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合同作戦①

 ローマへはサブフライトシステムとして、ガリウス専用の輸送機をドイツ支部から借りることができた。


 自動操縦で動く優れものだ。タキオンはその上に乗り、固定される。


 なんとも面白い仕組みだ。サブフライトシステムと称される輸送機の上に、ガリウスはうつ伏せになるのだ。輸送機内部の天井が開くとタラップが現れ、機体と接続。コクピットブロックのハッチが開くとそれを全面覆い、ドラム式のコクピットブロックであることを利用し、座席のみが降下。外を経由せずとも内部から機体に搭乗したり降りたりできるのだ。


 ちなみにこの輸送機は、上空に数日滞在できるよう、簡易的ではあるがライフラインが確保されている。


 ベルリンからローマまで、地上を走る輸送車なら時間がかかる。しかしフライトとなれば2、3時間で現着───するはずが、そう簡単にはいかないらしい。


 まず、バリアの外に出れば危険地帯だ。アンノウンがいつどこで現れるかもわからない。


 直線で進めばオーストリアがあるが、3年前にアンノウンによって落とされ、難民を多く出した。それからアンノウンが頻繁に現れるようになったという。


 請け負った特務はアンノウン撃破が目的ではない。必要とされていない戦闘は避けたい。ゆえに、近年になって敵が多く発見されていない地帯を通る必要がある。要するに大きく迂回するのだ。


 海に落ちるのは避けたい。陸地を進むしかない。よって一旦ポーランドに飛び、スロバキア、ハンガリーなどを経由しなければならない。


 燃料の問題から、ハンガリー支部に立ち寄り給油する必要があるが、すでに連絡してくれているとのこと。


 現地に到着するまで2日を要する。現着してからも特務とやらにどれだけ時間を割くのかはわからないが、1週間もかかることはないだろう。


 大きく見積もって、移動と特務で1週間。これがクランドの予想だった。


 たったひとりでこなさなければならない特務。


 いったい、なにが待ち受けているやら。


「エース! 準備できたぞぉ!」


「今行きます! じゃ、みんな。少しの間お別れだけど、ちゃんとシドウ隊長の言うことを聞くんだぞ。お土産は………持って帰れるかわからないけど、ちゃんと帰ってくるからな」


 ひとりひとりの頭を撫でて、つい勢いでシドウの頭を撫でそうになって、苦笑しながら手を払われる。


 ハンガーの外部へ直接出られる隔壁が開いていて、そこから運び出されたタキオンは、輸送機に積まれて接続がすでに完了していた。


「エース。あの輸送機にハルモニを積んでおいた。これでお前が直接操縦する必要はねぇ。全部ハルモニがやる。なんかあったらハルモニに言えばいい」


「助かります。いやぁ、実は俺が全部やらないといけないのかなぁって思うと不安で不安で」


「馬っ鹿野郎ぉ。テメェみてぇな、ただでさえもなんかあったら輸送機で特攻しそうな野郎に、ドイツ支部の貴重な輸送機を任せられるかってんだ。………あと、お前………あんまここの連中以外に感情移入するんじゃねえぞ?」


「はい? どういうことですか?」


「このドイツ支部が特別なんだ。降りたてたのがここで運が良かったぜ。他の支部も変わらず最前線なんだろうがよ。やっぱ………戦力差ってのがある。守り切れる人員、物資、土地。お前、これから他の支部も見るんだし、その時になにか言われるかもしれねぇ。同情して、なんかくれてやれば最後だ。根こそぎ奪われるかもしれねぇ。脅されても屈するな。なんなら、そういう時こそオルコットとかいう奴の名前でも出して、ビビらせておけ。オルコットが黙ってないぞ、とかな」


「言いたいことはわかりますし、それが正解なんでしょうけど………オルコットとかいうひとが怒りませんかね?」


「はっ。オルコットとかいう野郎がお前に寄越した特務だろうが。脅すんなら特務を妨害したってことだろ。なんの間違いもねぇや。そこは安心しておけばいい」


 世界は未だアンノウンの脅威のなかにいて、人々が日々殺されていく。


 そんななかで、誰しもが優位に立ちたい、生き残りたいと願うのは当然だ。


 ドイツ支部が優れていたのは、外界からバリアで閉ざしていながらも、文化を保ち、多くの生産性と経済力を保っていたこと。それゆえにバリアの内側で商売、ひいては労働とそれによる対価が成立するのだ。窮困しているバリアのなかでは、それができないかもしれない。


 ゆえにカイドウは警戒を促した。付け入る連中がいるかもしれないと。


「じゃ、行ってきます」


「おう。気をつけてな」


 輸送機はグラディオスの外にある。隔壁に設置されたタラップを降りてアスファルトを踏み締め、輸送機に搭乗。


「ハルモニ。ドイツ支部の誘導に従って滑走路へ」


『イェス。メカニック・エース』


 数分で許可が降りて、輸送機がハルモニの操縦で動き出す。


 俺は操縦席に座り、シートベルトをつけた。


『メカニック・エース。右をご覧ください』


「右? あ───」


 滑走路のサイドに、グラディオスのクルーが大勢立っていた。パイロットはもちろん、砲雷科をはじめとしたすべてのセクション。クランドまで立っている。あとついでにシーナも。


 そして、全員が敬礼して俺を見送ってくれた。


 窓から俺も敬礼する。見えているだろうか。


 加速する輸送機が離陸し、一部解除されたバリアの外へ。ポーランドへ向ける。外部カメラに接続すると、もうドイツ支部が小さくなるくらい離れていた。


「………これで、しばらくはひとりか」


 誰の声も聞こえない。静かとは言い難いが、それでも孤独を感じる空間に、ひとりだけ取り残されたような寂しさを覚えた。






 かなり遠回りをしたのだろう。夜になって、やっとハンガリー支部へと到着した。


 操縦席に戻って、窓から外を見る。ハンガリー支部はドイツ支部と比べると、やはりバリアの範囲が狭い。


 ハルモニの操縦で確実にランディングギアを滑走路に擦り付けるのだが、なんというか、設備が悪いのか、振動がやけに目立つ。


 まるで悪路にやむない緊急着陸したかのような揺れに、変な声が出た。


「お疲れ様です。エース副隊長。お話は伺っております。早速給油を開始します」


「お疲れ様です。お願いします」


 ハンガリー支部には、給油のために立ち寄るだけだ。わざわざ降りていくこともない。………と思われたのだが、予定よりも多い人員が揃っていたため、気になって降りてみれば、早速捕まって敬礼をされた。


「私はこの支部を預かる、アンドリュー・ネッガーと申します」


「グラディオス所属、ミチザネ隊副隊長。エース・ノギです」


 握手を求められたので返す。白人の大きな手が俺の右手を握った途端、その表情がビクッと動いた。


 当然だ。人工皮膚に覆われているが、保温機能は切っている。冷たくて硬い鋼鉄の感触がすれば、誰だって驚く。人間ではないと。


「エース副隊長。機体の整備はいかがですかな?」


 それでもアンドリュー支部長は持ち直し、強引に引き攣った笑顔を浮かべた。


 同時に、カイドウが言っていたことも理解できた。


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この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

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