合同演習③
ドルテ支部長を排斥したいであろう一派に所属する、今回の模擬戦の指揮官は、本来なら優秀な男なのだろう。
だがタキオンを見て逸るあまり、結果を出そうと焦り、士気が低下しようと確実性のある、しかし実戦であれば甚大な被害が出てしまう作戦を強行しようとした。
フレンドリーファイアしてでも俺を仕留めるつもりだ。だがその指示のなかにひとつだけ、俺にとってよろしくない内容があった。フラッグだ。大半が俺を見ているが、なかにはアイリを見ている機体もある。こちらのフラッグの直掩は俺だけだ。つまり俺を抜けばアイリが撃たれてしまう。
それはよろしくない。なんのために俺に注目を集めたと思っている。
案の定、左から2機が飛び出る。フレンドリーファイアを避けたいと思ったのだろう。タイミングとしては最適だ。俺がより深く踏み入った途端に抜かれた。
だがそれは、俺が乗っている機体が通常機だった場合に限る有効手段である。
「ぐっ!」
スラスターを逆噴射。猛烈な加速で後退。
防衛線を抜けた2機に追いつく。2機からすれば、横からいきなりタキオンが現れたため驚いたことだろう。ビクッと身動ぎし、応戦すべく姿勢制御に徹し、
「遅ぇ!」
その一瞬のラグが命取りだ。
2機のガリウスFの間を抜ける時にヒートナイフで脇腹にヒット。
『2機ヒット。ドイツ支部、残存兵力90パーセントに低下!』
『な、なにをやっているお前ら! 遊んでいる場合か!』
まだ90パーセントか。とげんなりしていると、思わず小笑を浮かべてしまうような、相手指揮官の焦った声が響く。それが逆に俺のモチベーション維持に繋がるとも知らずに、勝手に狼狽してくれるんだもんな。
2機を倒すと、また敵陣へ突入。ヒートナイフを乱舞させ、ペイント弾を単発で着実にヒットさせる。
『残存兵力80パーセントまで低下!』
『いいから包囲しろ! 圧殺するんだ! その機体は普通ではない! 新型のアンノウンを相手にしているつもりで戦え!』
いいねぇ指揮官殿。その調子で、友軍の士気を下げて、フォーメーションを崩し、俺がやり易い形にしてくれよ。
と、その時だった。
ガリウスF部隊の前衛は中堅で固めたのだろう。ある程度の手応えがある相手が揃っていて、全滅する前に急にフォーメーションが変わった。
やはり相手も一筋縄ではいかないよな。なんたって、ドイツの土地を守った守護神たちが揃っている。愚鈍な指揮官の命令を無視して、独自に動き始めた。
中央で俺を堰き止め、両サイドからアイリに仕掛けるツープラトンアタック。
「ゔっ………!」
呼吸が詰まりそうになるくらいの急加速。逆噴射。再び中央から脱して、今度は右サイドに向かいながら、ノールックでヘビィガンを発砲し左翼を潰す。右翼もヒートナイフで瞬時に倒した。
「急に冴えてきたな。………やりますねぇ、シュナイツさん! いきなりやる気出してくるとか、聞いてませんよ」
『我が軍は、友軍を決して見捨てない。劣勢に陥ることがあってもフォーメーションだけは維持し、戦術において敵を凌駕する。それが基本だ。しかし聞いていないといえば、エースの機体のことも一切知らされていなかったしな。これでドローというのはどうだ?』
オープンチャンネルで会話を持ちかけると、シュナイツも応じてくれた。
やはり戦況を変えたのはシュナイツだったか。指揮官がギャーギャーと騒いでいるが、無視している。きっと支部長が指揮官が関わる一派を排除する任務を俺たちに極秘で依頼したのだと教えただけあって、懲罰などあとで有耶無耶にできると判断し、歓談してくれたのだろう。
「これだけの戦力差があってドローですか。キツイですよ」
『だが、お前のその機体は普通ではない。見たことがないし、データにもない。噂に名高い第七世代という奴でもないのだろう? その動きもそうだ。まるで操縦しているとは思えないからな』
当たり。タキオンは操縦桿を握ったり、ペダルを踏む必要がない、神経接続型のオリジナルガリウス。
それが相手の軍勢との差になった。
そもそも、エングレルファクトリー社で職人たちが作り上げたとされるガリウスFだが、優秀なことは優秀なのだ。シドウも愛用した。だが所詮は量産機。限界がある。なによりパイロットが操縦桿を操り、スロットルレバーを絞り、ペダルを踏む時点でタキオンに追いつけない。
先程、飛び出た2機のパイロットは優秀だった。だが優秀なだけだ。タキオンの出撃に迅速に反応したが、それだけだ。進行、停止、迎撃。少なくとも3つのアクションを必要とされる。コンマのロスが出る。
だがタキオンに、それはない。神経接続型の醍醐味とも言えるべき、円滑な操縦を可能にしている。判断すると同時に機体が動く。ほぼ同時では遅いのだ。
「そこまで言われちゃね。じゃあドローでいいですよ。こっちも遠慮はしませんし」
『いいだろう。受けて立つ!』
飽和攻撃と奇襲、別働隊が円滑に動き出す。愚策な指揮官とは違い、友軍を犠牲にしない、射線軸を常に空ける指揮能力に舌を巻く。
弾幕も厚くなった。一斉放射の壁に、間隙を見出せなくなる。
かといって、それだけ見ていてはアイリの防衛が手薄になる。せめてハーモンかコウ、ユリンがいてほしかったところだ。ソータでは………相手が瞬殺だろうからな。
タキオンもハイマニューバを使わざるを得なくなる。
「すごいな………パイロットじゃなくて、指揮官になったらどうですか?」
『パイロットを引退したら、そうするさ!』
もう単純な暴力だけでは、敵の巨城を崩せなくなる。
こちらもペイント弾を撃っているが、被弾率が下がっている。敵軍が持ち込んだシールドが密集しているのだ。その遮蔽物から正確な射撃をされているため、どうにもやりにくい。
『動きが衰えているな。なるほど。その機体は凄まじいが、パイロットが消耗してしまえば意味がないのか』
「くっ………悔しいけど、そのとおりですね。でも、だからって………負けるつもりはないですよ」
今度は俺が劣勢になる。別働隊の迎撃をするために、どうしても後退しなければならない。その隙にシュナイツが友軍を進めていて、こちらの防衛ラインがどうしても下がってしまうのだ。
そして長時間のハイマニューバに耐えられる体をしていない俺。地球の重力というものが、どうしても足枷に思えてならない。推進剤を無駄に捨てているようなものだ。脳内チップのキャパも著しく消耗している。
『では、どうやって我が堅牢な壁を越えるんだ?』
「越える必要はない。………アイリ! ビームシールド展開! 30秒もたせろ! 敵軍の気勢を削ぐ!」
『は、はい!』
ガリウスFのペイント弾がアイリの臨時搭乗機たる九号機にも届いた頃、俺はついに反撃に出た。
アイリに短時間だか鉄壁を張らせて、ハイマニューバを発動。
『なん、だと!? エースが消えた………どこに!?』
「隙ありぃぃぃいいいいいい!!」
『なにぃぃいい!?』
推進器で敵軍の前から消えたタキオン。
次の瞬間、ドイツ支部の壁のサイドから、タキオンは敵陣へと突入した。
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