AとC⑥
「ぶぁぁあああああああああ………!」
やっと終わったしごきに耐えられず、シーナは四つん這いになりながら俺の前に来て、ついに力尽きて倒れた。
「お、おかしぃ………なんで………ハート◯ン軍曹みたいな言動なのにちょっと丁寧で………しかも微笑みデブみたいな体型なのに………アンバランスだろ………」
「言っておくけどあのひと、首から下はT-800と同じだからな?」
「なんでシュワルツ◯ネッガーなんだよぉぉおおお世界が混在してるぅぅううう!」
シーナがここまで取り乱すのには理由がある。
アーレスは原作に登場しなかった。俺もこのひとが砲雷長だって知ったのは第1クールの後半頃からだもんな。
「で? クルーにはなれそうか?」
「吐きそう………マジきつい。10代の体になれてラッキーって思ってたのに………え、あんたこれできるの?」
「もちろん。タキオンのパイロットになるために鍛えたんだ。アーレスさんのこの訓練で生き残って、笑えたら一人前だ。さ、スマァイル」
「………イラッとした。ブチコロス」
「ダメだこりゃ」
まともに立てることができない状態で、笑うことはできなくとも、一丁前に殺意を込めることができるなら、見込みはある。………とはすぐには言わない。調子に乗せないためだ。
初心を忘れず。向上心を忘れず。俺への反省を促し………これは違うか。
「………あー。マジきつい。こんなのが採用試験の合否に繋がるの?」
「それはまだわからない。でも、今日だけでお前は砲雷長のアーレスさんに、顔と名前は覚えてもらえたぞ。印象には残ったんじゃないか?」
「そういう意味じゃ、砲雷科に名前を覚えてもらえたってわけか。………おっ」
俺が座るベンチの前で仰臥するシーナは、ふと顔を上げる。
「おーい。エー先輩! シーナ!」
「んっふ………ハーモンきゅんだ」
「うわ、相変わらずキメェ顔」
「黙れモブオス」
遠くから駆け寄って手を振るハーモンの姿を見た途端、シーナは死ぬ間際みたいな顔をしていたのに、一瞬で元通りになりやがった。女ってやっぱりすごい。怖い。
「おう。どうしたハーモン」
「うす。艦長がなんか話があるとかで、呼んでるっすよ。それよりエー先輩。痛くねぇんすか?」
「結構痛い」
感想を素直に言葉にしたら、シーナに脛辺りを連続で殴られた。
飼い主に構ってもらうためにじゃれ付く猫のよう。だからこいつ、周囲から人間ではなく、人形扱いされるんだな。
「いったいなんたって………通信機使えば済む話なのにな。直接呼び出すにもさ」
「さ、さぁ。そればかりは、俺もわかんねぇっす。カイドウさんに伝言頼まれただけですし」
「おやっさんから? ふーん。まあいいや。行ってくるか。ハーモン、シーナ頼む。適当に話し相手になってやってくれ」
「うげ」
「やるじゃんモブオス! さ、ハーモンきゅん! 今日も楽しくお話ししようねぇえ!」
「うわ………コウの野郎に、また押し付けてやろうかな」
「それも最高!」
あれから3ヶ月も経てば、シーナはパイロットたちと交流ができる。仲良くなった………とは言えないとしても。
ハーモンはシーナを全力で警戒していた。危険勢力ではないにせよ、言動の怪しさと、舐め回すような視線に危機感を覚えたらしい。
そんなハーモンの回避技として、シーナの最推したるコウに会わせて押し付けること。コウもハーモンと似たような反応を示していたが、最近になってわかったことなのだけど、なんか段々とまんざらでもなくなっているような感じがするんだよな。
シーナは荷物のようにハーモンに担がれて運ばれていく。
俺はそれを見送って、グラディオスへと戻った。
第12話で破壊された箇所も直っている。展望デッキも以前と変わらぬ姿に戻ってくれて一安心だ。
様々な通路を使って、艦長室へと赴く。
「エース・ノギです。艦長、お呼びでしょうか?」
「………入りたまえ」
「失礼します」
やはりクランドは艦長室にいた。緊張を帯びる声。気が引き締まる。なにかあったのは確実だ。
艦長室には先客がいた。カイドウだ。
「エース・ノギ、到着しました」
「ご苦労。かけたまえ」
「失礼します」
クランドがいつも使用するデスクの前に置かれたパイプ椅子のひとつに腰を下ろす。カイドウの隣だ。
「今回、きみを招集したのは他でもない。………特務だ」
「特務? え、俺にですか!? シドウ隊長ではなく!?」
「そうだ。連合軍の本部にはオルコットという男がいる。かなりの権力を持つ厄介な奴だ。そのオルコットが、きみを指名して任務に充てようとしているのだ。まずは………これを見たまえ」
オルコット───そんなキャラクターは知らない。本編には出なかったか?
つまり連合軍の重鎮が、俺を指名して面倒くさい任務にあてがおうとしているのだ。
「通達があったのは今より1時間前。任務の具体は知らされていないが、指定された時間まで、目的地へ向かうようにとのこと」
「………これ………ローマですか?」
「そうだ。イタリア支部跡地。ここへ向かえとのことだ」
クランドがパソコンで表示した世界地図には、ふたつのマーカーが打たれている。
ひとつは現在、俺たちがいるドイツ支部。
もうひとつは壊滅して、放棄されたせいで機能や文化が失われたローマ支部跡地。
「なんで俺なんかが………特務ならシドウ隊長の方が成功率が高いでしょうにね」
「俺らも同意見よ。お前は優秀っちゃ優秀だが、新兵には違ぇねぇ。いくらインターフェースと脳内チップを有してるからって、こんなの無茶すぎるぜ」
カイドウはオルコットなる人物に、かなり腹を立てていた。
と、そこで───とある記憶が蘇る。
あれはいつだったか。
そう。第12話だ。宇宙から見た地球。最終決戦前に俺は、廃コロニーから地球を見た。
すると、目にした場所で、赤い光が明滅していたのだった。
それがローマ支部跡地であるなら───
「わかりました。行きます。俺もちょっと、気になることがあるので」
「無茶は禁物だぞ。危険だと判断したらすぐに引き返せ。失敗しようが、私がフォローする。カイドウ、タキオンの準備だ。タキオンならば移動に難はあるまい」
「了解だ。サブフライトシステムも付けてやる。………生きて戻れよ。エース」
あの光がどうにも気になって、オルコットのことなどすっかり頭から抜けて、俺は任務を承諾した。
この承諾で、俺の運命が、また大きく変わることなると知らずに。
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