俺の礎となれることを光栄に思えよ。………小此木』
また………あの時のは聞き間違いなんかじゃなかった。
ビーツは俺の前世を知っている。俺はこいつのことをなにも知らないというのに。
それはあとで聞くとして、今こいつ、なんて言った? オルコットだと?
「オルコットって………じゃあお前………この特務に関係してるってのか?」
『そう言ったはずだが? お前、文系のくせに文脈を読み取るのが下手なのか? 俺がお前を呼んだんだ。………本当は呼びたくもなかったがな。だが、そういうわけにもいかん』
「どういうことだ」
漆黒のタキオンと灰色のタキオンはすれ違う。交差して、互いの対面上の敵を叩く。
漆黒の、ビーツが乗るタキオンはロングソードを二振り携えていた。やはりわかっている。高機動を実現するタキオンは近接戦と射撃戦のどちらも得意としているが、やはり真価を発揮するのは接近戦であると。
それでいてビーツのタキオンは、一度に幾多ものアンノウンを切り倒すが、ロングソードの消耗を最低限にしている。まるでソータの技術を模しているようだ。
艦長職を鼻にかけ、女を侍らせて男を奴隷化する、踏ん反り返るだけの野郎かと思ったが、まさかパイロット職も可能にしていたとは。
『お前が請け負ったオルコットからの特務は、俺が発生させたものだ。俺がオルコットに依頼し、オルコットが発注した。計算どおりの時間に現れたのは褒めてやるが、予備知識を与えておくべきだったな。俺が出した先遣隊と同じ末路を辿るところだったぞ。まだ生きていることに感謝しろ』
「アリスランドの先遣隊とやらは全滅したと?」
『ああ。機体を無駄にした無能どもだったよ。ゆえに俺が出た。だがこのイレギュラーな事態を対処するには、もう1機欲しいところでな。お前を呼ぶことにした。これは原作に基づく諍いではない。───遺憾ながら、俺とお前が手を組み、対処するしかないようだ』
「俺がお前に協力するとでも?」
『勝手に判断しろ。だが………見ろ。この穴の底を。あの赤い光は徐々に増している。アンノウンもここを目指す。………俺にとっても想定外だ。なにが起こるかわからん。対処しなければ………ふふ。第13話が始まる頃には、地球が消滅し、グラディオスも無事では済まないかもしれないなぁ? お前の努力は水の泡だ』
「………チッ!」
舌打ちしながら、ビーツの口車に乗せられるしかないと、自分自身に言い聞かせるしかなかった。
ビーツの言うとおり、クレーターの底には赤く光るなにかがあり、禍々しいオーラのようななにかを放っていた。
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原作にはないオリジナルの展開の終盤に相応しい展開として、ライバルたるビーツと再会させてみました。次回からいよいよサブタイのとおりとなります。
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