AとC ⑤
常軌を逸する、スライディングタックル。
中堅の壁は削り取り、現在敵軍の防衛ラインを支えているのは残存している数機の中堅パイロットと、多くの新人パイロット。その後ろにシュナイツらベテランパイロット勢がいた。
タキオンは一度戦線から離脱し、戦闘領域の許容されるラインギリギリまで迫ると、急制動をかけて、再加速。吐き気がするほどのG。それでもシュナイツの驚く声が聞きたくて、度肝を抜いてやりたくて、意地でも意識を維持する。
タキオンの最高加速とは言えないが、長距離の低空飛行により推力を得て、灰色の弾丸となった機体は、より低空からふたつの層を成している敵軍の前衛、新人パイロット勢らの足元から弾き飛ばす勢いで、スライディングしながら推進した。
『う、うわぁああああああああああ!!』
突然の奇襲により、意識していなかった足元からの衝撃、あるいは衝撃波に当てられたガリウスFは、多くが姿勢制御できず後ろにつんのめったり、何機もが積み重なって倒れていく。
『な………馬鹿な! エースのガリウスは、そんな人間のような動きができるのか!?』
シュナイツが驚愕する。それが聞きたかった。
そして、その意見も合っている。
ガリウスFは稼働も優秀で、名を挙げたエースパイロットの行動パターンをインプットすることで、同じ動作を可能としたりできるのだが───やはり関節周りが硬いのだ。
量産機ゆえ、互換性があり、かつ安価なパーツで構成される関節部だが、急激な動きだったり、無理に広げたり負荷をかけ過ぎると摩耗が早くなったり、そしてなにより可動域の狭さに、俺は問題があると見ていた。
ガリウスFは人間で言えば肘が90度しか曲がらないし、膝もそれくらいしか動かないから正座ができない。………巨大ロボットで正座をする意味など一切皆無なのだが。
なんていうか、平成の時代に生産されていた有名なロボットアニメのプラモデルがそうだった気がする。平成終盤、令和初期からは企業努力により素晴らしい発展を遂げたが。
ガリウスFはまさに発展途上のプラモデルのそれ。腰に関節機構がないから表情のあるポージングができないんだよな。
比較してタキオンの関節部は特注性だから摩耗に強いし、柔軟で可動域も広い。だからって無限に使えるというわけではない。第12話の終盤で、大気圏突入時に陽電子砲を抱えてEタイプを狙撃し、強引に着艦した際に負った合計ダメージは予想を遥かに上回り、膝と肘だけでなく様々なところを交換せざるを得なかった。
『なぁにやってんだぁエースこらこの野郎っ! スライディングなんざしてんじゃねぇぞテメェ!』
ほらね。無茶したら大型輸送車両に乗っていたカイドウが怒号を放った。
「相手を直接蹴ったわけじゃないし、地面に接触するギリギリのところを飛んだんだから、直接触れてないですよ。勘弁してくださいって」
『んな低空飛行なんざしたら、巻き上げた小石で無数の傷が付くだろうがぁ! テメェのそのタキオンなぁ、今日のために俺らが丹精込めてピカピカに磨き上げた装甲をしてるってのに、なんて真似してくれやがる!』
こういうところが細かいんだからなぁ。というか、戦況の心配より機体のダメージの心配か。グラディオスの威信がかかっているというのにな。
まぁ、奇襲はこれで終わりだ。敵陣中央を横断して、新人とベテランを分断する。
そうすると、シュナイツもすぐに立て直しを計るのだが───隠し切れていない部分が露呈する。
「フラッグ見ぃっけ」
模擬戦は敵を全滅させるのではなく、旗機を落とせば勝利なのだ。旗機は誰なのかは相手に明かされてはいない。
そうなると、俺らの孤立したフラッグ機は自然と防衛行動に出るが、味方機が密集したドイツ支部の軍勢の一部は、フラッグ機を防衛しようと、ほぼ無意識で俺を警戒する。それも足並み揃えて盾を構え、中央にいるシュナイツ機を守っているのだから「こいつがうちの旗機でーす」と言っているようなものだ。
タキオンは跳躍する。重力の足枷を感じさせない上昇。けどコクピット内にかかるGは凄まじい。
「いただきっ」
「あ………しまった。露骨だったか」
上空からの狙撃でシュナイツのガリウスFの顔をペイント弾で彩る。
正直、残弾が1桁になっていたから危うかった。左腕には延長マガジンが飛び出ていたから、通常よりも多く搭載しているとはいえ、やはり100機近くを単独で撃破するには無茶があった。
『………こちらのフラッグ機が撃墜されました。残存兵力、おおよそ50パーセント。対するグラディオスは0パーセント。………お見事です。エース副隊長』
『くそぉぉぉおおおおああああああああああああ!!』
オペレーターの沈んだ声音で勝敗が告げられ、指揮官の嘆きが聞こえた。それが福音にも聞こえてしまい、俺は薄く笑うのだった。
3ヶ月が経過した。
もう4ヶ月目。残り2ヶ月。
冬の寒さも厳しくなるが、もうその頃になれば環境に適応して、誰も風邪をひくことはなかった。子供は風の子とは言うが、まさにそのとおり。
調子に乗ったハーモンとコウが半裸になって豪雪のなかを歩き回って、支部の同年代の連中と耐久レースをした時は、支部長とクランドに即呼び出されて怒られていた。俺も止めなかった件で怒られた。これじゃ副隊長というより学級委員長だ。
俺も3ヶ月目にして風邪をひいた。ヒナたちの甲斐甲斐しい世話を受けて最短で復帰。
そして今。年を越えて、春を迎えようとしているこの時。オードリアインジェクション社から買い取ったパーツで、ガリウスGの改造された姿が、くっくりとしてきた頃。
ついに、この噂が出回る。
グラディオスがドイツ支部から、優秀な人材を抜擢してクルーとして迎えると。それ以外は試験を受けて適正を計るとか。
そしてその試験のひとつ。フィジカル面において、若干の不安があったシーナは、俺を頼ってきたので、特別に口利きしてグラディオスクルーの訓練に参加させてやったのだ。
「きみたちは人間ではない! アンノウンを倒すためのマシーンだ! さぁなにをしているのだね、エースくんの推薦を受けたというシーナさん! 周回遅れなど恥を知りたまえ恥を! きみが私の訓練に生き残れたその時、きみは映えある兵器となるだろう! エースくんと同じく戦闘に特化した、聖職に殉じる素晴らしい存在だ! それまできみはうじ虫にも劣るゴミクズそのもの! 地球のカースト最下等のゴミだ! さぁ声を出して足掻きたまえ! 雌豚のゴミクズ!」
「あ、ばぁ、がっ、ひ………あぎ、にゃ………」
「それで声を出しているつもりかね? 雌猫の方がもっとマシに鳴くよ!」
「ぇべ………ぁ………」
「まだ1000周目ではないか! このままでは日が暮れてしまうよ雌豚ゴミクズ虫さん!」
鬼軍曹、再び。
特殊部隊に所属していた経歴を持つアーレスの、砲雷科たちの特殊な訓練に、シーナをぶち込んでみた。
案の定、死にかけてた。最初の頃の俺みたい。
けどね、別に………仕返しとかじゃないんだよ?
俺はいつまでも根に持つタイプじゃない。わかるね? シーナさんよぅ。
次回は21時頃に更新します! 少し遅れてしまったら申し訳ありません。
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