オルコットの特務
クランドとカイドウは、俺が特務をこうも快諾するとは思っていなかったのだろう。
承諾後、つつがなく特務へ向けた準備を始めるふたり。しかしその表情はどこか暗く、とてもではないがふたりの方が納得できていないように見えた。
無論、俺だってすべてを呑み込んで、軍人としての責務を果たそうというスタンスではない。
どうにも胸騒ぎがするのだ。
宇宙から見えたローマ辺りの赤い光。原作にはない展開。
これまで俺が行った、原作破壊行為によるものだとすれば、俺が調べて、異変があれば解決に導くのが筋というものだ。解決できるかどうかは、わからないが。
艦長室を出てハンガーへ向かう。あれから4ヶ月もすれば、最初は足の踏み場さえ無くて危うかった散らかっていた空間もすっきりと整頓されている。
一号機から八号機まで、改造された内部フレームが完成しており、あとは装甲を取り付けたり、実証実験をするだけだ。
「エー先輩。艦長に呼ばれたって聞いたけど、どうかしたの?」
六号機の調整を手伝っていたヒナが、俺を発見して降りてくる。
「本部からの通達。俺宛に特務だってさ」
「特務だと!?」
血相を変えて駆け寄るシドウ。ソータとアイリ。
「ありえん。特務はグラディオス全体に発注されるならともかく、個人宛てなど………ましてや、俺宛てならわかるが、お前はまだ軍属になって半年ほどだろうに。本部はいったい、なにを考えているんだ!」
激昂するシドウ。
経験が豊富な軍人にしか与えられない任務が、俺のような半人前に渡ることについて───ではなく、そんな危険を伴う任務を与えるオルコットへ激怒していた。
「まぁ、こいつの脳内チップについての有用性が、やっと認められて、試験的なものをやらせる………くらいだと思うがなぁ」
「まさか、親父は納得しているのか?」
「馬鹿言え。俺だって上層部の豚どもがいれば、一発ぶん殴ってやりてぇよ。特務をガキなんざに与えるなってよ」
遅れてハンガーに入ったカイドウの言動にムッとしたシドウが詰問するも、やはりカイドウも気に食わなかったらしい。
ここにいるクルー全員、子供たちを戦場で歩かせたくないから軍に志願したのだ。それがいつしか、主力が逆転してしまい、葛藤する日々が続いて悶々としていた。
「ま、とにかくそんな気負うなや。特務にゃお前しか行けねえが、ドイツ支部の機材を借りれば通信はできらぁ。こっちは常にお前の場所を把握してる。なにかあったら、シドウが飛んで行くだろうがな」
「当然だ。実証実験を兼ねて、迎えに行くさ」
「だとよ。とにかく万全を期して、出発するこった。特務は請け負った瞬間から始まる。準備に20分ほどかかるから、その間に仲間に挨拶して来い」
「わかりました。お願いします。行こう。みんな」
たった20分しかないのでは、愛による蹂躙はお預けだ。それはそれで、気合いが保てるからいいけど。
シドウが端末を使ってパイロットたちに招集をかける。ユリンたちを呼ぶと、わりと近くにいたのか、飛ぶくらいの勢いでハンガーに集まった。3分もかかってない。
「エー先輩、特務ってどういうことですか!?」
「ちょっとぉ! そんなの聞いてないわよお!」
俺にキスする勢いで詰めてくるシェリーとユリン。人目の多い場所でやらかすのは俺が恥ずかしいので、ふたりの肩を掴んで距離を保った。
「特務とはなにをするんだ?」
「ん? どうした、コウ。いつもより顔が赤いぞ」
「い、いや………俺のことはいい。気にしないでくれ。それより質問に答えてくれないか? エー先輩」
髪だっていつもよりボサボサのコウは、頬を赤らめながら、俺と視線を合わせようとしない。
なにかあったな。すっげぇ気になる。
「俺もよくわかってない。ローマに行くことになったくらいしか、情報が開示されていないんだ」
「っだそりゃあ。それ、どこのお偉豚の指示っすか?」
「オルコットってひと。知ってるか?」
歯噛みするハーモンに尋ねる。
ハーモンは代々、優秀な軍人を輩出した名家の出で、サフラビオロスに逃亡して自由を得た結果、皮肉にも巻き込まれた戦争で名を挙げてしまった。先月、親から呼び出しがあったとか。戻ってきていいとか言われたみたいだけど、途中で通話を切ったと聞いて笑ったら喜ばれた。
そんな経緯のあるハーモンなら、軍部の情報に少しは聞き覚えがあるかと考えたのだ。
「オルコットっすか………あー、ライネル・オルコットとかいう豚みてぇなおっさんなら知ってるっすよ。チッ。やっぱあいつ、本部のお偉豚になってやがったか」
「嫌いなのか?」
「なんつーか、デクスター家よか立場は上なんすけどね。でも過去に家柄の絡みでバッチバチにやり合ったとか。オルコット家は許すなってのが、デクスター家の家訓だったんすよ。実際、一番上のクソ兄貴が、ライネルの豚に噛み付いたんすけど、あと一歩及ばなくて、ザマァだったんすけどね」
「ふーん………」
派閥争いというやつか。こういうのは、どこにでもあるよな。
「先月のクソジジィの通話に、オルコットがなんか企んでるから潰すの手伝えとかほざいてたんすけど、なんか関係あるんすかね?」
「あるかもしれないし、無いかもしれない。ともかく、タキオンならなんとかなるだろ。教えてくれてありがとよ。マジで助かった」
「うす!」
ハーモンにとって、デクスター家もオルコット家もしがらみもない希薄な存在になったらしい。潰し合えばいいでも思っているのだろう。ゆえに両家の情報を惜しみなく横流ししてくれた。本当に忠犬。頭を撫でると大型犬みたく喜ぶ。
「エー先輩。俺もこっそりついて行こうか?」
ソータが言う。
「やめときな。なんか面倒なことになりそうだし………それに、2週間前のこと、忘れたわけじゃないだろ?」
「それは………そうだけど」
「グラディオスにソータたちがいるから、俺は安心してここを任せられるんだ。ひとりでも欠ければ不安で仕方ないよ。通信はできるみたいだし、有事の際に駆けつけてくれれば、それでいい。な?」
「うん………わかった」
唇を尖らせるソータ。こんなの見たらシーナが喜んだ末に発狂しそう。
不安というのは、俺たちがここに滞在してから発生したアンノウンとの戦闘だ。グラディオスは動けず、艦載機もろくに動けない。よって地上戦を可能な装備に換装した九から十三号機の5機とタキオンで防衛に加担した。パイロットはローテーションで回す。
だが最近になって、FタイプとGタイプの出現が増えた。ドイツ支部のパイロットも死傷者が出た。そこなかに、シュナイツがいた。重傷だった。命は取り留めたが、パイロットを引退するしかなくなった。
そこで、空きがあった指揮官に就任。ちなみに、最初の合同演習という名の模擬戦において、たった1機に差をつけられて大敗を喫した責任をとらされて、支部長の思惑どおり前任の指揮官含む過激派が支部から追放された。他にも罪状があったから可能とした追放だったな。
ドイツ支部も被害が出た。タキオンでもカバーできなかったが、いよいよソータたちも急拵えの間に合わせの機体を降りて、愛機に戻るのだ。それこそ、俺が安心できることだった。
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次回よりこの第12.5話の本番が始まります。書きたかったのはここからなのです。
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